第27話 少年の記憶

 ここはどこだろう。気が付くと俺は、知らない土地にいた。多分、これは夢だ。でも、こんなにはっきりとした夢を見るのは、久しぶりというか……何か夢にしては違和感がある。何だろう。


「遅くなってごめんね、あらた。行こっか」


 女性が俺に話しかける。新? 俺は奏だ。じゃあ、これは…。


「いいよ。ねぇ、お母さん。今日の夜ご飯は何? 」


 俺から聞こえた声。でも、俺の声はもっと低い。やっぱりこれは、あの少年の記憶だ。脳に干渉しすぎたせいか? もしかしたら、テレパシーを繋いだまま、気を失ったからかもしれない。理屈はよく分からない。


「そうだ、今度誕生日でしょう? プレゼントは何が良い? 」

「今度って、来月でしょ。まだ決まってないよ」


 優しく微笑む、少年のお母さん。もし、俺に母親がいたらこんな感じだったんだろうか。いや、俺はこんなに愛想よくできないだろう。


 会話を交わしながら、2人は横断歩道を渡る。信号は青、緑? まぁ、渡っても良い色だった。横断歩道に足を踏み入れた瞬間、もの凄く嫌な予感がした。渡ってはいけない。別の道から行こう。そう言おうとしても、俺の意思では声が出せなかった。


 横断歩道を半分くらい渡った時だった。こちら側に車が突っ込んできたのは。あれは、パトカーだ。避けることはできず、2人はかれた。しかし、パトカーは止まることなく、走り去っていった。


 すると、記憶はぷつりと途絶え、目の前が真っ暗になった。



「お母さん! ねぇ! お母さんは? 」


 少年、新の声と共に映像が流れ始めた。今度は、新の姿を別の視点から見るように。しかし、新の顔は何故か見えなかった。


「残念だけど、君のお母さんは……」


 医者が新に言う。彼を庇うようにして、轢かれたんだろう。それで、新は生き残った。


「何で! 何で、俺だけ……」


 新が病室のベッドに崩れおちる。「何で俺だけ生き残ったんだ」って、そう言いたいんだろう。もう、もう見たくない。そろそろ目を覚ましてもいいだろう。そんな俺の願いを無視して、映像は流れ続ける。


 新の病室に警察が入ってきて、謝罪をする。しかし、その声は彼の心に届かない。何かを話しているが、子供の彼には伝わらない。何度も謝る警察に彼は言った。


「じゃあ、お母さんを返してよ」


 そして、映像は終わった。



 ゆっくりと目を開けると、彩予と瞬が俺を覗き込んでいた。ここは、大広間か。連れて帰ってくれたんだな。


「そーちゃん! 大丈夫!? 」

「あの子は、どこにいますか」 

「あの少年は、隣でまだ眠っているよ。まだ政府を呼んだらいけない気がして」


 瞬がそう言って、隣を指さす。


「話をしないと。あの子と、話を……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る