30:会長が弱いから少し強くしてあげないといけないんだ

 『心のチカラ』を無限に持っている。

 その言葉に俺は反応してしまう。


「……ごめん。

 ちょっと頭冷やしてくる」


 被瀬はその言葉とともに席を立ち上がり、教室を出る。

 柊はその様子に被瀬を追いかけて教室を出た。

 残ったのは俺と堂上。

 少し気まずいような空気に、俺はなにか話しだそうか悩んでいると、


「むーさん」

「なんだよ」

「何かやったっすか?」

「なにかやってたら言い訳してるわ」


 その言葉に、堂上ははぁ、とため息をつく。

 俺もため息付きたいくらいだよ。


「むーさん」

「なんだ?」

「そんなに俺らとむーさんって実力離れてるんすかねぇ?」


 その言葉に、俺は無言で返す。

 しばらくの返答がないのを感じた堂上は、


「ノーコメントっすか」

「そうだな」

「……なんでそんなに話せないことが多いんすか?」

「それも答えられない」


 堂上は俺のことを強いとだけ知っている。

 それ以外の俺の素性だったり能力も堂上は知らない。


 今では会長のほうが詳しいまであるか。


「うーん。

 個人的にはあんまり実感ないんすよね。

 実力の離れ具合って」

「だろうなぁ」

「だろうなってなんすか……」

「……別にけなしているわけじゃないぞ」


 堂上はよくも悪くもバトルジャンキーの節がある。

 それは『訓練』の最中にも感じたし、実践のときにも感じた。

 タイプで言えば、会長に近いタイプ。


 単純に戦いそのものに魅入られている感じ。

 だから相対したときに『恐怖』より『闘志』が先にくるタイプ。


「ま、別に今更下に見られているのは気にしないっすよ。

 それで、どう思うっすか?

 被瀬さんの『心のチカラ』が見えるのって」

「どう思う?」

「正直、俺はそれは別のものが見えていると思うんすよねぇ」


 その言葉に、俺は感心する。

 正直、俺もそれに関しては同感であるが、


「でも被瀬はたぶん本当に見えているかもしれない」

「……なんでそれがわかるんすか?」


 堂上の疑問。

 俺はそれに対して、言うか迷ったが、


「被瀬は俺のことを『無限』と言った。

 だからだよ」

「……本当に無限なんすか?」


 堂上の心配そうな言葉。

 確かにそうだと俺は超能力が永遠と使えるということになる。

 そして今わかっているのは、俺が治癒能力者だということ。


 それらを組み合わせて考えれば、最悪の話が思いつくだろう。


「厳密に言うと、俺の『心のチカラ』は無限じゃない」

「ってことは、大雑把に言うと、無限なんすね?」


 その言葉には、返答しない。

 昔はよく狡いだの何だの言われていた。

 ……別にずるくないんだよなぁ、と毎回訂正したものだ。


 感慨に浸りそうになりながらも、教室の時計を一瞥して、


「ほら、もうそろそろ昼休み終わるぞ」

「……そうっすね」


 そう声をかけた。

 堂上はまだ納得していないと言う声を出しながら、弁当を片付ける。



☆☆☆☆☆



 放課後。

 帰ろうとした俺は、堂上と柊に捕まった。


「なんだよ」

「覆瀬君、今日は『体育場』に行くよ」


 柊の言葉に、俺はなんで『体育場』と思ったが少し考えて、


「もしかして本当に会長と被瀬が戦うのか?」

「そうみたいっすね」

「毎週月曜日は『体育場』で生徒会の練習日なんだけど、そこで会長と『模擬戦』するんだって」


 会長と被瀬。

 現状だけで判断するなら会長のほうが圧倒的に有利。

 見なくても勝負が決まっているようなものだ。

 

 だけど朝の一件もある。

 被瀬の変化した超能力。


 それがどうして引っかかる。


「行く」

「……いつものむーさんだったら面倒臭がる場面じゃないっすか?」

「失礼すぎんか?」

「失礼って日頃の行いっすよ」


 柊も同意している。

 その失礼な二人を少し睨みつけながら、


「でも『生徒会』の連中しか入っちゃいけないんじゃないか?

 被瀬は許可を撮ったんだろうが、俺らはいきなり行けるのか?」

「それに関してはもう会長に許可はとってあるよ」


 懐からスマホを取り出しながらにっこり話す柊。

 連絡先交換していたのか。


「なんか会長がこの前の『訓練』のお返しだ、って言ってたけど、覆瀬くんなんかしたの?」

「あー、そういうことか」

「会長に『訓練』したんすか?」


 堂上の言葉に俺は頷く。

 そうすると堂上は、


「なんで目標の相手強くするんすか……

 馬鹿なんすか?」

「心の底から言ってるなおい」

「いやそりゃむーさんが『会長を倒す』って言ったのにそんな事してるからっすよ」


 本当のバカを見るような目で見る堂上。

 その視線に俺は真剣な顔で、


「会長が弱いから少し強くしてあげないといけないんだよ」

「……一応学園最強だからね。

 しかも私達負けてるし。

 あんまりそういう事、外で言わないでね」


 苦笑いした柊に注意される。


「じゃ、じゃあ『体育場』行こっか。

 外れにあるやつみたいだから急がないと」



☆☆☆☆☆



 外れの『体育場』

 結構校舎から離れているここは、新しい割に使われていない『体育上』であるらしい。


 そこについた俺らは誰もいない観客席に座る。


 『体育場』の中には白い制服をマントのように着ている『生徒会』のメンツ。


 パッと見でも分かる。

 学生の中では結構できるやつはいるのか。


 会長と結構僅差のやつも多いな。

 あ、耳道さんもいる。

 そんな呑気なことを考えながら眺めていると、


「あ、ムスビー!」


 小学生のように手を降ってくる人間が一人。

 その相手に俺は冷たい視線で返すと、


「そんな冷たい目で見ないでくれよ……

 美少女から手を振られるんだぞ?

 嬉しくはないのか?」


 会長は少しすねたような話し方をした。


「堂上くん、真冬ちゃん、よく着てくれたね。

 ホントは『生徒会』の練習は見せちゃいけないんだけど、無理いって入らさせてもらったよー」

「ほんとに無理言い過ぎですからね。

 『生徒会』はあくまで強い能力者の集団。

 その強さの一端を見せるわけには行かないですからね」


 クドクドと続く耳道さんの小言に、申し訳ない、と舌を出して謝る会長。

 反省してないだろ、と内心思いながら『生徒会』のいる連中と反対側を見る。

 そこにいるのは、被瀬。

 被瀬は俺らの方に視線を向けない。


「ユイちゃーん!」


 こちらにも元気よく手をふるやつがいる。

 柊は大きく手を振り、被瀬に話しかける。

 まるで友達に話しかけるように。


 しかし、それでも被瀬はこちらの方を見ない。

 その様子に、柊は少し悲しそうに手を下げた。


「それじゃあ、やるか」


 会長は一通り耳道さんの小言を聞いたあと、被瀬の方を見る。

 被瀬はその視線に答えるように、身構える。


「ははは。

 そんなに身構えないでくれ。

 まずは確認だ」


 『生徒会』の一人が被瀬の方に向かい、『水晶』の確認、衣服の確認、体調の確認と、『ランキング戦』前の確認を終わらせる。


 会長も同様に終わったのか、二人はようやく戦う雰囲気に入る。


「それじゃあ、今回は審判は僕が勤めさせていただきます」


 耳道さんが出てきて、審判の位置に立つ。


「別に真剣な勝負ではないですけど、お互いに本番だと思ってかかってください」


 耳道さんは大きく息を吸い、


「初めっ!!!」


 その声が人の少ない『体育場』に響き渡った。

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