Nemesiss Code 幕間

@Rruon

第1話

MAGUSの一件から数日後


【ザフト地区  とあるリージョンにて】


「…さて……そろそろ集まったかな…」

そう呟きながら、黒髪の青年は椅子から立ち上がった。

「めったにしない会議だし…みんな集まってるよね…?…心配だ…」

はぁ、と溜息をつきながら扉へ向かう。

この男の名は『ルオン』。

ある時突然失踪した、育ての親である科学者を探しに、各地を旅している青年である。

現在はザフト地区に拠点を構えている。

「特にヴァース…あいつ最近は言うこと聞くようになったけど……ん〜…」

心配事を口にしながら扉を開けると、そこには2人の男女が立っていた。

「おはようございます、ルオン。もう皆集まってます」

魔法使いのような出立の男が挨拶をしながらそう話した。

「おはよ…ぅえ!?ヴァースも来てるの!?よかったぁ〜」

ルオンは驚きつつも安堵していると

「来てるって言うより、持ってこられた、の方が合ってそうだけどね?」

刀を持った女性がそう言いながら後ろの方へ目を向けると、そこには一体の傷ついたサイボーグが横たわり、傍に黒衣の男が立っていた。

「…なるほどね……シュヴァルが持っ…連れてきてくれたんだね…それにしてもどうしてヴァースはそんな状態に?」

「あぁ…そのことに関しては後で話す、まぁ大したことじゃ無い」

ルオンは黒衣の男に質問をしていると

「やっほ〜!ルオン久しぶり〜!」

ルオンの心配をよそに、横たわったサイボーグは呑気に挨拶をした。

「ははは…ヴァースは相変わらずだね…シュヴァルも元気そうでなによりだよ…」

ルオンは苦笑しつつ2人へ挨拶をする。

「グラウは集合時間のきっちり1時間前からいたわ。なんなら部屋の準備もしてたわよ。」

「もう…さすがだなぁ……後でお礼言っておかなきゃ…」

「いいのよお礼なんて、あの子は好きでやってるんだから」

刀を持った女性、フローと他愛もない会話をしていると

「そろそろ始めましょうか、グラウを待たせてい

ることですし…それにお土産もありますしね」

魔法使いのような男、ロッドがそう纏め、皆部屋を後にした。



「さぁ!これより近況報告を兼ねた会議を始めるよ!」

大きな円卓を取り囲むようにして6人が座っている中、ルオンがそう宣言した。

それに対してまばらな拍手や、「お〜」と気の抜けた返事が反応としてあった。

「まずはさっきから気になってた、ヴァースについてなんだけど…どうしてそんな状態に?」

「それについては私から。先日ある任務にて、ヴァースが敵からの攻撃を受けたことにより、ヴァースが『オーバーヒート』を起こして今に至る、と言うわけです」

ロッドが先日の出来事を簡潔に話した。

「そっ…かぁ……じゃあ充電中ってわけなんだね…え…もしかしてこの前の下層地区の温度上昇騒ぎはもしかして……ヴァース達のこと?」

ルオンは驚きを隠せず質問した。

「あぁ、そうだ。危うく俺らまで巻き込まれるとこだったぜ」

「まぁまぁ、そう言わずに〜。無事だったから良いじゃんか〜」

「元はと言えばお前が作戦通りに動けばなぁ!」

シュヴァルは不機嫌そうに悪態をつくが、ヴァースの呑気な返事に苛立ち、いつもの喧嘩が始まった。

「はいはい、2人ともそこまで。まぁヴァースがこんな状態になってはしまいましたが、得られるものもありました」

ロッドが2人を宥めつつ、二つのクナイと一丁の銃を取り出した。

「これは任務地にあった、スサノヲ隊員の遺品を私がコピーした物です。攻めにも守りにも使えるかなり良いモノなので、量産して高値で売るも良し、私達の装備に加えるも良しです」

「ほぉ…資金調達出来るのは大きいね…ウチはいつでも財政難だから…」

ははは…とルオンが苦笑いしていると

「それともう一つ。ツクヨミからの情報なのですが、『死の砂漠』にて謎の一団がマーレ地区へと進軍しているそうで、出撃可能な部隊は迎撃に向かって欲しいとのことです」

「あ、その話はバード商会の方からも聞いた。敵が結構大所帯らしくて、人数は多ければ多いほど良いみたい」

ロッドの報告に、バード商会Aランクの傭兵グラウが返事をした。

「どうする?僕はあんまり役に立たないかもだけど、全員で出撃するのもいいんじゃないかな。なんなら僕ら全員と、更に応援を呼ぶのもアリだと思うよ」

「それも良いですねぇ…ここで多方面に恩を売っておくのも悪くないですし……私たちもある程度力は付いてきたと思うので、他の方々との繋がりを作るのも良いかもしれませんね」

グラウの提案に、ロッドは思案を巡らせていた。

「俺たちの名が広がれば、あの人のところにも情報が届くかもしれないしね…うん!そうしよう!グラウの意見に賛成だ、皆んな良いかい?」

「はい、仰せのままに」

「えぇ、私はルオンの言う通りに動くわ」

「俺は闘ってストレス発散出来ればいいぜ」

「さんせ〜〜」

ルオンの決定に皆、賛成の意を示した。

「出来るならなるべく早く出撃してほしいそうなので、準備が出来次第すぐにでも向かいましょう。資料はすぐに皆んなへデータで送ります」

「うん!わかった!じゃあ皆んなしっかり資料に目を通しておいて!」

「あ〜ごめん〜、まだ充電終わりそうにないから終わったら行くよー」

「あはは…わかった、なるべく早く…ちゃんと来てよね!!」

ルオンが威勢よく指示を出すが、ヴァースののんびりとした答えに思わず苦笑いした。



【ルオンの自室にて】

「そういえば、話って?」

「えぇ、二つほど話がありまして」

机とベッドだけの、他には何もない物寂しいルオンの部屋で、ルオンとロッドが話していた。

「まず1つめが、あの人に関しててです。」

「本当か!?どんな!?」

ルオンが動揺しつつも身を乗り出して聞いた。

「直接的な関与は無いのですが…あの人が携わっていた研究…つまり私たちにも関係があることです。ただ…あまり良い報告とはならなそうです…」

「…それでも…あの人に繋がる事なら…聞くよ」

ロッドの不安そうな雰囲気にルオンは固唾を呑んで聞く意思を示した。

「彼女の携わった計画…『R-0n計画』ですが、その計画の全容についての情報を得ました。あの計画は一度中止となり、私たちは処分されるところを彼女に救われ、今に至るのですが……図らずとも今のこの状況…彼女の計画通りに進んでいるようです」

「どう言う事?」

ルオンが怪訝そうに返事をした。

「この計画の内容はですね、簡潔に言うと『この世界の何者よりも強い存在を作る』事なのです」

「何者よりも……それで?」

「そのためにはまず被験体R-0nと他五体…私たちのことですね。それらをある一定の強さを得るまで訓練をし、その後試練と称して被験体R-0n以外の1人ずつを処分していくのだそうです」

眉間にしわを寄せながら、ルオンは話を聞いていた。

「その後、被験体R-0nと残った1人を闘わせることで、その計画は完遂するそうです」

「むう…計画通りなら俺たちは誰か1人を残して全滅するのね…」

「えぇ、そうなります…まずルオンと私達が1人の人間の中にではなく、1人と五体になる。その後皆ある一定の強さを得るに至る。ここまではこの計画通りに進んでいます」

ロッドがそう話すとルオンは不安な思いを口にした。

「となるとこのまま行けば…誰かが死ぬかもしれないんだね…」

「はい…それに、考えたくはないですが私達は彼女に利用されているのかもしれません」

「え…それはなぜ?」

ルオンは考えもしなかった事を聞かされ、キョトンとした顔をした。

「どうやら彼女は過去の出来事が原因で復讐に駆られていたそうです。その復讐のため、この計画を考えたのだと思います」

「復讐…か……」

ロッドの思いもよらぬ報告に、苦悶の表情を見せるが

「うん、それでも…俺はあの人を信じるよ。あの人と…みんなと過ごした時間をまた取り戻すために。またあの人と暮らしたいんだ、だから頑張るよ」

力強ささえ感じる語気に、ルオンの決意が表れていた。

「…それを聞いて安心しました。それでこそ私たちのリーダー」

心配そうにルオンを見ていたロッドだが、ルオンの明るい、自信に満ちた返答にほっと胸を撫で下ろした。

「それで…もう一つの話は?」

「あぁ、もう一つの話はですね」

ロッドが思い出したかのように話を続けた。

「一応、常に私たち全員のバイタルデータを測っているのですが……ルオン、最近何か身体に異変を感じた事は?」

「えっ、俺?特には……あ、そういえば」

ロッドの突拍子もない質問に、ルオンは驚きつつも何かを思い出した。

「最近傭兵の仕事をしてるときになんだけど…妙に調子がいいと言うか、身体が思うように動くようになってきてるんだよね。仕事のお陰で鍛えられてるのかも!って思ってたんだけど…どうして?」

「…そうですか…いや、特にこれと言って異状は無いんです。ただ最近体温や血圧が少し高い様子が見受けられましたので。ルオンは私達と違って生身なんですから、くれぐれも怪我や病気には気をつけてくださいね?」

「あはは、心配症だなぁロッドは。うん、大丈夫、気をつけるよ!」

ロッドの心配をよそにルオンは笑って返事をした。

「あ、そろそろ出撃の時間だ。それに応援に呼んだ人達も来るね。初めて俺ら全員でかかる任務だし、他の人達とも一緒にやるから…失敗の無いようにしなきゃね」

「えぇ、そうですね。我らR-0nの実力を世に知らしめてやりましょう。それではまた後ほど」

そういい残してロッドは部屋を後にした。



「……ルオンの最近の異常……ルオンは身体のどこもサイバネ手術を受けてない生身の人間のはずなのに……サイバネ適合率が10%になっている…身体のどこか一部が機械化しているのか…!?ふむ……ルオンといいヴァースといい……この2人は特別なのかもしれませんね……」

ルオンの自室を出たロッドは、ルオンの最近の異変について、1人思案していた。

「…あの人は指示だけ出して何も教えてくれませんから……まぁそれも楽しいんですがね…ふふふ…私が…私達全員がどうなろうと、面白い方向に転びそうですなぁ…」

これからのルオン達の行く末を考えながらロッドは不敵に笑い、集合場所へと向かった。

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