33:すいません。 いいところっぽいですけど、もう終わりました

「メルぅぅぅ!!!」


 会長の顔は、激怒に包まれている。

 ……なぜ怒っている?

 会長は、知っている?


 小石に攻撃を止められている、という現状と会長の様子に不自然さを覚えながら、俺は見守る。


 しかしいつでも出れるように、用意はしておく。


「かーいちょ。

 そんな怒らないでよー。

 前のは私がやったわけじゃないよー」

「それがどうした!

 メル! 貴様が持っているのがなにか分かっているのか?!」


 会長の怒号とともに、放たれる拳。


 小出さんはゆったりと振り返り、何かを投げる。


 それは、小石。

 小石は宙を物理法則に従いながら飛んでいき、空中でピタリと止まる。


 それは会長の拳の通り道に置いてあり、会長の拳は小石と当たり、


 ドンッ


 轟音を上げる。

 空中の小石は微動だにしない。


 ……停止の能力で小石が盾替わりになっている?


「はぁ……。

 だから会長はダメダメなんだよ」

「うるさいっ!」


 会長は流れるように小石を躱し、小出さんに肉薄しようとする。


 しかし、


「とーまれっ」


 可愛らしい声と共に、会長の動きは停止する。

 そして、上がっていた陽炎は水蒸気に変わる。


「んもー。

 流石に2人とも冷やすのは疲れるから勘弁だよー」

「何をした……」

「ちょっと分子を停止させてー、冷やしてるの」

「そんな事ができたのか……」

「これのおかげだけどねぇ」


 小出さんは自身の手の中にある注射器を見せる。

 それを持つ様子は、まるで小さい子供が大事に作ったものを抱えているように見える。

 俺は会長の様子を見ながら、そろそろ頃合いか、と|次の段階(・・・・)に至る用意をする。


「うーん。

 会長強いと思ったけど、これくらいか……」

「何を言っている……」

「いや、私は会長に勝ちたいからこれ使ってるんだけど……それくらいだったんだぁ、って」

「ほぅ……それに頼らなくては勝てない癖によく言うじゃないか……」

「でも、これだけで負けるとか本当に最強? って感じだけどね」


 そのやり取りは、助かる。


 久しぶりに使うから、間違うと困る。


 手加減とかにも気をつけないとな、と思いつつ、


「ははは!」

「……何がおかしいのよ、会長」

「いやいや、私程度で最強とは、やはり私もまだまだ精進が足りないということか……」

「なにいってるの?」


 『能力』、発動。


 俺に変化が現れる。


 背中に黒いマントが現れる。

 それは黒というよりかは、光を反射しない物質。

 すべてを飲み込む、そんな色。


 そして、俺の視界は瞬きもしない一瞬で、


「おっ。

 せっかくだ。

 私の頑張りを特等席で見てもらおうじゃないか」

「……え?」


 小出さんの隣に出現をしていた。



「お前はっ」


 視界が切り替わったのを確認した俺は、仕事を終わらす。


「っふぅ」

「……何かしたのかい?」


 会長から声をかけられる。

 その声に、俺は背後のマントをなびかせながら、


「すいません。

 いいところっぽいですけど、もう終わりました」


 そう言い、俺は手元にある注射器を見せる。

 それを見た小出さんは自身の手元を見る。


 そこには、彼女の持っていた注射器はない。


「……それは君の本気かい?」

「……知りたいですか?」


 俺の言葉に、会長は冷や汗をかいている。

 その様子に、俺は被瀬の方を見て、


「正気に戻っとけ」


 少し、ほんの少しだけ、威圧する。


 気付けのようなもので、特に攻撃性はない。

 被瀬はその威圧に当たると、先程までの正気を失った様子は消える。


「えっ」

「気がついたか……」

「え? なんであんたっ」


 被瀬は俺の姿を見た瞬間に、息を詰める。

 その様子に俺は思い出したかのように、


「あ、すまん。

 確か『心のチカラ』が見えるんだったよな」


 能力を調整する。

 見えるということは現状は視界が使い物にならないのではないだろうか。


 マントは仕舞わずに、『心のチカラ』を調整する。


「……あんた、ほんとに何者なのよ」

「……知りたいか?」

「ねぇ……」


 俺と被瀬の会話に入り込んでくるのは、小出さん。

 小出さんはわなわなと震え、見るからに怒っている。


「なにしたのよっ!」

「いや、取り返しただけですけど」

「違うわよっ!

 あんた何をしてるのよっ!」

「だから……」

「ふざけんじゃないわよ!

 いきなり出てきて邪魔するとか頭いかれてるんじゃないじゃないの?!」


 その後も続く罵詈雑言の嵐。

 俺はそれを聞き流しながら、支離滅裂な話の内容に、結構使用したのか、とため息を付く。


「あんたなんか殺してやる……。

 殺してやるからぁ!」


 しばらく吐いていた罵詈雑言も止まり、俺への殺意が増しているようだ。

 俺はその様子に、本当に一応だけど、警戒する。

 万が一は考えておく。


 小出さんが腕を前に突き出し、俺のことを停止させようとしてくる。

 対して俺は微動だにしない。


 周りが息を飲んだのがわかった。


 だけど、それもいらぬ心配だったようで、


「……なんでっ。

 なんで出ないのよ!」


 小出さんが『能力』を使うことは叶わなかった。

 腕をただ前に突き出し、踏ん張っている。

 俺はその様子に、マントを消す。


「何したのよっ!」

「何って、能力を使えないようにしたんですよ」

「そんな事できるわけ……そういう能力……?」

「いえ、俺の能力はそんなものじゃないですよ」


 小出さんが俺に質問してくる。

 俺はその質問に適当に答える。


「あ、ちなみにみんな動けるけど動かないんですか?」


 その途中で疑問に思ったことを話す。


「君が現れてから『停止』の能力はもちろん解けた。

 けど、足がすくむんだよ。

 これ以上動くなって」


 その質問に答えたのは、会長。

 みんなを見渡すと、同じ様子なのか俺のことをみんなして見ている。


「そんなことない!

 アレを……『神の涙』を使えば最強になれる!」


 『生徒会』のメンバーが殺気立つのを感じた。

 そこで俺は『生徒会』の人たちがこの駐車気に入っている物の存在について知っている事を察する。


「みんなが動けないのは自力でなんとかしてください。

 それで、小出さん。

 あんたはきちんとしたところで、きちんとした手順を踏んで、復帰してください」

「……っふざけるなぁ!」


 小出さんはとうとう逆行して、俺に拳を振り上げた。


 一歩、踏み出す。


「小出さん。

 あんたは一番手を出しちゃいけないものに手を出したんだよ。

 それは、『神』なんてものじゃない。

 ただの『幻想』です」


 小出さんが、倒れる。


 動いたことによって、やっと体が理解したのだ。


 攻撃されていることに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る