第23話
「えーーー!どういう事ですか⁈」
此処はラードゥガでの白達の住処の食卓。
食後のお茶を飲みながら、話していた白達だったが、白からの突然の発言に、結は席を立ち上がり非難染みた声を上げた。
「どうもなにも、言ったままの意味ですよ」
再び結に心を閉ざした様な態度を取る白だったが、その内心は今までのものとは少し違い。
「あのダンジョンに潜るのは今日で最後です」
しかし、発言の内容は有無を言わさぬものだった。
「まだ、調査は始めたばかりですよ」
「えぇ、時間的には」
「時間的にはって・・・」
「確かに一月と潜らなかったですけど、もう十分な結果は出ましたので」
「・・・」
淡々と事実だけ述べる白に、結はどう不満を述べるか言葉を探すが・・・。
「とにかく、明日以降は別の街への移動の旅を開始します」
それを見つける前に、白は予定だけを告げたのだった。
「それで、目星は決めてるのか?」
「あぁ」
特殊な事情があったとはいえ、白に付き合う形で、このラードゥガへと移転したケン。
しかし、今回も特に文句は言わず、白の意向に従う姿勢を見せる。
「ちょっと、ケンさん!」
「まあまあ、落ち着いて結さんや」
「っ・・・!」
言い方はともかく、少しは白に反対してくれると期待していたケンの態度に、身を乗り出した結だったが、ケンは少しふざけた態度でそれに応え、結は美しい肌に勿体ない皺を寄せる。
「それで?」
「先ずは『カナール』に向かおうと思っている」
「ほお・・・」
白の告げた目的地に、納得した様に頷いたケン。
カナールとはこのラードゥガからかなり東に向かった先にある街で、外海への門である『タヴァールイ運河』のある街なのだった。
「確かに、物も情報も集まる街だろうな」
「あぁ、移動範囲も広げられるからな」
「それじゃあ、準備を・・・」
「いや、必要ない」
既に出発する気の白に、即準備で応え様としたケンだったが、白からは意外な応えが返って来たのだった。
「どういう事だ?」
「どういう事も、付いて来なくて大丈夫だ」
「おい!」
「待って、ケンさん」
「っ・・・!」
それじゃあ話が違うと、白へと掴み掛からんばかりの勢いで立ち上がるケンだったが、アオイに止められ、何とか踏み止まる。
「落ち着け、ケン」
「ぅ・・・!」
誰のせいだと言いたくなる白の発言に、踏み止まった勢いを再び取り戻しそうになるケンだったが、白の発言には続きがあり・・・。
「拠点を移すつもりは無い」
「ん?」
淡々と述べる白に、不自然な事を聞いた様に何とも言えない、しかし、毒気の抜かれた表情になるケン。
「じゃあ?」
「旅に出るのは俺とグレイス、そして結さんだけだ」
「ええーーー!」
「ごきゅごきゅ?」
今日一日中、共にダンジョンに潜っていたが、白から一切の意見も聞かれていなかった二人。
しかし、白の決定事項と言わんばかりの発言に、結は驚愕の表情を浮かべ、グレイスはフルーツオーレを飲みながら、小首を傾げて見せたのだった。
「ちょ、ちょっとアキラさん!」
「はい?」
「どういう事ですか⁈」
「あぁ、ちゃんと報告しておいて下さいね」
「ちょ、ちょ・・・」
白は結に説明するつもりは無いと、組織への報告だけを指示する。
「でも、アキラ」
「何だ?」
「拠点を移さないって・・・?」
「ん?あぁ・・・、此処は治安が良いからな」
「お、おお・・・」
現状、カフチェークでトップレベルで治安の悪いリメースリニクからこのラードゥガへと移り住んだ為、白の発言には納得しか無いケン。
「ワープクリスタルの登録に向かおうと思ってな」
「ああ、なるほどな」
主題を告げない白が悪いのだが、ようやく納得のいったケンは、続けていた中腰をやめ、席へとしっかりと腰を下ろした。
「何だ?慌ててたみたいだけど?」
「お前が急に必要ないなんて言うから・・・」
そんな落ち着きを取り戻したケンに対して、若干の天然の気があるかの様な発言をする白に、少しいじけた様な視線を向けるケン。
そんなケンに白は・・・。
「あぁ、そういう事か」
「・・・」
「お前が必要ない訳無いだろ?俺の相棒を任せれるのは、ケンしかいないよ」
「っ・・・!」
最高の口説き文句で誤解を解いたのだった。
「お、おう!当然だ!」
「あぁ」
「ふふふ」
分かり合う様に頷き合う二人を眺め、幸せそうな表情を浮かべたアオイ。
「ちょっと」
「え?どうかしましたか?」
「そんな、三人で楽しまないで下さい」
「別に楽しんでは無いですけど?」
「はぁ〜・・・」
勝手に話を進める三人を、現実へと引き戻す様な口調で声を掛ける結。
そんな結に対しても、この場で最も勝手な事を言う白は、どうとでも無いという態度で応え、結は呆れた様に溜息を漏らす。
「それで?」
「え?」
「え?では無くて、何の為にそのカナールへ向かうんですか?」
少なくとも、今日ダンジョン探索中には、昨日の空気を少し引き摺っている様だった白。
それが、帰宅した途端にこの傍若無人振りと、情緒を疑う男の真意を知りたいと、その双眸の線を少しも逸らす事無く問い掛ける結。
「当然・・・」
「・・・」
「このゲームをクリアする為ですよ」
「っ⁈」
重なった線は少しも振れず、その底に一片の曇り無く答えた白に、結の方が動揺を隠せず、自らその線を切ってしまう。
「それ以外に何があるんですか?」
そんな結に構わず、白は極々自然に抑揚無く続ける。
「そんな事あな・・・、っ」
逸らした線を自身の足下へと伸ばし、途中にある拳を握り震わせながら、悔しさを漏らす。
「・・・」
しかし、白はというと結の言いたい事を理解しながら、無言でお茶を啜る。
「とにかく、出発は早いに越した事はないので、今日戻ったら直ぐに許可を得て下さい」
「・・・」
「アオイさん」
「何ですか、アキラさん?」
「グレイスの荷物の準備をお願い出来ますか?」
「そうですね、確かに一週間位は見た方が良いですもんね。分かりました」
「お願いします」
反応を示さぬ結も、反対はしないだろうと話を進める白。
「お願い、アオイ」
「ふふふ、はい」
白に続く様に頭を下げたグレイスに、アオイは顔を綻ばせながら、その頭を撫でてやったのだった。
「今日は野宿になるんでしょうか?」
「えぇ。今日というより、4〜5日位ですけど」
「そうですか・・・」
「キャンプなの?」
「あぁ」
かなり文句を言っていた結だったが、結局、外出手続きを手早く済ませ、白とグレイスと共に、ケンとアオイの見送りを受け旅に出たのだった。
「ですけど・・・」
「ん?」
「どうして、カナールなのですか?」
納得はしてないが、同僚達からカナールの情報を得て、それでもゲームクリアと関係する様なものは得られなかった結。
白の考えを理解する事が出来ず、その真意を判断したいと思っていた。
「一番は経験値集めですよ」
「それは、聞きました。ラードゥガ周辺よりモンスターも強く、得られる経験値は多いと、でも・・・」
「えぇ。単純にそれだけを目的とするなら、他を選択した方が良いでしょうね」
「では・・・」
「総合的に考えてですよ」
白がカナールを選んだ理由は、周辺のモンスターの傾向にあり、周辺には中々強力な水魔法を使用するが、攻撃力という意味ではいまいちなモンスターが生息しており、虹霓の闇衣装を得た白からすれば、それ等は格好の餌食なのだった。
(それに、その先には他の装備も・・・)
「総合的の部分をですね・・・」
「え?」
「もっと、ちゃんと説明して下さい」
一人、別の事を考え始めた白の思考に割って入る結の声。
「カナール自体が商業的に栄えていますし、アイテムももう一段上の物を手に入れられます。それに、タヴァールイ運河の先には、多くの街もありますしね」
「アイテムですか・・・」
「そうです。現在手持ちの回復アイテムは最下層の物が殆どです。カナールでは値は張りますが、中位の物を市販で買えるですよ」
「でも、私の回復魔法だって・・・」
「魔法は詠唱の時間もあります。勿論、深い傷を治せる高位なものになれば、より長い時間がね」
「・・・」
「それに、今までは第五位のモンスターとの戦闘が多かったですけど、第三位になれば魔法を封じるスキルを持つモンスターも出てきます」
「魔法を封じる・・・」
「えぇ。勿論、それに掛からず、傷も負わないのが最良ですけど、そんなに簡単にはいかないですから」
「そうですか・・・。分かりました」
白が多くの話を省いていたのもあるが、やっと納得した様子を見せた結。
(まぁ、ゲームに付いての知識が少ないのも有るんだろうけど・・・)
白がカナールへ向かうと言い出した時、勘違いで初め不満を示したケンだったが、誤解が解けると理由は聞かずとも狙いは理解したケンとアオイ。
「折角ですから・・・」
「何ですか?」
「この旅の間、カフチェークのシステムを改めて話しておきましょう」
「え?」
「嫌でしたか?」
行動を共にする以上、ゲームに付いても必要な知識を得て貰おうとした白。
しかし、結がそのキリッとした瞳を丸くする様子に、不味い事でも言ったかと、少し尻込みしてしまう。
「いえ、嫌じゃないです!」
「そ、そうですか・・・」
「ええ‼︎」
一瞬の溜めから、爆発した様に身を乗り出して来た結に、白は勢いに押される様に後退りしてしまう。
「グレイスも聞くよ」
「ええ、そうですねグレイス」
索敵に集中していたグレイスも、結の様子に話に加わり・・・。
「そうですね、先ずは・・・」
そこから、カナールへの道すがら、白のカフチェークレクチャーが行われたのだった。
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