第8話:起死回生
東名川崎インターチェンジの出入り口に面した
対する守備隊は、人数では相手を上回るものの、多くが一般市民であり、その構成も年齢、性別ともに多様な分布を示していたため、一見するとまとまりに欠けていた。その寄せ集め部隊を統率しながら、日野、府中連隊からの進撃を食い止めるという大任には、弱冠18歳の若者があたっている。名前を牧野俊一という。まだ高校を卒業したばかりだが、生来ともいえるたぐいまれな戦闘指揮能力を小栗に見込まれ、多摩川県の守備隊の要ともいえる犬蔵バリケード守備隊長に
その戦い方は、追い詰められつつある
小栗は牧野に
その小栗は、その日はめずらしく、早朝から前線に出張っており、両隊のバリケードを一望する
やがて敵側のドローン攻撃をきっかけに戦闘がはじまった。日野、府中連隊によってリモートコントロールされた50機近いドローンがいっせいに宮前側のバリケードを飛び越えてきたのだ。そして狙いすましたようにドローンから射撃を開始した。川崎隊も要撃用ドローンを繰り出すが、動きが素早くなかなか打ち落とせない。味方の守備隊もライオットシールドで身を守りつつ果敢に応戦するが、AI照準機能を備えたドローンは相手の動きを先読みするし、ほんのわずかでもシールドから体がはみ出ると正確かつタイムリーに的を射抜くため、時間とともに味方の犠牲者が徐々に増え始めた。さらに敵のドローンはひととおり攻撃を終えると、すぐに自陣に引き上げる。そしてしばらくするとまた来襲。この攻撃パターンを何度も繰り返すため、激しい戦闘にはならないものの、味方の守備隊は気の休まる暇がなかった。
一方、敵の地上部隊は動く気配すらない。彼らはたまりかねて川崎隊がいっせいに繰り出すのを手ぐすね引いてじっと待っているのだ。そのことを牧野は承知している。うかつに敵の挑発に乗る牧野ではない。
「このまま今日は終わるかな」
小栗は徐々に朱色に染まる西の空を見つめながらやや疲れ気味につぶやいた。
「いえ、きっとなにかしかけてくるはずです」
その横で小笠原はむしろますます
その時である。敵の地上隊がバリケードから身を乗り出していっせいに銃撃をしかけてきた。それに呼応して、空中からは再びドローンが来襲した。
しかしその攻撃はおとりだった。突然の敵の襲撃に気を取られている守備隊の背後から、新手のドローン約200機が近づいていたのだ。その動きにいち早く気づいた小笠原は、無線で牧野に連絡を取ろうとした。しかし、敵の銃撃音が凄まじく、無線の着信音もドローンの機械音も打ち消してしまっているようだった。
「あれは横浜隊の最新ステルスドローンです」
小栗は思わず息をのんだ。その攻撃力については話にこそ聞いていたが、実際に見るのは初めてだった。噂では中森が米軍から極秘に入手したらしい。
すぐに小笠原は別の人間に無線連絡した。
「そう。約200、うん、いいから、すぐに来て。そう、昨日指示した場所。うん、だから、そうだって。早くして!」
と、少しいらだたしそうに無線を切った。
ステルスドローンは思惑どおりターゲットに気づかれることなくその背後まで迫りより、いっせいに速射を開始したからたまらない。
たちまち味方の守備隊は100人近くが重被弾(二発以上の被弾)し、戦線離脱を余儀なくされた。
味方は文字通り
小栗はその様子を見ながら、顔面が
「惨敗だ。小笠原くん、僕らも逃げよう」
小栗は、声がうわずっていた。
「いえ、知事代行、大丈夫です。ここから巻き返します。踏みとどまって下さい!」
「しかし——」
といって小笠原の横顔を見ると、その背後にいつのまにか見知らぬ長髪の若者が立っていた。
「君は?」
その男はノートパソコンを小脇にはさんだまま、もう一方の手でボサボサの髪をかき分けながら、
「それはですね、まあ、つまり、すなわち、私の考えでは——」
「遅いのよ。いいから、早くかたをつけて!」
と、小笠原が大声で割って入ったので、理屈っぽいその男はまだ何かいい足りない様子だったが、不承不承に首をニワトリにように前に動かした。そしてその場に座り込んでパソコンのキーボードに猛烈なスピードで打ち込んだ。
「情報システム部の堀田さんです」
と、小笠原は遅まきながら憮然とした表情のまま男の紹介を小笠原に行った。
「ってことはITの人?」
「いえ、ハッカーです」
と、小笠原はさらりと答える。
「終わりました」
堀田はまだ何かいい足りなそうだったが、小笠原は無言でうなずくとそれ以上は取りあおうとせず、無線で牧野に連絡を取った。
「完了。反撃開始」
するとステルスドローンの動きが止まった。一瞬敵味方両隊の動きも止まり、不気味な静寂があたり一帯を覆った。しかし、その静寂はすぐに怒号にも似た悲鳴によって打ちけされた。ステルスドローン全機が180度方向転換を行い、味方であるはずの日野、府中連隊への銃撃を開始したのだ。
戦闘の攻守はまるで手品でも見るように一瞬で逆転した。
ドローンに導かれるままになだれ込んだ1500人もの隊員は、突然のドローンの裏切りになにがなんだかわからぬままに大混乱に陥った。すぐに異常に気づいた日野、府中連隊のリモートパイロットが、手持ちのドローンでステルスドローンへの攻撃に転じたが、最新装備の多勢を前にしてはほとんど焼け石に水だった。さらにそこへ牧野隊が追撃をかけたため、精鋭で知られる日野、府中連隊もほぼ全滅に近い状態となり、なんとか生き延びた隊員もことごとく悲鳴を上げて潰走するありさまだった。
その状況を見渡しながら、小栗はしみじみつぶやいた。
「危なかったなあ……」
しかし小笠原はにべもなく答えた。
「大丈夫です。作戦通りですから」
小栗は小笠原の横顔をチラ見しながら、すでにその場から姿を消していた堀田という男の神がかり的な
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