19:…………500分って
翌日放課後。
俺、堂上、柊、被瀬は、公園に来ていた。
俺の家の近くの公園。
「こんな公園で訓練ができるの?」
被瀬の一言。
そう、今日ここに連れてきたのは、訓練のためだ。
みんなはてっきりなにか期待していたようだが、そんなことはない。
少し大きめのただの公園だ。
今の時間は子供が帰り始め、人がいなくなる時間帯でもある。
少しの遊具とジョギングコースがあるだけの、ただの公園。
「そうっすよ。
てっきりなんかむーさんが一人で使ってる秘密の訓練施設 かと思ったっすよ」
堂上も被瀬と同様に何かを期待していたようだ。
柊はなにをするのかわかっていないのか、静観している。
「しっかりと訓練だし、かなりきついから、覚えておけよ」
「ふんっ。
あんた程度の訓練簡単にこなしてやるわ」
小馬鹿にしているような被瀬のセリフに、俺は苦笑いを浮かべる。
今回の訓練は俺が実際に行っていた訓練だ。
これは俺の師匠にあたる人は教える人間に全員この訓練を強いていたらしい。
「今回やる訓練、それは『ジョギング』だ」
「「「は?」」」
そう、最初に聞く人間はそういう反応をする。
そして、後悔する。
「ここの公園のジョギングコースを、今からいう二つのことを守って走って欲しい。
超能力のオンオフする。
俺に越されないようにする」
「……本気で言っているっすか?」
堂上は俺の提案に心配しているようだ。
多分、普段俺が体育の授業で簡単にへばっている(ようにしている)のを見てそういているのかもしれない。
もしくは超能力のオンオフなど朝飯前だということに対してなのかもしれない。
まぁどちらにしても簡単に聞こえるこの訓練内容に面食らっている。
「えっと……覆瀬君。
一応聞くけど、超能力のオンオフってどんな感覚かな?
五秒に一回とか?」
「それと越されないようにって、俺と女子は体力違うっすよ?」
「一歩に一回のオンオフ。
男は三周するまでに俺に周回差をつけないとペナルティ」
その言葉にみんなが唖然とする。
この公園は割と大きいので、多分周回差をつけるあたりに驚いている様子はない。
しかし、問題はそちらではない。
ちなみに、超能力を発動するまでに、基本的に人は1~2秒かかる。
だから一歩に1回のオンオフとかは頭が逝っている。
はっきり言おう、頭が逝っている。
昔の俺はこの訓練に疑問を抱かなかった。
そりゃそうだ。
普通を知らなかったから。
あまり超能力の使用経験のない俺にとってはそれが初めてのことで、驚きがなかった。
「正直。驚いているのはわかる。
けど、これくらいできなきゃ本当に強くなるなんて言わないほうがいい」
嘘である。
これくらいはやりすぎである。
だけど、ここで音を上げるのならば、きっとこの先でいくつも後悔することになる。
だからそれを確かめるためにも、これはやっておかないといけない。
……決して誰か音を上げれば教えるのが楽になるな、なんて思っていない。
「超能力のオンオフの確認だけど、腕輪してても分かるようにするから、大丈夫」
そう、『腕輪』は外部に放出できないだけで超能力の使用自体はできる。
それは一段階を開放してよく見れば 分かるというのは確認済みだ。
「それでもし失敗したらのペナルティだけど、追加一分。
一回ごとに。
しかも無制限で増えていく。
今日できない場合は明日に引き継ぎ」
みんなの顔が凍りつくのを感じる。
うん、その顔よく見るんだよね。
俺もこの訓練のヤバさを知ってからその顔したわ。
「でもみんな今日が初日だから、オンオフは3歩に1回オンとオフできればいいから。
ちなみに明日からは標準に戻すよ」
三人の顔が決心の表情になった。
今日中に終わらないと確実に終われない。
分かる。
めっちゃ分かる。
そう、そう思うんだけど……
「で、初期の時間は一時間だから、頑張ってね」
目の前の三人の顔が希望から絶望に突き落とされたような気がした。
もう最初の反応から最後の反応まですごい初々しくて懐かしい。
そしてこれやる側もかなり心に来るな、という事実に気づく。
だって言っていることはかなりめちゃくちゃだ。
だからこそそんなめちゃくちゃなことを強要するというのは心に来る。
師匠もこんな気持ちで……
「あ、じゃあ少し準備運動したらやるから。
各々準備しといて」
な訳ないわ。
あの人に限ってそれはないか。
あの人半分人間辞めてるような人だし。
師匠のことを考えるのはやめよう。
過去の自分が傷つくだけだ。
☆☆☆☆☆
「じゃあいくよー」
公園のジョギングコースに体育着の三人が並ぶ。
少し面白い光景だけど、本人たちの顔は至って真剣だ。
「スタート」
走り出したのは、堂上。
もちろんだ。
彼は俺を周回差をつけないと永遠に終わらない。
だけど、
「三人ともオンオフ遅い。
堂上八分。
柊六分。
被瀬八分」
開始十秒立つか立たないところで話す言葉に、みんなの歩調がガクッと下がったような気がした。
「こっからは一分ごとに纏めて話すから気つけろよー」
一段階を開放しているおかげで思考能力が上がっているため、余裕でみんなのペナルティを数えていられる。
一分後。
みんな同率くらいのペナルティ。
若干柊は少ないような感じだ。
三分後。
柊がコツを掴み始めたのか、みんなとはあきらかにペナルティの回数が下がっている。
他はまだ成長は見られない。
五分後。
柊がバテた。
越されるとその間は基本的に走っている扱いにはならないのに、ペナルティだけは増えていく。
ちなみに、俺の走る速度は少し早い。
20分くらいで女子はバテるくらいの速度だ。
八分後。
堂上がコツを掴んだらしい。
まだ息は上がっていないが、きつさに気づき始めている。
柊は開き直って明日のために一歩に三回オンオフに挑戦している。
十分後。
堂上が倒れた。
ある一定でプツンと息が切れたような感じで倒れた。
倒れるのは禁止なので速攻で水をかけて目覚めさせる。
目覚めた堂上の顔は絶望に塗れていた。
☆☆☆☆☆
「どうだった?」
俺の目の前に転がっているのは、三人の死体。
否、体力を使い切ったものの末路だ。
スタートから一時間半。
暗くなることや明日のことを見越してここで切り上げた。
「最後に残ったペナルティを発表する。
堂上、324分。
柊、218分
被瀬、542分」
堂上はコツを掴むのが遅いし、スピードも早いためにムラがある。
そのためうまくいくときはうまくいくのだが、糸が切れると地獄だ。
柊は逆に賢い選択をした。
そうそうに今日中の消化は諦め、明日のことを考えて走り込んでいた。
今回の訓練のしんどさに恐怖しながらも、走っているのはなかなか度胸があった。
そして被瀬。
「どうした被瀬。
これは得意じゃないか?」
「う……る…………さいっ」
呻き声のような声が聞こえる。
被瀬は基本的にほとんどできていなかった。
走りには最後までついていけたのは素晴らしかった。
でも超能力に関しては、終わり五分でようやくペナルティを押さえられたくらいか。
何が原因かわからないが、被瀬が苦手というのはなかなか新鮮だった。
その様子に俺はみんなに自販機から買ってきた飲み物を渡す。
死に体の姿でみんなは飲み物を飲みきり、体力を回復しようとしていた。
「むーさんは楽そうでいいっすよね」
体力を回復したのか、堂上の声が聞こえる。
俺は堂上に視線をやりながら、先を促す。
「だってむーさんは走ってるだけでいいし、遅くてもいいし。
なんだったらみんなのカウントも適当じゃないっすか?」
「それはないわ……」
その言葉に反論したのは被瀬だった。
確かに堂上の言っていることはわかる。
俺も昔同じことをぼやいたからだ。
「私これが苦手なのは分かってたからみんなが数え間違えてないか見ることにしたの。
そしたらみんな、気持ち悪いくらいに正確に数えられていた」
こいつ超能力の発動を見れるのか……ってかこいつ普通にサボってやがったな。
「それに本当に驚いたんだけど、アンタ、同じことやってるでしょ」
その言葉に、残り二人の視線がこちらを向く。
俺はその言葉に頷き、
「確かにみんなにやるだけは不公平だと思って俺も同じことをやった。
だけど俺はみんなより走るの遅いから、オンオフを一歩に10回にした」
その言葉にみんなが苦笑いを浮かべた。
……まぁ、本当は少し違うんだけど。
本当は右腕7回、左腕11回、右足13回、左足17回でやっていた。
超能力は使えるようになると部分的な発動が可能になる。
だから適当に数字を割り振ってやっていた。
頭に関しては常時発動していないと観察できないから そのままだったけど。
「まぁ今日はもう暗いし、帰ろうか。
明日からはペナルティの消化して行かなきゃいけないし」
「まじっすか……?」
「……ほんとみたい……」
「…………500分って」
各々の顔が本気の絶望度合いで見ていられなかったが、暗いからよくわからなかったってことにしておこう。
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