33.一件落着っていうわけにはいかないらしい
今日は遅いから明日の朝、アイリーンたちに説明の場を設けてもらうことになり、ひとまず与えてもらった部屋に戻ることになった。
私たちに与えてもらったのは警備の厚い王族居住区域の近く。
ジェイドさんと二人、無言で並んで歩いていると突然、立ち止まって私のほうをじっと見てきた。
「なんでしょうか」
私は早く寝たいなぁと思っているけれど、なぜかそれを許してくれなさそうな雰囲気がある。
「大丈夫か」
それはなにに対する問いかけなんだろうか。
私の体調は、見えない部分まですでに大丈夫だということを証明してもらっている。だとすると……――――まさか、国に管理されること、だろうねぇ。
「大丈夫じゃないって言ったら、どうしてくれます?」
「お前をかっさらって、どこかへ行く」
冗談めかして言ってみたけれど、ジェイドさんはいたって真剣な目をしている。青い瞳がより深くなったような気がした。
「本当ですか」
「本当だ」
もし本当なら嬉しい。
だって、あのミドリウサギから救ってくれた命の恩人だよ?
そんな人に一生守ってもらえるなら、私は嬉しいに決まっているじゃないか!!
「……それ、嘘ですよね? でも、そう言ってくれるだけでも、嬉しいです」
でも、そんなに現実は甘くないのも知っている。
ジェイドさんは貴族で、Sランクのスキル『魔法壁』の持ち主。次のギルド守護任務だってあるだろう。
私の考えに対して、ジェイドさんは傷ついた大型犬の目をした。えっと、なにかまずいことでも言いましたかね?
「そんなに信用、いや、信頼できないか」
「信用してますよ?」
なにをこの人は言っているのだろうか。
今までだって、ずっとあなたに守ってもらったんですよ?
「だったら、信頼して欲しい」
それでもその言葉を信用してもらえないようで、私の肩をしっかりとつかむジェイドさん。どうしたんですか?
「なにを担保に言えるんですか?」
「そうだな、お前を助けに行ったことではだめか?」
そこまで言う根拠が欲しいと言うと、ジェイドさんは即座に返してきた。
でも、私にはそれの意味がわからなかった。どうしてそれが私の“信頼”につながるんだろうか。
「お前の魔力は自然と中和していたせいで影響はなかったが、魔王城は、いや魔王が根城としているところは基本的に人が立ち入ることは無理だ。そんなお前をわざわざ助けに行った理由はなんだかわかるか」
「それは……『ラテテイ』のメンバーだからじゃないんですか……?」
「馬鹿か」
ジェイドさんが私を助けに来てくれた理由なんて、それ以外には考えつかなかった。でも、彼はそれを否定して、私の両頬をつねる。
地味に痛い。
「お前のことがほっとけなかったんだ。心配でいてもたってもいられなかったんだ」
そう言ったジェイドさんの少し顔は赤い。
でも、彼の方から目をそらすことはなかった。だから、本当なのだろうと信じ――――たい。
「最初からそうだった。防衛手段もないのにミドリウサギに立ち向かおうなんて、ほっとけなかったし、魔物の『洗浄』のときだってそう。ずっとお前を守りたかったんだ」
ジェイドさんの告白に恥ずかしくなった私は、だれかいないか心配になったけれど、それを確認させてくれる物理的な余裕はなかった。
「だから、あの宿でお前が消えたっていうことを知ったとき、本当に焦った。エリックに頼んで情報収集をしてお前が魔王城に捕らわれていることを知ったとき、絶対に連れもどしてやるって決めて向かった」
その言葉は一語一語、かみしめながら言われ、私はそこまで心配してくれたのだともう一度嬉しくなった。
ええい、こうなったら、何度でも嬉しくなってやろうじゃないか!!
「でも、一人じゃなにもできなかった。途中で魔物の群に襲われた。でも、レオンやエリックが手助けしてくれたし、なによりお前が一人で魔王に捕らわれていることを思えば、諦めるわけにはいかなかった」
お前の傍でずっと守らせてほしい。
最後に私の真正面からそう言ったジェイドさんはかっこよかった。今まで、
「たとえそれが王命に背くものだろうとも、知ったこっちゃない」
ジェイドさんのその宣言は国にケンカを売るものだった。でも、この人ならば、それさえも勝ってしまいそう。
嬉しいですと思わず呟いた私の言葉を聞き逃してしまったのか、え?という表情するジェイドさん。ちょっと抜けている部分も含めて、好きです。
「そこまで考えてくれていたなんて嬉しかったです、と言いました」
私がもう一度、はっきりというと、ジェイドさんはほっとしているようだった。まあ、一世一代の告白をしたはいいけれど、フラれちゃ意味ないもんね。
「そうか……ちなみに、お前は俺のことどう思っているのか、聞いてもいいか」
ジェイドさんは恐る恐る聞いてきて、私にはそれだけジェイドさんが本気なのが伝わってくる。
「そうですね」
今までやられっぱなしだ。
だから、ジェイドさんを舌先三寸でだましてやってもいい――――けれど、やめた。もしこれから一緒に生きていくのならば、だますのはよくない。
「好きです」
私の一世一代の告白にジェイドさんは息をのんだ。
「私、損得抜きで男性に親切にされたのってはじめてなんですよ」
生まれてからの十五年間の村の男性も優しかったけれど、それは
だから、私たちは基本的に男性を信じることはなかったのだ。
「ミドリウサギから守ってくれたとき、すんごく嬉しかったんですし、私たちのパーティに入ってくれるって言われたときも嬉しかったんです。でも、その好意にいつまでも甘えていいのかわからなくて」
でも、ジェイドさんだけは違った。
違うか。
ジェイドさんが紹介してくれる人はいい人たち
魔王だって、あんなことは言っていたけれど、でも、私を心配してくれたこともあったからね。
それでも、ジェイドさんは別格だけれど。
「離宮で詠唱訓練のときに教えてくれるって言われたときも、エリックさんには申し訳ないけれど、エリックさんが来なくて良かったと思ったんです。各地を回ったときもずっと守ってくれて嬉しかったんです」
「なにより魔王城に迎えにきてくれたのもジェイドさんで嬉しかったんですよ」
私はなにも返すことができない。だから、精一杯、心を込めて言葉を返すと、ジェイドはにっこりと微笑んでくれた。
うう、
「そうか、じゃあ、俺たちは気づかなかったんだな」
そんなところですかねぇ。
ジェイドさんに身を任せていた。頭をなでるその手に、今までと別の意味が含まれるような気がしたのは私だけではないだろう。
私が落ち着くと、とりあえずゆっくり寝ようかと優しく手を引っ張ってくれた。
やっぱりあなたは魂までイケメンですね。
翌朝。
アイリーンとミミィを加えた総勢十五人弱が昨日の広間に、二人以外はまったく同じ配置で並んでいた。二人を安心させるためにもう一度魔王討伐の説明をした後、本題の私のスキルについて彼女たちに言うと、ミミィは純粋に驚いていた。けれど、アイリーンはこうなることを知っていたかのような複雑な表情をしていた。
やっぱり森の賢者(知識)は気づいていたか。
部屋に沈黙が落ちた後、ニコラス殿下が提案があるんだがと切りだした。
全員の視線が殿下に向くが、びくともしないニコラス殿下殿。さすがでござる。
「ミコ・ダルミアン、私の側室となれ」
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