第25話 話さない理由

 俺の能力、テレパシーは相手の脳内に直接、声を届けることができる。言い換えれば、脳に干渉することができる能力だ。それを利用すると、俺の思った通りに相手を操ることもできる。多分、これは先天性の能力者である俺にしか出来ない。ただ、これはかなり疲れるし、良いやり方ではない。できれば、やりたくない。


 でも、いざとなったら……。時刻は17時。


「焔、俺も行ってきます。何かあったら、一静に言ってください」

「一静、焔のことは頼みます」


 一静はこくりと頷く。起きていたのか、焔が体を起こして、何かを手渡す。


「これ、影に渡しておいてくれ。渡せばすぐに分かると思う」


 いつの間に作ってたのやら。赤い石を2つ受け取る。


「分かりました。では、行ってきます」

「気を付けて、ちゃんと帰ってこいよ」


 焔も少し回復したようだ。声に力が戻ってきている。


 言われた通り、影に石を渡すと、すぐに何か分かったようだった。俺には何なのか分からないけど。俺、彩予、影が瞬に触れると、一瞬で例の学校に着いた。これがテレポートか。初めて瞬間移動したな。


「それで、標的は……」

「体育館! あっちだよ」


 走って体育館に行くと、1人の少年が俺らを待つように立っていた。疑っていたわけではないが、本当に子供なんだな。


「へぇ、今度は1人増えてるんだ」


 風がふわっと頬を撫でる。体育館の窓が開いている、いや壊れているのか。空も徐々に暗くなってきている。


「俺は貴方を止めに来ました。ですが、その前に何故警察を恨んでいるのか、教えてください」

「何で? 」

「貴方の目的は知りました。ですが、理由は知りません。だから知りたいんです」


 風が徐々に強くなってくる。もしかすると、彼はまだ能力の加減ができないのかもしれない。だとしたら、かなり危険だ。俺らも、彼も。


「知ってどうするの、何かしてくれるのか」

「理由によっては、何かできるかもしれないし、できないかもしれません」


 風が台風並みに強くなっている。そろそろ限界なのか?


「これほどのことをしておいて、理由も言わないのはどうかと思いますけど」


 声を張り上げる。それでも返事はない。俺らも不本意だが、政府側の人間だ。話したくない気持ちも分かるけど。


「もし、止める気が無いなら、俺は無理にでも貴方を止めるつもりです。でも、俺はそんなことはしたくない。だから、話をしてください! 」


 風がかなり強くなってきた。もう立っているのが精一杯だ。


「言ったよな。俺の邪魔をするなら殺すってさ」


 どうやら、失敗したようだ。まぁ、分かってはいたが。やっぱり、戦うしかないのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る