34.今度こそ本当の終わり
…………――――――。
あのー
ここって、日本と同じように季節の概念がある国でしたよねぇ。
なんか、この部屋だけが北極や南極のように凍え死にそうなくらい寒い気がするのは気のせいですかねぇ。
とくに
「そうすれば私の保護も受けられるし、公の場での身分も保証できる。ここにいる面々はまだしも、彼女を利用しようとする連中だって出てくるでしょう。それに、いざとなったら“寵姫としての”忠告だって言える」
うーん、やっぱりこの雰囲気でもそれ言っちゃうんですか。
さすがは殿下というべきか。
「そうですね。殿下のおっしゃる通りで、ただ飼い殺しになるよりはよいのかと思います」
「なるほど。お前たちはミコ・ダルミアンをそれほどまでに気に入ったのか」
殿下の言葉にユリウスさんも陛下もなるほどと頷いている。
あのーもう一度聞きますが、ここは季節の概念がある国で、今はたしか暑い季節真っただ中でしたよねぇ?
だんだんと気温が下がっていく感覚に背中がぞくっとする。
「ええ。父上も彼女のことを気に入っているでしょう?」
「当たり前だろう。『国守』なんぞ、手放せるわけがない」
そうなんだよなぁ。
国から災いを守ってくれる『国守』はこの国が建国された後、いや、
それをこの国の主が欲しているのは当然だろう。
だから、私は……――――
「ちょっとお待ちください」
私が諦めかけたとき、すっと口をはさんだのは、いつもは私たちのやり取りを眺めているミミィ。アイリーンも止める気配がないから、ここは流れに身を任せよう。
「あのぉ、私には政治のこととかよくわかりませんけれど、ミコさんがもし王宮で過ごすことになったら、普段はなにをするんですか? ミコさんのことだから、きっとおとなしく待っているなんていうことはないと思うんですけれど」
えーっと、ちょっと待ったというべきだろうか。
無自覚というか、無意識なんだろうけれど、微妙にディスられているのは気のせいだろうか。
「そうね。ミコのことだから、きっとどこかから抜け出そう、なんていうことを考えてしまうかもしれないわね」
あのぅ、アイリーンさんまで、なんていうことを言うんですかねぇ。
なんか止められる雰囲気ではなくなってしまったよねぇ。もういいや。
違う意味で諦めたよ。
「ああ、サンバルダ王家は“不当な手段で監禁されている”っていう名目で彼女を招聘してしまうかも」
アイリーンの言葉にユリウスさん以外のお偉方は真っ青になっている。
まあ、そうか。
「待ってください。我々は別に不当な手段を講じているつもりもありませんが」
彼女に反論したのはユリウスさん。
うーん、なんかこのタイミングでそれって、少しだけ違和感があるのは気のせいだろうか。
反論されたはずのアイリーンもそれに気づいたようだ。
「ええ、あなたたちにとってみればね。でも、本人はどうかしら? 彼女が望むならば別ですけれど、もし嫌がるのにもかかわらず、強行するようならば、
でも、それを押し隠して、反論に反論を重ねる。
「それはサンバルダの
国王陛下の言葉に思いだした。エルフの国の王族。それはアイリーンのことか。
魔王と話していたときに違和感を覚えたのはそれだけれど、それにツッコんでいる余裕はない。
「両方ですわ。サンバルダの王族としても、ミコ・ダルミアンの
国の長からの質問に即答するアイリーン。
私は素直に嬉しくて、今は心の中だけで感謝した。あとからなにかきちんと言葉にしよう。
「ちなみにミコ殿はどう思うか? 殿下の側室になる気はあるか」
宰相さんが今度は私に向けて尋ねてくる。でも、答えは決まっている。
「ありません」
だって、せっかくジェイドさんと互いに好きだってわかったんだよ? この国の制度がどういう風なのか知らないけれど、私の知っている“側室”って、ずっとその人と結婚しなきゃいけないんでしょ? そんなのに
私の答えを聞いたジェイドさんが私の手をぎゅっと握ってきたので、私もしっかりと握り返した。
「私には好きな人がいます。その人と結婚できるかどうかはわかりませんが、少なくともその人は私の
だからこそ、その人に応えたいんです。
私の言葉に全員がこちらを見る。
陛下も宰相さんもユリウスさんもエリックさんも、彼にそっくりなおじさまも、そして、この話題を振ったニコラス殿下も全員、私をしっかり見ている。
怖いよぉ。
「次期国王の命令であってもか?」
国王陛下は静かに私に問いかける。それにもためらわなかった。
はい。
「もしここで殺されるのだとしても、私はその人ために、いいえ、私自身のために嘘はつけません」
私はわかっていた。
これが俗にいう不敬罪にあたることを。
だから、この場で首をはねられてもいいものであるとも。
でも、この場ではそれをしないようだ。
ただ一同、沈黙するだけだった。
「わかったよ。その男のためにも、身を引こう。奴に殺されてはかなわないからな」
一番立ち直りが早かったニコラス殿下は、ウィンクしながらそういう。
どうやら私が好きな人に心当たりがあるらしい。
彼の言葉を皮切りに、国王陛下たちも次々にあきらめたように肩を竦める。ほっとしたのもつかの間、陛下が最後にと私に質問してきた。
「しかし、その男というのはそなたの想いを知っているのか?」
ですよねぇ。
いくら私は好きでもその人が首を縦に振っていなければ、殿下との縁談を断った意味がなくなるからね。
「は……――――」
「ええ、知っていますし、その男もだれよりもずっと彼女のことを愛してます。なので、できればそうですねぇ。彼女に殿下の側室にかわるぐらいの地位と、その男にも騎士団の下っ端程度の地位をいただけませんでしょうか」
私の言葉をさえぎってまでジェイドさんはそう言う。しっかりと私の腰に手をまわして、見せつけるようにしてね!
その光景に陛下は目を細め、ニコラス殿下はにやりと笑い、ユリウスさんも軽く頷いている。
あれ、意外と反発食らわなかったんですけれど。
こういった希少スキル保持者同士の結婚ってアリなんですね。
「ギガンティア様、彼と同じように私もそう思います。そうですね。今後一切のギルドの護りを免除する代わりに、
ジェイドさんの兄であるユリウスさんがそう進言してくれた。
うーむ。
はたから見れば罰のように見えるけれど、ジェイドさんにとってはまったく罰になってないんじゃないですかね?
「ユリウス、それは甘くないか?」
ニコラス殿下もそれを感じたのか、あきれたように言うが、宰相補佐殿には響いていないようだ。
「いいえ? 愚弟にとっては十分すぎるくらいの重荷でしょう」
そう言ってにやりと笑うっていることからも、ユリウスさんが本気で祝福してくれているようにみえる。
「……ユリウスもたいがい甘いな」
ニコラス殿下にそうつぶやかれたユリウスさんは失礼ですねとうっとうしそうに言うが、だれもそれを肯定する人間はいなかった。
「わかったわかった。では、ジェイド・ユグレインを特別護衛官に任ずる。彼女をしっかりと守れ」
どうやらこういった任命権は殿下にあるようで、国王陛下に目線だけで事後承諾をとっていた。
はい、当然です。
殿下の言葉に当たり前だろうという不遜な態度をとるジェイドさん。それに咳払いして注意するユリウスさんだけれど、指摘しないあたり、やはり甘い。
「そして、ミコ・ダルミアン。お前を終身王宮浄化師に任命し、各地の魔物に関する定期報告と継続的な魔物の浄化任務をしろ」
私も承知いたしましたと頭を下げる。
「二人とも希少スキルを持ってるから、スキルの使用には監視がつくが、これは今まで通りだから問題ないな?」
最後にそう言われたけれど、まったくもってその通り。
私たちはだれの目を気にせずに過ごせる。
これ以上のご褒美はないだろう。
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