愛される為には
手袋と風船
愛される為には。
誰にも愛されないなんて嫌だと彼女が言う。
油性マジックみたいな匂いの香水をつけて。(わたしの鼻にはどうにもそんな匂いに感じるのだ。どうしても。)
どうしたの。らしくない。と言えば、この前、夢のなかで死んだのだ。と、クリスマス・キャロルみたいなことを神妙に呟いて、彼女はもう一度言った。
誰にも愛されないなんて嫌だ。と。
だから、愛されるにはどうしたら、良いのか。と。
とりあえず、始めることより、やめることの方が多いだろう。例えばその香水とか。(と、わたしは思ったのだが、実際に口には出さなかった。)
べつに彼女に気を使ったのではなく、油性マジックの匂いが、わたしのなかで、もう彼女とイコールを結んでいたから。
まだ見ぬ、これからの将来のなかで彼女を愛すであろう誰かのご機嫌をとる為に、彼女が一つ、自分のアイデンティティを失うなんて、少し嫌だった。
どうせ愛すなら、彼女の香水の趣味の悪さごと愛せよ、と思った。
わたしの場合はどうなんだろう。と考えたとき、一つ削る個性が趣味の悪い香水で済むわけがなく、その事実の途方もなさに、彼女の存在が遠くなった。
どうしたの?泣いてるの?と彼女がタバコ片手に、わたしの顔を覗き込んだ。
学校でタバコは吸っちゃあダメだよ。
と、わたしは精一杯そう言って、笑った。
もうすぐ卒業だね。と。
愛される為には 手袋と風船 @cygnusX-1
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