37:じゃあ、いままでの戦いは全部……
「それでは、今行ったとおりに皆さん動いてください」
宵の話は事細かに続いた。
それも『生徒会』のメンツや柊、堂上、被瀬のそれぞれに
その言葉にみんなは特に違和感を抱いていないが、それは正しいがもうちょっと違和感を持つべきだ。
宵はこのメンツとは初対面だ。
ゴスロリの奇抜な格好の女にここまで支持されてなぜみんなは違和感を抱かないのか。
それに俺と知り合いということは、少なからずそれなりの実力で恐れる対象だと思われてもおかしくはない。
なのに、こうしてみんなに指示をして、更には一定の信頼のような物を得ている。
分かっていながら見てると、逆に怖さすら感じる。
これも宵の怖いところ。
人付き合いというものに関して、化け物みたいな強さを誇っている。
そのために依頼の交渉は多くが宵の担当だった。
……というか宵が、あんたらに任せておけば国が滅ぶ、なんて言い始めたからそうなっただけなんだけど、
「そういえば」
一通り宵の指示が全体に伝わり、各々で復習や打ち合わせをしている時、いち早く終わった会長が俺の方に近づいてくる。
「前にメルを倒した時、何をしたのか教えてくれないだろうか」
「倒した時……?」
イマイチ要領を得ない質問に俺は首をかしげていると、
「君の能力と、何をしてメルを『能力が使えない』ようにしたのか」
「その質問は野暮ですけれど……。
流石に、もういいんじゃないですか?」
会長のもはや清々しいまでのストレートな質問に、宵も参戦する。
「なんで知る必要があるんだ」
「メルは恐らくだがムスビの攻撃を食らって倒れた。
そして、結果としてメルは能力が極端に使えなくなった。
それに体内からは『ウィクトゥス』の反応もなくなっていた。
私達はそれをする方法を探している。
だけど、先程の話からは『ウィクトゥス』を体内から無くす方法については話されなかった。
もちろん、調べても出てこなかった」
「そういうことですか」
宵は会長の話を聞いて、納得したような顔をする。
「……なにか知っているのですか?」
「知っているも何も、同じことができますよ」
「……なら、それは私達にもできるということでしょうか?」
会長の言葉に、もはやこの場にいる全員がこちらを見ている。
確かに『ウィクトゥス』を使用した人間は強い。
恐らく会長でようやっと叶うくらいだろう。
それも相性次第では、という条件がつくが。
「できるにはできるけど、今の君たちには無理ですわ」
「なぜでしょうか」
「口に出すのは簡単だけど、行うのは難しい、それだけですわ」
俺は宵に視線を向ける。
宵は俺が一段階を使えないことを知っているのか、少し意地悪な笑みを浮かべて、
「『ウィクトゥス』を体内から消し、なおかつ『能力を使えない状態』にするには、一度死なないといけませんもの
それも、特別な死が必要なのですわ」
「特別な死?」
「そうですわ。
これは複数の意味を持っていますの。
1つ目は文字通り、肉体的な死。
肉体が一瞬でも、刹那でも死ぬことによって、『心のチカラ』は死ぬ」
俺が話したくないのを分かっていっているのだろう。
宵が代わりに話す。
「そして、『中央』を殺す。
それこそが、特別な死」
慈愛に溢れたような、親切に満ちたような話し方だが、その実何を考えているんだか。
「肉体的に一度死んでしまった『心のチカラ』は、肉体が生きていれば蘇りますが、その速度は肉体の修復より遥かに遅い。
そして、この『中央』を殺す、というのは少々特殊な殺し方が必要なのですよ」
「『中央』を殺す?」
「そうですの。
私達しか理解できない中央という存在。
言葉ではうまく説明できないのですが、そういうものが存在する、鳥飼いしてください」
イマイチわかりにくい説明に、皆はいまいちなリアクションを取るが、仕方がない。
そういうふうにしか説明できないから。
「……まぁ、中央というものはそういうものだとしますが、メルは一度死んだ、そういうことになるのですか?」
会長の言葉は最もだ。
言葉通りであれば、死んでしまってから蘇ることが前提になっている。
だが、
「そうですわ。
私達は、人に肉体的な死を与え、そこから蘇生させる方法を持っています」
「……先程から私達は、ということは他にもいる、ということですか?」
「そうですね。
世界でもなかなかいないですが、確実に私とそこのムスビは使えますわ」
視線が俺の方に向く。
そんな見ないでほしいが、甘んじて視線を受け入れる。
「それはどうやって……」
「話しますわよ」
「……否定を許さないようだが、一応嫌だと言っておく」
「わかりましたわ。
それではお話しますわ。
ムスビの能力に関して」
否定したのに話されるこの理不尽感。
ただ俺には今力づくで止めるチカラがない。
ま、本気になればできるが、宵もそこまでアホだというわけではない。
それなりにぼかしてくれるだろうと思いながらため息を付く。
「まずは、ムスビは誰とも変わらない普通の能力者ですわ。
それも、その能力は至ってシンプル。
『慣れる』能力。
文字通り、慣れるのですわ。
なんにでも」
勘違いしないようにか『慣れる』とデカデカと書いたホワイトボードをみんなは見る。
「慣れる、でしょうか。
それならば、なんでムスビは驚異的な回復能力を持っているのでしょうか。
それにあのような異常な身体能力や、頑強さ。
更には高温にすら耐えうることができるのか」
「慣れたからですわ」
会長の疑問は、誰もが思ったことだろう。
『慣れる』能力、というのは実に説明しづらい。
昔にこれに関して説明をするのに面倒過ぎて身体強化だと言っていた時期もあるくらいだしな。
「文字通り、以前に経験したことがあるから、慣れている。
回復能力は、以前に同じような攻撃を受けて、そこから回復したことがあるから。
異常な身体能力は、その身体能力の出し方に慣れたから。
頑強さはそれを食らったことがあるから、その攻撃に肉体が慣れたから。
高温だって、彼はいくつもの炎を受けてきたから」
だから俺の方を見ないでほしい。
その通り。
俺は人より経験を現実に落とし込むまでが早い。
速さ、強さ、辛さ。
それらすべてを経験したことがあれば、それを当然として受け入れることができる。
「でも、それだったらむーさんはいままで攻撃をきちんと食らっているのがおかしくないっすか?
その話が本当なら、俺らはむーさんに攻撃を一つも食らわせることができないっすよ。
それに先生の能力も聞かないはずじゃないっすか?」
そこで堂上の発言が、周りのみんなに施行の猶予を与えた。
確かに不自然な点はあるのだ。
いくつも。
それにみんなが気づき始めていると、宵は静かに話し始める。
「みなさんは、何かを勘違いしていませんか?」
宵は呆れたようにため息をつく。
「彼は能力を使用していない。
それに、彼は常に『心のチカラ』を空にした状態でいるのですよ」
「それについては私から話すわ」
会長意外の『生徒会』メンバーが理解できていない現状に、被瀬が手を挙げる。
「以前にみんなに話したように、私は『心のチカラ』が見える。
これは私の能力の副次効果みたいなもので見える」
被瀬はホワイトボードに棒人間を書く。
「通常、普通の能力者は『心のチカラ』を微弱に発している。
『腕輪』とかもそれに合わせて作られているし。
それで、普通はこれを体外に発したり、体内で能力として使用することによって超能力は使われる」
棒人間からモヤのようなものが出てきた。
それを炎に変換する図をかいている。
「で、ここからが本題。
みんなも一度はなったことあるだろうけど、『心のチカラ』は尽きる事がある。
そのときに、体は回復をしようと『心のチカラ』を発することをやめて貯める期間に入る。
このときは、みんな体調悪くなったりするわよね」
俺の『訓練』を受けたものは念入りに頷く。
『生徒会』の連中も思い当たることがあるのか、うなずいている。
「これは普段微弱に発している『心のチカラ』が肉体を強化しているからなのよ。
これがあることで、私達は能力を持っていない人よりも頑丈なの」
それも、能力によって強化のされ具合は変わる、と心のなかで付け足しておく。
精神系は同じ精神系の能力を受けにくい、とか
会長は炎に対して耐性がある、みたいな。
「それで、私はこの体から出ている『心のチカラ』を見ることができるんだけど」
被瀬は俺のことを指差す。
「こいつは常に『心のチカラ』が欠乏している状態」
『生徒会室』にいる人たちは、最初理解できないが、徐々に理解してくる。
「こいつは常に能力を使わないで『心のチカラ』を体外に発している。
そのせいで、こいつは基本的に能力を持っていない人間と同じ」
冗談だろ、みたいな空気が流れる。
それに、俺を見るのをやめてくれ。
「じゃあ、いままでの戦いは全部……」
「一部を除き、こいつの身体能力だけで戦っている」
空気が凍る。
……なんか俺が悪い事したみたいだな。
なんだかバツが悪く感じていると、
「それと、もう一つ。
みなさんが恐らく見ている異常な身体能力や頑強な肉体は、能力をまだ使っていませんわ」
宵が話し始める。
その話し方に、俺はやめろと視線を飛ばすと、
「……彼が能力を使用したときは、『漆黒のマント』を羽織ります。
それ以外は、『能力すら使用していない』状態ですわ」
……だから嫌なんだよ……。
心のなかで深い溜め息をつく。
こんな凍った空気の中で音を出すのも忍びない。
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