第9話 奏の実験

「実験というか、彩予の言っていた通り、俺の能力を試してみたいんですけど……」


 副リーダー云々はもういい。それより、今まで能力を使ってこなかったから、きちんと練習しておきたい。指示が上手く出せないと困るからな。


「いいよ! どうやってする? 」

「そうですね……取り敢えず、1人ずつ繋いでいって何人まで同時にテレパシーを送れるか試して、そのまま距離をとってみてほしいです」


 ひとまずはこの2つだろう。初仕事がどんなものかは分からないが、急に実戦ってことにはならないはずだ。政府が俺らを捨て駒として見ているなら別だが、それは無いだろう。


「では、まずは焔から」


 そう言い、俺の持つ感覚を能力に向ける。集中したまま、焔に繋がるように念じていく。すると、細い糸のようなものが、焔に繋がったような感覚になる。


『聞こえてますか? 』

「き、聞こえる……」


 肩をビクッと震わせて、声で返事をした焔。直接声が頭の中に響くんだ、怖がるのも無理はない。


『いや、テレパシーで返事をしてください』

『え、あ、こうか? 聞こえてるか? 』 

『聞こえてます』


 よし、まずは1人できた。こうやって、焔に繋げたまま、彩予、一静、影と繋げていく。糸が4本伸びて、きちんと声が届いているのも確認した。


『そーちゃん、大丈夫? 辛くない? 』

『彩予、大丈夫です。むしろまだ余裕がありますね』


 ただ俺の能力は、俺と全員もしくは、俺と誰かとでしか話せない。他人同士を繋げることが出来ないのだ。だから素早く反応して、指示や情報を個人または、全員に伝えなくてはいけない。


『では、このまま全員、何処かに移動してください。移動したら何処にいるか教えてください。情報を伝える練習と、どこまで繋いでいられるかの実験です』


 「分かった」と全員が返事をし、大広間から出ていく。離れていく度に、4本の糸が長く伸びていくのを感じた。この糸が切れたら、そこが限界ということだ。最初にテレパシーを送ってきたのは、一静。


『自分の部屋にいます』

『一静、自分の部屋に到着』


 と、全員に送る。結構頭を働かせないといけないな。糖分補給に、飴を口に入れる。


『玄関前に座ってる』

『焔、玄関前に到着』

『えー、どうしよ』

『どうでもいいことを送らないでください』


 と、これは彩予にだけ送った。実戦となるとこれを素早く送り合うのか。慣れないと辛いな。


『庭の柵のギリッギリにいるっす』

『影、庭の端に到着』


 庭には外に出られないよう、電気の流れるタイプの柵がある。影はそこにいるらしい。


『庭の外灯の近くにいるよ! 』

『彩予、庭の外灯近くに到着。では大広間に戻ってきてください』


 取り敢えず、人数は問題なし。距離は正確には分からないが、100mは大丈夫と。


 全員が戻ってきたのを確認して、糸を切る。ぐったりと椅子に身を任せていると、焔が「お疲れ」と言ってくれた。


「あ、彩予さん電話鳴ってるっすよ」

「本当だ。ありがと影たん」


 影たんって何だよ。彩予がスマホを耳に当てた途端、彼の目の色が変わった。


「もしもし……って瞬さん!? 今、どこにいるんですか! 」

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