29:あんたたちにはわからない!!!!!

 会長との『訓練』を終え、無情にも休みは開けてしまう。

 高速で過ぎていく日曜日を恨めしく思いながら、俺は学校に登校した。


 被瀬、堂上、柊の『訓練』に関しては、自主練としている。

 今日から再開するが、その時までにもうペナルティが増えるようなことはないようにと言ってある。


「おはよう」

「……なんでそこにいるんだ」

「いいじゃないの。

 私がどこにいようとも」


 俺が学校につくのは比較的早い。

 クラスのやつの中ではほぼ一番乗りである。

 そのため、誰かクラスに人がいるのは結構珍しいし、


「そこ、俺の席なんだが。

 てかお前のクラスではないんだが」

「ケチケチ煩いわね。

 もうちょっと心を広くできないわけ?」

「なんでそんな当たりがきついんだよ」

「そんな事ないわよ」


 被瀬は何やら不機嫌そうだ。

 俺は仕方がなく柊の席に座り、被瀬に話しかける。


「で、話があるんだろ?」

「なんでそういうことになるのよ」

「お前はなんの意味もなしにこんな事するやつじゃないだろうに……」


 これが堂上当たりだったら遊びでやっていると言われても理解し、速攻でつまみ出して俺が座っている。


「あんたは、ホント強いわね」

「何の話だよ」

「『エキシビジョンマッチ』のことよ」

「三日も前の話だぞ」

「だからよ」


 被瀬は俺の方を見ないで、黒板を眺めながら話す。

 それはまるであの日のことを思い出しているかのように話す。


「何回も何回も、思い返した。

 あの時の三人は強い。

 思い返しても、思い返しても、あれはあれ以上ない試合だった」


 被瀬のその話し方は、どこか寂しそうに感じる。

 なんだかその話から、俺は少し違和感を感じる。


「それで思い返して、『訓練』を自分でもやって、できた」

「……何がだ?」

「『能力』の変化」


 『能力』の変化。

 人は成長する間に体だけでなく、『心』も変化する。

 基本的にありえないことなのだが、なってしまうやつもいる。


「……大丈夫だったのか?」

「ま、大きな変化じゃないわよ。

 うーん、例えるなら、”できることが増えた?”」


 その言葉に、反応してしまう。

 会長の能力で身体能力が向上したときにも感じる感覚。

 俺はその話に少し真剣になってしまった。


「ふーん。

 これに関してもなんか知ってるのね」

「ん?

 あぁ、そんなことってめったに起きないからな。

 『訓練』に支障が出るかなと思ったんだ」

「……そ。

 なら、いっか」


 被瀬は俺の席から立ち上がる。

 小柄な被瀬の、少し重い体運び。

 何故か、目につく。


「そろそろ教室に戻るわ。

 また昼休みにね」

「……おぅ」


 被瀬の後ろ姿を見て思った。


 ……はっきり言おう。

 絶対なんかするわあいつ。



☆☆☆☆☆



 ときは過ぎ、昼休み。

 俺、堂上、柊、被瀬はいつもどおりに昼飯を食べる。

 

 しかし、被瀬はいつもどおりにしている。


 柊には優しくて、堂上と俺には少しきつく当たる、あの被瀬に。

 その様子に、どこか朝のことを忘れかけていた。


「……『訓練』って今日から再開っすよね……」


 堂上の一言でみんなの話がストンと止まる。

 みんなの視線は俺の方に集まっている。


「するよ。

 普通に」

「……はいっす」

「その質問はできるだけ思い返したくなかったんだけどねぇ……」


 堂上と柊は肩を落とすが、その様子は以前の様子とは違う。

 前はただ何もわからないものに走っている感覚から、会長との経験から、明確になった目標。


 それがこの二人にいい影響を与えているのだろう。

 ……それでもきついのは変わらないからこんな感じなんだろうけどな。


「堂上、真冬」

「なに?」

「どうしたっすか?」


 そこで、被瀬だけは何も話さなかった。

 いや、あえて何も言わなかった。

 そして、話しかけている。


「私、もう『訓練』には参加しない」

「えっ?」

「な、何言ってるっすか?」


 柊も堂上も困惑している。

 そりゃそうだ。

 なんだかんだ言いながら被瀬はしっかり着いてきた。

 三人で支え合い、俺を罵倒し、時には三人揃って屍になった。


 そんな中で急にやめるなんて言うのは、少し急すぎる。


「私はこいつが強いから『訓練』に参加していた。

 その背を追いかけるために、追い越すために。

 それで、前の試合を見て、本当にすごいなって思った」

「ほ、褒めてくれるのは嬉しいけど……」


 柊は被瀬の話し方に不穏な雰囲気を感じ取っている。

 ……というかこれで理解できないやつとかいないだろ。


 ほら、現に堂上だって少し真剣な顔してるし。


「それでこの土日にそれを考えながら、考えた。

 どうすれば追いつけるのか、追い越せるのか」

「どういうことっすか?」

「私は、もう会長を超えた。

 だからそれを今日証明する」


 話が見えない。

 俺は不思議そうな顔をしていると、


「私は、最初はこいつと『デュオ』でランキング戦に出たいと思ってた。

 けど、こいつはもう『ランキング戦』なんて次元にはいない。

 きっと私が何人いても、敵わない。

 だから、私は会長に勝って、この学園最強になる。

 そうすれば……」

「ま、待ってくださいっすよ!」


 堂上の声。

 堂上は少し焦りながらも、少しずつ話していく。


「まず、被瀬さんはなんか知らないけど、会長より強くなった。

 それで、むーさんと一緒に戦おうなんて思っていたけど、むーさんにはもう敵わない。

 だから私は学園最強だから、終わりってことっすか?」

「……だいたいそんな感じ」


 被瀬は少し苦しそうに返答する。

 何を苦しそうにしているんだ?


「それって逃げじゃん」


 そこで響く声。

 柊だ。


「結局、会長は倒せるからって、覆瀬くんには敵わないってして、諦めて、逃げてる」


 柊の顔は、絶望。

 いや、悲しみも、怒りも、諦めも混ざっている、そんな表情。


「なら、勝手にすればいい。

 協と一緒に『訓練』するのは正直本当に嫌だけど、仕方ないよ」



「あんたたちにはわからない!!!!!」



 被瀬の怒号。


 堂上も、柊も、俺すらも驚いた。

 何がそこまで被瀬を恐れさせている?

 なんで被瀬は、『恐怖』している?


「私に見える景色は、みんなとは違う」

「私は、『心のチカラ』が見える」

「だからわかるの」


「覆瀬結は、『心のチカラ』を無限に持っている」

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