第22話


「・・・」


 白と光夫のやり取りを、爬虫類系特有の感情無い瞳で見つめていたソーム。

 二人が重なり、その上から自身の指示を出したチェールヴィ達が覆う方へと、無機質にその腕を伸ばすと、柔らかく指し示す指先、一粒の砂程の光が生じ・・・、刹那。


「・・・」


 その一粒が破裂する様に広がり、稲光が瞬きを許さぬ速度で空気を駆け抜け・・・。


「ジィィィーーー‼︎」


 自身の指示を出したチェールヴィ達と敵である白、光夫の築いた山へと着弾し、チェールヴィ達の断末魔の不快音が辺りに響いた。


「・・・」

「ジィィィ・・・」


 それを無感情に見据えるソームは、自身の一団と化したチェールヴィ達に、同族の亡骸を取り囲む様に指示を出す。


「・・・」


 そのままの流れで再び腕を伸ばし、再詠唱可能を待つソーム。


「気付いていたか・・・」

「ジッ⁈」


 チェールヴィ達の亡骸が崩れ、山崩れの中から生まれ出た男の声に、チェールヴィ達はソームより余程人に近い反応を示す。


「・・・」

「もう、無駄だ・・・」


 白の無事を確認し、先程放った魔法では無く、別の魔法を選択し、詠唱を開始したソーム。

 しかし、白はその光景にも慌てる様子は見せず、ウプイーリを取り出し構える。


「お前の負けだ・・・」


 決して不遜を感じさせない様子で、無感情に告げる白。

 その身は七色の光を底に秘めた、底の見えない闇色の外套に包まれていたのだった。



「ジ・・・、ジィィィーーー‼︎」

「・・・」


 数十は居たであろうチェールヴィ達の最後の一匹の最期の音。

 それを色のを失った瞳で聞き流した白。

 チェールヴィ達を仕留めるまで五分と掛からなかったが、ただただ狩られる対象となった彼等にすれば、それは惨殺の運命を受け入れる永遠にも近い地獄の時間だっただろう。


「・・・」

「?@#?D」


 チェールヴィ達を片付け終え、隙を示す様に自身へと迫る白に、ソームは声とは違う解析出来ないシステム音を漏らす。


「言ったろ?無駄なんだよ」


 頬を伝うチェールヴィの返り血を拭いながらソームとゆったりと歩を進める白。


「・・・」


 ソームはそんな白へとラヴーシュカを放ったが・・・。


「・・・」

「・・・⁈」


 白の足下まで伸びた雷色の蜘蛛の巣。

 しかし、それは白を捕らえる事は出来ず、その身に纏う深淵の底へと飲み込まれていった。


「・・・」

「⁈⁈⁈」


 白はそのままソームへと歩み・・・、やがて眼前。

 未だ真紅に染まるウプイーリの刃を無造作に振り上げた白に、初めて表情らしきものを示したソームだったが・・・、刹那。


「・・・」

「ッッッーーー‼︎」


 振り下ろされた真紅は終わりを告げる無常の色。

 ソームのHPゲージはオーバーキルを示す様に、瞬きの間も無く消失してしまったのだった。


「・・・」


 崩れ落ちたソームを無感情に見下ろしたのも数泊の間。

 白は直ぐに振り返り、崩れたチェールヴィの山へと向かう。


「・・・」


 欠片程の生命も示さぬ光夫の亡骸を起こし、責めてもの遺品にと剣と、それで髪を切った白。


「すいません・・・、ソロなんで」


 互いに好んだ状況を理由を、答えを返せぬ光夫へと述べた白。


「帰る・・・、か」


 自身の足とは思えぬ程に重いそれを、引き摺る様にラードゥガへと歩み出したのだった。



「・・・」


 ラードゥガへの道すがら。

 チェールヴィへの惨殺を思い返し、過去の日へと想いを馳せる白。


「あの日もそうだったな・・・」


 今日、自身が行ったのと同じそれを、自身が受けた遠い過去の日。

 最初は軽い気持ちの特殊スキルであった。

 サークルのメンバー達にゲーム参加に際して、自分達で作ったゲームを楽しむ術として、最強の能力を求められた白。

 メンバーの望む能力を与える時に、自身も結末を知る世界での遊びとして選んだスキル。

 それは、多くのゲームで最強クラスの能力を持ちながら、呪われた装備として使用する事の出来ない装備。

 そんな装備を身に纏い、呪いのペナルティを受けない最強キャラとして自身の創った世界を生きる。

 そんな子供染みた遊びだったのだが・・・。


「越えてはいけないラインはある・・・」


 佐藤誠は偽りで得た最強のプレイヤーである事をいい事に、リアルでカフチェークのプレイヤーの女子に手を出し、他のサークルメンバーもいつからか偽りの力を勘違いし出し・・・、やがて白も・・・。


「俺だって佐藤の事をとやかく言える立場では無いしな・・・」


 誠の様にリアルでとういう事は無かった白だったが、偽りの力で得た尊敬を一切勘違いしてなかったかといえば、そう自身で言い切れるものも無く、やがて終わりの日がやって来る。


「・・・」


 その日、ある場所へと集められたイスカーチェリのメンバー達。


「俺が何をしたってんだ‼︎」


 白のヘッドフォン越しに、虚しく響き渡る誠の叫び声も・・・。


「うるせぇっ‼︎」

「そうだ!汚いチート連中が‼︎」

「そうよ‼︎」


 多くの一般プレイヤー達がイスカーチェリのメンバーを取り囲み上げる、ボイスチャットでの罵声に飲み込まれていく。


「・・・」


 不満を示すのは誠だけ、ある意味覚悟はしていた他のイスカーチェリのメンバー達。

 結果はどうであれ、最初は間違い無くゲームを愛し、カフチェークの世界を創ったメンバー達であり、彼等は静かに終わりの刻を待っていたのだった。


「そして、始まったんだよな・・・」


 一人抵抗する誠と無抵抗のメンバー達にありとあらゆる罵声を浴びせながらの虐殺。

 数時間に渡り続くそれを、贖罪としてモニター前で眺め続けたイスカーチェリのメンバー達。

 その日をもって、カフチェークの世界は終わり、イスカーチェリは解散したのだった。


「まぁ、イスカーチェリ自体は既にバラバラだったがな・・・」


 メンバーも誠は特殊としても、其々の行いに対して思うところはあり、他者のそれを自身のそれより重く見るという・・・、人間関係のそれによるものも大きかったのだった。


「そんな時でもお前はお前だったよな・・・」


 そんな中、何とか冷静にその日別れた雪へと思いを馳せる白。


「いい加減に連絡しろよな」


 カフチェークのメール機能を開き、そんな愚痴を溢した白。


「着いたか・・・」


 いつの間にかダンジョンの入り口へと辿り着いていた白。


「・・・」


 視線の先、空へと架かる虹を一瞥後・・・。


「本当にごめんなさい・・・。そして、ありがとうございました」


 ダンジョンを振り返り、もう一度光夫へと謝罪と礼を述べたのだった。



「あ、戻ったんですね」

「あぁ、結さん・・・。来てたんですね」

「ええ」

「おかえり」

「ただいま、グレイス」


 ケンの作業場の入り口。

 花壇の手入れをしていた結とグレイスに迎えられた白。

 

「遅かったので、心配していのですよ」

「そうでしたか、すいません」

「本当に思っているんですか?」

「・・・」


 置いていかれた事の不満を隠さず、白にキツく当たる結。

 しかし、陰湿でも無く、ある意味日常へと引き戻してくれるそれに、白は気にした様子もなく・・・。


「すいません」

「え?」

「心配を掛けてしまって」

「ええーーー⁈」


 謝罪を述べると、結はそこまで驚かなくて良いだろうという位、動揺した様子を見せたのだった。


「どうかしましたか?」

「いえ、それは此方の台詞ですよ」

「え?」

「そんな、素直なアキラさんなんて変ですから」


 あんまりだろうという位の事を、素直に口にした結。

 そこには一切の悪気も嫌味も無く、純粋な驚きだけが表情から白にも伝わったのだった。


「・・・」

「本当にどうかしましたか?」

「・・・いえ」

「・・・」

「何でもありませんよ」

「そうですか・・・」


 何でも無い事は無いと結にも分かったが、現在の自分と白の距離は理解している為、それ以上ツッコむ事はせず・・・。


「今日は早く休んだ方が良いですよ」


 寝れば人間ある程度冷静になれるものと、白へと休憩を勧めた・・・。


「明日は早いのですから」


 勿論、明日の同行予約は忘れずにだ。


「えぇ」


 そんな結の気遣いを理解し、白も素直にそれに応えたのだった。

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