20:え、これで楽しいとか人間?
訓練初日から次の日。
「大丈夫か堂上?」
「い、いや、そんな事ないっすよ……?」
「なんで俺らに質問してるだよ……」
体育の時間。
授業の前の着替えで堂上はみんなから心配されていた。
いや、堂上だけではないし、体育のときだけではない。
柊、堂上、被瀬の三名が全員動きは変だし元気がなかった。
恐らくというか確実に昨日の『訓練』のせいであろう。
超能力は使えば使うほど量が増えるとかそんな素敵仕様はない。
超能力はあくまで『心のチカラ』を使用して発動するものだ。
『心』というものは鍛えられるものではない。
そのため超能力者は自分の『心のチカラ』の総量とうまく付き合っていかなければならない。
昨日の修行はその一環として行われたものである。
『心のチカラ』は使い切るとすごく苦しくなる。
肉体的にではなく精神的に来るのが特徴だ。
疲れていないのに苦しい、というのが『心のチカラ』不足の特徴だ。
昨日のは確実にそれを起こす。
「昨日超能力使いすぎたせいで……」
「あー、たしかにそれは辛いわ」
「今日はこうなるわな」
周りも堂上の言葉に納得している。
そんな心配をされている堂上は俺の方を睨みつけている。
そんな顔されても俺も同じことをやっているんだけどな、と心のなかで弁明しながら、着替えを終える。
補足だが、俺の『心のチカラ』は割と少ない方である。
なので堂上たちと|同じ様に(・・・・)オンオフを繰り返していれば、たしかに俺も同じ状況になる。
だからそこまでとは行かなくても、たかだか一歩に三回程度でバテるなんてことはなくなってほしいが……。
後ろから感じる恨めしい視線に気づかないフリをしながら授業に向かった。
☆☆☆☆☆
体育の授業。
俺はいつも通りに見学している。
……そう、見学しているのだ。
俺はあの事件の後、自分の超能力をばらした。
しかし、俺の評価は依然として使いこなせない能力を持っている人間、というものに落ち着いている。
実際俺らはあの事件に巻き込まれたせいで『クラス戦』を不参加扱いにされ、幸か不幸か俺は戦うことはなくなった。
被瀬も共に出ることはなかったため、あの約束は反故になった。
『ソロ』の優勝は妥当に金山だったらしい。
ま、あの中で考えればそりゃそうか。
あの時の周りのメンツを思い出し、納得する。
俺は前と変わらず『体育場』の端でぬくぬく太陽に当たりながら暇を潰している。
そんな中、昨日から他人に訓練を強要した事もあって、座りながらも超能力の操作はしている。
俺も鈍ってきたことを感じたため、うかうかはしてられない。
その傍らにしているのは、昨日の三人の観察だ。
被瀬は、筋肉痛と超能力の使いすぎでへばっているが、それを『超能力』を使ってごまかしている。
……負けず嫌いと言うかなんというか……。
あいつ今日も訓練あるのに知らないぞぉ……。
心のなかで合掌する。
正直、肉体強化系はそれをしたいのは分かるが、それをしてしまうと自分で自分の首を締めているようだ。
『心のチカラ』は治りが遅い。
使い切ってしまった状態では一日何もしないで過ごさないと全開は難しい。
そのため、あいつが今超能力を使っているのは割と愚策なのだが……。
それに気づかないならそれはそれで良しとしてやろう。
無責任な考えにたどり着いて、違う方を見る。
すると、目があった。
「あっ」
柊だ。
柊は堂上とヒソヒソ話をしながら俺の方を見ている。
……あれはきっと自分だけ休みやがって、的なやつだろう。
俺はその姿にニッコリとする。
あ、ちょっとイラッと来てる。
別に嫌味な感じはないんだけどな……。
でも、怒りは訓練への原動力になる。
上司への怒りは用法用量を守ればしっかりと使えるから、これでも悪くない……。
……それをこじらせると、俺みたいに未だに殺意を抱くことになるかもしれない……。
嫌われないような願いながら、柊と堂上の訓練を見守る。
当然ながら、筋肉痛と『心のチカラ』不足で思うようには動けていない。
二人共いつも『精神感応系』では動けている方なのでみんなからも心配されている。
俺はそんな三人の様子を苦笑いしながら、今日の訓練はコツでも教えたげようかなと思っていると、
「あらっ?」
堂上の動きが、変わった。
今やっているのは『超能力を使用しながらの戦闘訓練』だ。
『クラス戦』を体感した生徒の大半が思っている、『戦闘』と『超能力』の併用の難しさ。
それをだんだん慣らしている。
今は使いっぱなしだったら、動けるようになったかな、という位の人間がちらほら出ている。
そんな状況だったのだが、今のは少し訳が違う。
今は堂上がAクラスのやつと組み手をしている最中だった。
少しお遊びのように見える組手も、本人たちからすれば至極真剣。
そんな中で、堂上の動きが変わった。
普通に動けたのだ。
しかもキレが良く。
更には相手の動きも少し止まったように見えた。
たまたま一段階を開放していたから分かった。
できてる。
俺はその事実に冷や汗が流れた。
いや、訓練翌日に出るもんじゃないぞ、その成果。
☆☆☆☆☆
学校が終わり、向かったのは昨日と同じ公園。
今日は誰も一緒には連れてこなかった。
まぁ、今日来なかったらそれまでだったってことで。
……決して呼びにいくのが面倒だったとかではない。
公園に一番先について準備体操して待っていると、
「なんで先に行くのよ」
「ほんとだよ覆瀬君」
「めっちゃ準備運動してるじゃないっすか……」
三人が来た。
三人はとても嫌そうな顔をしている。
嫌そうな顔をしているが、来た。
ということは、
「今日もやる、で大丈夫?」
その言葉に三人は少し言葉に詰まる。
確かに昨日の体験を思い出すとおいそれとうん、と言えるものではない。
しかし、否定の言葉は出ない。
それだけでも十分だ。
「みんな何が飲み物がいい?
買ってくる。
準備してて」
呆然と三人は俺のことを見る。
その様子は面食らっている様子だ。
何に面食らっているのだろうかと思っていると、
「むーさん、なんで笑ってるっすか?」
「え、そんなに『訓練』楽しいの?」
「あんた、もしかしてドS……」
「せっかく人がパシられてやろうかってのにその言いぐさかよ……」
肩を落とす。
でもそれはいつも通りで、
正直『訓練』をしたら少なからず俺のことが嫌いになるかと思っていたので、その反応は少し予想外で、
「えっ?! マジでドSっすか?!」
「え、これで楽しいとか人間?」
「もしかして私達が苦しむ姿が目的だった?」
その言葉に今日の『訓練』は厳しく見てやろうと決心した瞬間だった。
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