34:そろそろ話してもらおうかな

「そろそろ話してもらおうかな」


 現在俺は拘束されている。

 当然力をいれれば破壊できる。


 ……というか、なんで俺は拘束されているんだ。


 小出さんの騒動は、『生徒会』によって生徒に知られることなく終わった。

 円城にしたように、小出さんも一度死んだため、能力は使えなくなっている。

 それに少し念入りに攻撃したため、一ヶ月は病院にいることになるだろう。


 そんな話を柊から聞きながら、俺は特になにかすることはなく、生活していた。

 校長には一度呼び出され、話を聞かれたが、他の生徒に見られなかったことが幸いしたのか、今回は何も言われなかった。


 そして、それから一週間経った。

 当然ながら、柊、堂上、被瀬とは接触していない。

 そりゃそうだ。

 あの騒動で、会長すら刃が立たなかった相手を余裕で下し、それに関して何を言うわけではなく、普通に過ごしている。

 なにか探りたくなるというものだ。


 そうして調べたら、穏便に話をするのかと考えていたら、


「そうっすよ、むーさん」

「流石に話してないことが多いんじゃないかな……」


 最初は柊、堂上の二人に呼び出された。

 話がある、と言われてついていったのは、生徒会室。

 会長もいるのか、と考えていると、柊と堂上が縄を持っていることに気づいた。


 ……さすがにさっきも敵意もない相手のコンビプレイに気付けるわけもなく。

 俺は体を縄で縛られ、椅子に座らされた。


 生徒会室は意外と広い。

 もとは机を並べていたのだろうが、それは撤去されているおかげで、多めの人数が入ることができている。


 ここには、柊と堂上の他に、会長、被瀬。

 それに『生徒会』のメンバーがいる。


 その全員が俺のことを一心に見ている。

 疑問、懐疑、不安、恐怖。


 その視線には|慣れている(・・・・・)ため、特に何か思うところはない。


 正直、逃げ出したい気持ちはある。

 話の面倒だし、昔の話とかしないといけないし。


 だけど俺は面倒を起こしたいわけではない。


 もともとは俺がやったことだし、説明しないといけない。

 そのために逃げるわけにも行かないし、逃げればより面倒なことになる。


「……『生徒会』って、どこまで知っているんですか?」

「話す気はある、そうとってもいいのかい?」

「一応、知っている範囲に限定して、という条件は付きますが」

「……ってことは、教えられないこともある、そういうことかい?」

「ことと次第に寄っては、言えないこともあります」


 会長は俺の瞳をしっかりと見つめる。


 この中で会長は俺にたいして負の感情を抱いていない。

 だが、それでも探るような目はしている。


「それじゃあ、私達の知っていることを話そうじゃないか」

「会長!」


 『生徒会』のメンバーの中から、声が上がる。

 よく見ると、耳道さんが発言したようだ。


 耳道さんは俺に対して懐疑的な、それこそ危ないものでも見るような視線をしている。


「いくら会長が信頼しているからと言っても即決はないんじゃないですか?」

「……でも、これを話さないと、この話は進まない」

「だからといって……」

「それに彼女らにも話してしまったわけだ。

 彼に話してもそれほど変わらないさ……」

「彼女たちと彼では話が違うと思いますが……」


 耳道さんが言いたいことは分かる。


 俺の力に見て、身動き一つ取れなくなり、恐怖しているのだろう。

 そんな人間に自分たちの持っている情報を与える。

 それも、味方かわからないのに。


「確かに、この話は学園に深く関わる話で、多くの生徒に聞かせてしまえば混乱は免れないだろう。

 しかし、だからといってこうやって強いから、なんて子供みたいな理由で話さなくていい問題でもないだろう?」


 会長は俺の方をちらりと見て、


「それに、うまく行けば意外と問題はすんなりと片付くかもしれないぞ?」

「……会長は会長なんですね」

「ははは。

 私だって恐怖や恐れはあるさ」


 会長は目線をみんなに向ける。


「だけど、恐怖や恐れは足を止める理由にはならない。

 今はムスビに話すことが問題の解決の最優先だ」


 その言葉に、みんなは反論しない。

 ……一応ここにいるメンツは全員事情を知っているみたいだな。

 俺だけ仲間はずれな感じが少し寂しいが、話してくれるなら黙っていよう。


「反論がないなら、話を続ける」


 会長は俺の方に向く。


「……そういえばなんでムスビは縛られているんだ?」

「……今更ですか……」


 俺の言葉に、会長は柊と堂上の方に視線を向ける。


「一応縛って於けば、見た目だけども怖さは半減するんじゃないかなーって」

「俺はなんとも思わないっすけど、こうでもしないと『生徒会』のみんなが安心できないかと思ってやったっす」

「……無駄な気がしなくもないが」


 会長は俺に同意を求めてくる。

 俺は大きく方をすくめて反応する。


「ふんっ。

 あんたが何しようとも止めてやるわよ」


 そこで、被瀬が座っている俺の頭の上にポン、と手を乗せる。

 その声色は、いつものように聞こえるが、違う。


 恐怖を感じている声色。

 今にも逃げ出したい声色。


 そんな感情に包まれているのが分かる。


 だが、その様子は『生徒会』の連中にはわからなかったみたいだった。

 そのせいか、被瀬の言葉に『生徒会』のメンツの表情は少し明るくなる。


「……話を聞きたいんですけど、いいですかね」

「そうだな。

 手早く済ませよう」


 会長は忘れないようにしていたのか、メモを取り出す。

 それを確認しながら、一つ一つ話していく。


「今回の事件の根幹は、『神の涙』というものだ。

 この前にメル……小出芽瑠が持っていた注射器の中に入っていたものだ。

 ……これは禁止薬物で「ウィクトゥス」……そうか」


 俺は会長の話に割り込む。

 そこまで話してくれれば、恐らくこれに関しても知っているはず。

 現に俺の話に会長は納得したような表情を見せた。


「知っているようですね」

「円城の事件でも用いられていたが、今回は現物があることでようやく理解することができた。

 そう、今回のこの『神の涙』それは禁止薬物、『ウィクトゥス』である。

 ……ちなみに効果は?」


 知っているか、と尋ねんばかりの口調。

 その様子に引っ掛けに着ているのかとか疑問に思うが、


「重度の麻薬。

 それも即効性に優れ、高揚感、全能感を感じることができる。

 それは脳の快楽物質を増強させていることで生まれる効果だけど、その力が多すぎるあまり脳を自身で破壊し始める。

 依存性はどの精神系薬物の中でもトップクラス。

 そして、ほぼ全世界で禁止とされていて、その名は使用すれば人間として『敗者』になる、という皮肉も込めて、『ウィクトゥス』」


 素直に話した。

 だが、あくまでもこれは調べれば分かる範囲に、少し効果に関しての話を加えたもの。

 調べようと思えば調べることができる。


「流石だね。

 なんで知っているのかはさておき、言った通りの効能と副作用を持っている薬物だ」

「で、問題はそれがなんでこの学園にあるか」


 俺の質問に、会長も頷く。


「そう、なんでこの重度の危険薬物がこの学園で、それも生徒が持っているのか、そこがわかっていない。

 持っている人間を取り締まろうにも、調べた所によると学園内で出回っている『神の涙』は『ウィクトゥス』を希釈して使用しているため、薬物を使っている用に見えない」

「希釈している……?」


 『ウィクトゥス』を知っているからこそ分かる。

 アレを希釈するということは、それこそ天才のできる技。

 『ウィクトゥス』はその強さ故に、一滴あれば国の全員を堕とす事ができるから重度の禁止薬物なのだ。


「……なにか引っかかることでもあるのか?」

「……いえ、なんでもないです」

「あの、質問していいですか?」


 俺の考えている様子に、会長は質問してくるが、スルーする。

 そこに柊が質問をしてくる。


「前も同じ話を聞いたんですけど、なんでその薬を使おうとするんですか?

 危ないなら使わなきゃいいのに」

「軍事利用されていたからですわ」


 そこで、この場にいない人間の声が聞こえる。


 それは、俺の聞いたことのある声。


 何回も聞いた声。


 その声は、だがしかし一年前に聞いた声。


 後ろを振り向く。


「ごきげんよう。

 壱……いえ、ムスビさん」


 そこには、ゴスロリ女がいた。


「肆(し)……」

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