第24話
「キャアァァァ・・・‼︎」
うら若き乙女の悲鳴が響き渡り、草花を伝う朝露が震える。
「・・・」
「ふぅ〜・・・」
声を失い地面へと崩れ落ちた乙女を見下ろしながら、白は大きく息を吐く。
「今日の朝活はこの位にするかな」
その身を朝靄で潤しながら、軽い口調で物騒な台詞を吐いた白。
「その前に・・・」
皆の待つ元へ帰る前に、乙女の元へと膝をついた白。
そこには美しい乙女の姿を持つモンスター、水の精霊『クフシーンカ』達の亡骸が転がっていた。
「う〜ん、ハズレか・・・」
クフシーンカのドロップアイテムの中では最下位の『水の結晶』を拾い、少し毒づく白。
言葉を失ったクフシーンカは、不満の声を上げる事も出来ず、静かに霧散していった。
「相変わらず、精が出ますね」
「ん?あぁ、結さん」
「また、一人で・・・、ですか」
「・・・」
最近は結とグレイスとのパーティ活動にも協力的だったが、ソロでの訓練も怠る訳にはいかず、物騒な朝活は欠かさず行っていた白。
結としては白からの歩みよりは感じていた為、強く言う事も出来ず、しかし、僅かでも不満は示しておきたくての発言だった。
「私も初めてみましょうか?」
「え?何をですか?」
「・・・ソロです」
「・・・」
結の言葉に、恍けてみせた白だったが、結はそんな白の考えに気付いた様に、僅かに間を置きながらも、しっかりと白を追い詰めた。
「それは、おすすめしませんね」
僅かな間では当たりを引く事が出来ず、決して上手くは無い返しをした白。
「おすすめですか?」
「・・・⁈」
軽く膝を曲げ、そんな白を見上げる姿勢で距離も詰める結に、決して女性慣れしてない白は体を強張らせてしまう。
「・・・」
「・・・」
「ゆ、結さん」
白を無言で見上げる結。
中性的とはいえ、美人といって差し支えない結に、そんな風な態度をとられ、静寂の間に直ぐに耐えられなくなってしまった白は、意味もなくその名を洩らした。
「まあ・・・、良いですねどね」
「・・・」
「そろそろ、朝食にしましょう?」
「は、はぁ・・・」
動揺する白をよそに、結は何でもない風に白から距離をとり、特段不満を述べる事も無く、話題を変えたのだった。
「あむあむ」
「・・・」
「う〜ん、美味」
「そ、そうか?」
「うん!」
その見た目には似合わぬ、幼子の様な食事の作法と満面の笑みを見せるグレイス。
「本当にグレイスは稲荷が好きですね」
「うん、お姉様!」
「やっぱり、狐だからかしら?」
「狐・・・、だから?」
「え?」
「結さん」
「どうかしましたか?」
「ここでは、狐=お稲荷様は通じませんよ」
「あ・・・、そうでした」
「・・・」
職務に忠実な結でさえも、既にゲームと現実の世界の混同はかなり進み。
当然の様に現実世界の常識をこちら側へと持ち込む状況。
「ねえ、お姉様。どうして?」
「え、ええ、そうねぇ・・・」
「・・・」
食いさがるグレイスと対応に窮す結。
そんな、平和な二人を眺めながらも、白の心には一抹の、しかし、確かに深い不安がよぎった。
それに合わせる様に・・・。
「ん?」「アキラさん・・・!え?」
「あぁ、すいません。通信です」
「ちょ・・・!」
「すいません。お任せします」
食いさがるグレイスの対応に、白の助けを求め様とした結。
しかし、丁度届いた通信に好都合とばかりに、白は食事の席を立ったのだった。
(ナイスタイミング、ケン)
心の中で、この世界で出来た唯一の友と言える存在への礼を述べ、その流れで通信を開いた白。
「っ⁈」
しかし、直前に心の中で軽口を述べたとは思えない程、狼狽を隠せない表情の白が居た。
「・・・、雪」
表情だけはなんともいえず、しかし、その立ち姿はまるでフリーズしたかの様に固まり、呻き声さえも発せられない白。
一分には満たず、しかし、白には永遠にも感じられた時間を経て、やっと絞り出した一声。
それは、白の親友の名。
《五日後、『ジャードノチス』で待つ》
待ちに待った親友からの便りは、あまりに一方的で、簡潔なものなのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます