18:それが手頃な目標だ

「だから、私たちをあなたの弟子にして欲しいの……」

「いやいやそれは聞こえたし内容も理解出来たんだけど……」


 訳が分からない。

 なんで今の話からそこに繋がる?

 ん? 俺なんか間違ってるか?


 止まらない思考に、纏まらない考え。

 それらはなんとも言えない空気を作り出す。


「むーさん」


 その中で発言したのは、堂上。

 この中で唯一、悪気が無い人物。


「むーさんはたしかにめちゃくちゃ強いっすよ。

 だから、俺らは強くなりたいから頼んでるんすよ」

「……なら率直に頼めば良かったんじゃないか?

 今回みたいなことをやる理由にはなってない」

「今回の事をやったのは、別に弟子になりたいがためじゃないっすよ。

 今回の目的は、目標の再確認っす」

「再確認?」


 堂上は、しっかりと俺を見て、俺から見られて、はっきりと言葉を話す。

 その姿は、どこか昔に見たことがあるような、そんな姿。


「俺らはむーさんをぶっ倒すっすよ。

 その余裕そうで面白くない面に一発食らわせる為に」


 無言で俺は堂上を見る。

 堂上はニカッと笑いながら、


「これくらいやるくらいには、俺らも思うところがあるんすよ。

 何故そこまでの力を持っていながら『ランキング戦』に出ないのか。

 同じ年齢のはずなのに、なんでそこまでの力を持ってるのか、とかっすね」


 その言葉に、言葉を返せない。


 確かに、みんなからすれば俺の力は異常。

 畏怖と共に、尊敬の、嫉妬の念を抱いている。

 だからこそ、その力を振るわない人間に憤りを覚える。


 だからこそ、そいつの道を着いていく。


 理解するために、追い越すために。


「"隣に立つ人間は、勝手に来やがる"ねぇ」

「誰の言葉っすか?」

「あー、誰でもない。

 ただのバカの言葉だ」


 俺は少し考える。


 堂上の言葉は偽りのない真実なのだろう。

 周りの反応と、目が、そう言っている。


「ちょいと話を整理させてくれ。

 まず、お前らは被瀬を中心に俺が戦ったということに関して情報を共有した。


 そこで、『俺の力』『俺の過去』……んでもって『危険性』を知ることが優先事項として挙げられた」

「最後のは私だけだな」


 敢えて『危険性』の所は会長を見ながら話す。


 同じように見えて、このグループは3人と1人の集団だ。


 会長と、それ以外。


「私としては戦力、権力の2つを出し、代わりに情報と新たな情報を得る場をもらった」


 会長が俺らのグループにすんなりと入れたのは、俺にひっつく前に接触があったのだろう。

 だからあんなに自然と俺らの輪の中に入れた。


「それで会長、俺の『危険性』は?」

「分からない。

 からこそ分かることがあった、といった所かな」

「というと?」

「可能性が一つ。

 思い当たるものが」


 会長は、一本指を立てる。

 ……遅かれ早かれ気づかれるか?


「今はまだ泳がせときます。

 タイミングは大事なので」

「……初めてだよ。

 泳がせとく、なんて言われることは」

「知っての通り、ここで一番強いのは、自分なので」


 わざと挑発的に。

 反応を見る。

 依然冷静……。

 いや、


「一つ言っておこう、覆瀬君。

 私はな、死ぬほど負けず嫌いなんだ」


 超ブチ切れだ。

 額に青筋までできてる。

 その様子に、俺は視線を外し、残りの3人を見る。


「それでこっちだけど、3人は純粋に『力』として俺を見てる、って感じか」

「えぇ。

 私たちはあんたに勝ちたくなったの」

「……やっぱりむーさんは難しいこと言わないと理解が早いっすね」

「……利用するようで申し訳ないけど……」


 三者三様の反応。


 恐らく、拒否すること自体はできる。

 俺には『襲われた』という事実がある。

 それをカードにすれば、あっちは引き下がるを得ない。


 なのにこのやる気。


 …………いや、


「そういうことか。

 お前らの今回の襲撃は、それくらいをしてでも、って意思表示か」


 返答はなし。

 了承の沈黙。


 この3人は、はっきり言って襲撃をする意味が無い。

 だって授業とかでやればいいのだから。

 その方が安全で、なおかつ被害が少ない。


 なのにこんな堂々とした行動に出たのは、覚悟。


「絶対に、超える」


 ……きっと絶望した筈だろう。

 学園最強をもってしても届かない。

 そこに感じた死の恐怖。


 学園に入り、本格的に超能力の戦闘ができると思った矢先だ。


 今にでも膝をつき、諦めたい気持ちはあるだろう。


「本当はもっと簡単だと思ったんすけどね。

 やるっすよ」

「覆瀬くんはすごい。

 だから、そんな人から学びたい」


 その顔を見て、俺は悩む。


 温い生活を送ることが志向だったはずなのに、何故か知らないけどこんなことになってる……。


 嫌じゃない。


 そう、嫌じゃないのだ。

 だから悩む。

 俺の向き合い方が。


 正面から向き合えば、確実にこいつらの人生を変える。


 かといって不誠実な対応も人間的に悪い。

 やるならばやる。

 なのだが…………。


 そこで、思いついた。


 このタイミングで丁度いいのがいる。

 しかも、だ。

 今からならアイツらが来るのに間に合うかもしれない……。


 そうすればきっと…………。


「俺を超えるために俺に教えを乞うのは、分からなくはないけど、非効率じゃないか?」

「どういうことよ」

「だから、手軽な目標は必要だろ?

 いきなり俺を倒すなんてハードルとして高すぎだから、手順を踏もう」

「……手頃な目標って何?」


 俺は会長を指さす。

 会長もいきなり俺から指を刺されたことに対して、少し驚いている。


「会長倒そう。

 それが手頃な目標だ」

「「「はぁぁぁぁっ?!」」」


 目の前の三人からは、大絶叫。


 周りのお客からの大顰蹙な目に申し訳なく思いながら、会長の方を見ると、


「くくくっ……。

 手頃な目標って…………っ」


 大爆笑していた。

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