17:ハァイ??????
駅前。
学校が終わり、被瀬に捕まった(物理的に)ため、仕方がなく来てしまった。
駅前まで行くには人通りの少ない遊歩道を暫く歩くことになる。
被瀬は、自身の能力を俺と同時期に白状した。
それは『一瞬だけ身体能力を向上させる』能力。
……いや絶対に違うわ。
前の戦いだと確かに動きに強弱はあったけど、明らかに常時能力を使っている動きだった。
強いて言うなら身体強化のばらつきが目立つのが気になる。
通常は人によって、強化は結構固定されている。
調子というものは確かにあるが、それでも被瀬ほどではない。
被瀬の身体強化はなんというか、ちぐはぐなのだ。
急に何人もの人に身体強化をかけられた人みたいな、そんな強化の具合が見える。
だがしかし戦闘からでも分かったが、その動きはしっかりと戦える動きをしている。
だからこそ分からない。
被瀬の本当の能力が。
そんなことを考えながら俺はみんなの中で一番後ろを歩いている。
「むーさんむーさん」
「なんだ?」
堂上に話しかけられる。
俺は適当に返事をする。
「むーさん本当に何もなかったんすか?」
「何もなかったってどういうことだ?」
「いや、『クラス戦』からあんまり日にち経ってないし、それにむーさんなんだかんだ言いながら俺らに話してくれないじゃないっすか」
「それもそうだな。
現にそこの会長とか、風紀委員会さんとかに拘束されちゃったせいでこうしてゆっくり話してないか」
わざと前にいる会長に聞こえるように話す。
ビクリと肩を震わせたのが見えたが、気にしない。
「それで、実際のところどうだったんすか?」
「何がだ?」
「なにって、あんなに暴走していた円城相手にどう立ち回ったかっすよ」
その言葉に俺はちらりと被瀬の方を見る。
被瀬はほか二人と仲良く話しているように見える。
「被瀬からは聞いてないのか?」
「……聞いてたらこんな話するわけないじゃないっすか」
「まぁたしかにな。
でもまぁ、その話だったら被瀬に聞いてくれ。
俺は話しすぎて疲れたんだ」
実際、被瀬は俺が何をしたのかあまり分かっていない。
いや、一段回開放の俺の動きに追いつけなかった、というのが正しいか。
それに俺が何をしたのかもわからないだろう。
それもそのはず。
あの状態からの仮死状態と『中央』への瀕死のダメージを与える方法なんて思いつくはずがない。
それもあって、俺が話した話としては、
「ふーん。
ま、俺としてはむーさんがなんとかしたんじゃないかって睨んでるっすよ」
「そりゃまたどうして」
「風紀委員から少し話を聞いて突入した時の状況だけは分かったんすよ。
『体育場』は超高温で会長だけが入っていけるほどだった。
けど、後ろから見たのは平然とそんな『運動場』に立つ二人の姿、って」
堂上の言葉によく調べたな、と舌を巻く。
あの事件に関しては箝口令が敷かれていたようで、会長が突入したときにはすでに収まっていた、となっている。
そこで俺と被瀬は巻き込まれた人間で、なんとか逃げ切ったということしか発表されていない。
そのため。あの暴走した円城相手に俺と被瀬は能力を使い逃げ切った、という風に見られている。
それを被瀬も良しとしているのか、何かを話したという様子はない。
被瀬はその能力で足止めを行い、俺はむざむざ逃げた、と思われているはずだ。
「それで思ったんすよ。
何らかの方法を使ってむーさんと被瀬さんは円城を止めたんじゃないかって」
しかも風紀委員の所属は『クラス戦』が終了してから募集がかけられる。
しかし今回の事件のせいで未だに募集は行われていない。
つまり、この情報を一人で上の学年の人間に聞き出したということになる。
「で、どうなんすか?」
「だから被瀬に聞けばいいだろう?」
「なんでそうまでして言わないんっすか、けちっす!」
ぶーたれる堂上に、ため息を付く。
被瀬の方を見るが、話を聞いている様子はない。
堂上を見て、被瀬を見て、堂上を見て、
「だから円城から逃げ回っていたらあいつが勝手に収まっただけんだよ」
「むー。
……それじゃあ、質問を変えるっすよ」
俺の言葉が嘘だと信じている堂上からしたら、この話はすでに分かっている話。
ため息を付きながら話す堂上に、俺は何をしたいんだかわからなくなるが、
「むーさん、本当の能力を隠してるっすね?」
瞬間、違和感を感じる。
まるで、心が強制的に動かされるような、そんな感覚。
そして同時に、危険感知。
前から。
反応は2。
対処しようと顔を向けようとするが、
俺の顔は強制的にそちらではない方を向く。
その視線の先にいたのは、柊。
その表情は少し申し訳無さそうだった。
その様子に、状況を理解する前に、視界の外からの攻撃に対応するように体が動く。
それは、構え。
体が鈍ったのを痛感した俺は、アイツラが来る前に少しでも感を取り戻そうと少しばかり訓練をしていた。
その成果が、出る。
昔の戦い方。
受けて、叩き込む。
俺は迫る攻撃を受け止めようと気合を入れる。
一段回開放はすでにしてある。
その姿は抜刀術。
しかし剣はない。
構えるのは、拳。
衝撃。
少し痛いくらいの衝撃に反応する前に、反射で
『俺』の必殺……
俺は自身の右手を左手で抑える。
ダメだ。
危ない一瞬の出来事のせいで普通に抜くところだった。
俺は能力を抑え、構えを解く。
周りを見渡すと、そこにいたのは
「マジであんたなんなのよ……」
「冗談みたいな顔をするねぇ……君は……」
「むーさん……」
「覆瀬……君?」
俺を貶めようとして逆に面食らっている奴らだった。
☆☆☆☆☆
「で、話を聞かせてもらおうじゃないですか」
「こ、これには深いわけがあってだね……」
俺ら五人は駅前のタルトを購入して、近くの喫茶店に入っていった。
五人なので、俺がいわゆるお誕生日席的な所に座り、みんなを見渡している。
「町中での超能力使用」
「うっ」
「明らかに敵意を持った攻撃」
「うっ」
「明らかな戦闘幇助」
「うっ」
「きっかけづくり」
「あはは……」
会長、被瀬、柊、堂上の順に気まずそうな声を出す。
俺はそんなみんなの姿に大きく息を吐いてから、
「そんなことをされたら普通学園に連絡しますけど、会長も噛んでいるということは非常に深いお考えがあってやったということですよね?」
「は、はぁ……」
「確かに周りには不自然に人がいませんでした。
それは……堂上か?」
「何の話っすかねぇ?」
しらばっくれる堂上に、気まずそうな会長。
俺は一番気楽にしている被瀬に視線を向けて、
「それで、被瀬。
何をしたかったんだ?」
「……」
「黙っても無駄だ。
俺には脅迫という手段がある」
無言を貫く被瀬に、俺は少し強めな口調で話す。
「覆瀬君」
「なんだ柊」
「その……私から話すから、少し落ち着いて聞いてほしい……感じなんだけど」
柊は優しそうな声色で話しかけてくる。
俺が少し不機嫌そうにしているからか、慎重に言葉を選んでいる感じだ。
俺は椅子の背もたれに少し寄りかかり、
「じゃあ、頼むわ。
俺も面倒なことはしたくない」
「ありがと……
まず、これは覆瀬君の実力を見たくてしたことなの」
「実力?」
柊はこくりと頷く。
それであそこまでやるのか、と思いつつ話を促す。
「円城くんとのやり取りは、被瀬さんから聞いた。
だからみんなで気になってたの。
覆瀬君はどれだけ強いのかって」
「被瀬……」
「私はあくまで会長と柊と堂上に話しただけよ。
聴取では何も話してないわ」
被瀬は自分は何も悪くないというように俺から目を背ける。
その様子に俺はじーっと見つめていると、
「それで、そこに茜さんが現れて……」
「私は純粋に君の強さの本質を知りたくて近づいたら、何やら同じことを考えている真冬ちゃんがいて、協力させてもらったわけだよ」
「茜さんだったら緊急時の腕輪の取り外しを承認できるから、協力してもらったの」
「ちょっと待て腕輪の取り外しってなんだ」
柊の言葉の中からおおよそこの会長に持たせてはならない権限の名前が聞こえたため、話を遮る。
「私には緊急時に自由に能力を講師する権限が与えられていて、それを他人にも適用することができるんだよ」
「……だからそれでみんなの能力を使って、覆瀬くんの実力を確かめようとした、と」
「そう……なります……」
ようやく見えてきた話の内容に俺は一言大きな声で、
「うん馬鹿じゃないの?!」
「で、でも付近の人はツテを使って人払いしておいたっすよ?」
「それでもだ、もし知らない一般人がいたらどうする?!」
「もちろん被害が出ないように全力を尽くしたよ?」
「それは結果論だ!
ルールはルール!
それを私的に捻じ曲げんな!」
堂上と柊の言葉に真剣に怒る。
こいつらの言いたいことは分かるが、それに対しての行動が異常だ。
なんでここまでする?
「確かめたかったの」
「……何をだよ」
「あなたの異常さを」
被瀬の言葉に、俺は苛つきを覚える。
何が異常性だ?
黙っていればいいものをつけあがってやりたい放題……
「あなたは、私と会長の全力の攻撃を受けた。
それなのに、それに対してのあなたのリアクションは、攻撃を食らった後の殺意と、平然とした顔」
……何を言いたいのかを見る。
「会長の能力は『高温』
会長は人がやけどじゃ済まない温度であなたを攻撃していたわよ」
「いやー、ざっと1000度だよ。
普通だったら近づいた瞬間に死を覚悟するくらいだね」
一段階を開放していたせいでそれくらいなら大丈夫なのが仇になったか……
訓練したせいで失ってい待った感覚に心の中で舌打ちをする。
「それで私の能力は、『理想の身体能力』
私は体を思ったとおりに動かすことができる」
……ここで被瀬が自分の能力をバラすことが分からない。
「それで私が放ったのは、自身がいままでに見た最大の威力の攻撃。
……安藤選手の、神速の蹴り。
自信を持って言える。
あれは完全再現したものだった」
……あのアホ安藤の攻撃か。
道理で少し痛いわけだ。
俺は内心納得しながらも、話を聞く。
「それでも、あんたは平然としていた。
それに、その直後に放とうとした攻撃。
あれは、なに?」
「正直、私は自身の体が真っ二つになるのが見えたよ」
柊と堂上も、会長の言葉に賛同している。
俺はそこまでの話を聞いて、理解する。
「なんとなく分かった。
つまりあれだ。
どこまで強いか知りたいか、じゃなくてどこまで化け物か知りたかったんだろ?」
「そうじゃないよ覆瀬「いいの柊」」
柊の否定の言葉を遮る被瀬。
その様子に、俺は流石に盲学校にいることは無理かと考える。
流石にここまで見せてしまえば確かに危険分子だと判断する。
会長もいるということは、最近の接触はそのせいか。
「だから私達は一つ、あなたに言いたいことがあるわ」
「……何だ?」
柊が俺に絡んできてから一月が経とうとしている。
そんな日々は少し楽しかったと思う。
……はぁ、校長に頭下げるのは嫌なんだけどな……。
俺は早々に今後現れるであろう手続きと面倒さに辟易としていると、
「私達を弟子にしてくれないかしら」
「ハァイ??????」
思わず半角カタカナな言い方になったのは仕方ないだろ?
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