15:『生命の危機になったら治癒する能力』
状況から察して、被瀬がこれをやったのだろう。
俺は隣の被瀬を見ながら、外的変化がないかを確かめる。
特に何も変化はない。
外部発生系でも風操作などの見えないものか、内部発生系か……
「何よジロジロ見て」
「いや、癖だすまん」
「癖って……あんたどんな癖なのよ。
人をジロジロ見るなんて」
「いや、戦闘のときは基本的に観察するだろ」
「戦闘……ねぇ」
失言だった。
後で空耳にしておかないと。
そんなことを考えながら、俺は円城の方を見る。
土煙のせいで見えづらいが、炎が上がっているのは確認できる。
「申し訳ないが被瀬」
「何よ」
「今の遠距離攻撃何回できる?」
「……今の威力でいいなら何回でも、って感じ」
今の攻撃は完全に予想外の攻撃だったため、威力は高くなかった。
そのためあんなに吹き飛ばされたのだろう。
「確かに、それじゃあ踏ん張っている人間をふっとばすなら何回行ける?」
「そいつの力に寄るけど、多分20発くらいは」
その言葉に、少し考える。
このまま時間をかけるか、勝負を掛けるか。
思考の時間。
そしてその瞬間襲いかかってくる炎。
視界一面を染める炎は次の瞬間俺らを焼き尽くすだろう。
隣に被瀬もいる。
反射的に、構えた。
その姿は抜刀術。
しかし剣はない。
代わりに抜くのは、拳。
口から自然とこぼれ出た言葉を、俺は止めない。
「『俺』の必殺技、変則拡散」
その瞬間、拳は腰元から引き抜かれ、炎に向かっていく。
音速を超えた拳は衝撃波を纏い、炎へと対抗せんとする。
そうして、変化が起こる。
炸裂音。
まるで目の前に爆弾を置いたかのような音。
そんな音とともに、炎は弾け飛ぶ。
残ったのは、無傷の被瀬と、
「ムスビっ?!」
右腕を真っ黒に焦がした俺だった。
とっさの判断が遅かった。
対処はできたがそれだけだ。
「あー、心配すんな」
俺は被瀬に声をかけ、能力を使用するか戸惑う。
ここで見せてしまえば俺の能力の一端を被瀬に見せることになる。
「心配すんなって、これあんた焦げてるじゃないの!
どうしよう……」
焦っている被瀬の姿を見て、このままの方が面倒だと判断し、
円城が迫って来る。
炎を利用した移動なのだろうか、かなり早い。
恐らく被瀬は反応できない。
だけど、傷を追って一段回開放した俺ならば、
左手で問答無用に円城の頭を掴む。
まだ実態はあるようで、しっかりと掴むことができた。
それをそのまま地面に叩きつける。
この間、数瞬。
被瀬はすぐ横に地面に叩きつけられた円城の姿に驚愕している。
間髪入れずに追撃。
頭を踏み抜く。
潰さない程度にソフトにだが。
頭が少し浮いた瞬間に、踏み抜いた脚でサッカーボールキック。
死なない程度の優しいキックは、円城の体をふっ飛ばし、先程までいた場所に戻してやる。
「あんた、何を……」
被瀬が俺の姿を見て言葉を止める。
それもそのはず。
先程まで焦げていた体は、綺麗に元通りになっている。
黒く炭化した腕も、元通りに動いている。
「何をしたのよ……」
「ちょっとしたことをしただけだ。
それよりも、もし予想が正しければもうすぐ復活するから対応頼むわ」
「えっ、それって、え?」
「だからさっきの遠距離攻撃打ち込むでもいいから警戒してくれ」
被瀬は俺の言葉に流されるように構える。
先程の何か見覚えのある構えだ。
今はそれに気にしている暇はない。
考える。
このまま学園の増援が来るまで待つか。
それとも、ここでなんとかするほうが早いか。
判断に悩む。
その間に円城が動いたのを感じた。
「来るぞ」
「分かってるわよ」
円城が立ち上がると同時に不自然に空気の流れが変わる。
体勢を崩した。
なにかあたったかのような体勢の崩し方だった。
……なるほど。
さっきの俺みたいに衝撃波を飛ばしてるのか。
「ちなみに被瀬。
この空間に後どれくらいいれる?」
「10分程度っ。
それだけあれば増援まで粘れるでしょ!」
蹴り、拳、肘、膝。
体の攻撃可能な部位をすべて使って衝撃波を出している。
なかなか器用なことするな、と思っていると、
「あ」
気づいた。
そういえばこいつそんなに超能力使えてなかったじゃん。
ならもう一つの可能性は考えなくてもいい。
「なによ、何思いついた顔してるのよ!」
「いや、あいつまだ未熟だったよな、って」
「それが何よ!」
「別に気にしなくていい。
被瀬、そろそろその攻撃止めてもいいぞ」
その言葉に、被瀬はちらりとこちらを確認した後に、
「大丈夫なんでしょうね」
「あー、もちろん」
「……なんか不安げな返事ね」
被瀬の心配そうな目をスルーしながらも、準備する。
構えは、先ほどと同じ。
剣のない、抜刀術。
剣は拳。
低く、低く。
息を吐く。
「はっ!」
被瀬の最後の一撃。
円城が体勢を崩す。
その瞬間、俺は踏み出す。
円城との距離は大体10メートル前後。
それを、一歩で詰める。
時間の感覚が、引き伸ばされる。
すぐ真下には、円城が倒れている。
円城は俺の姿を捉えた後、狂気の笑みとともに
「コロスゥゥゥゥゥゥ!」
迫ってくる。
第一段階まで開放しているため、熱はすでに効かない。
炎では温い。
問題は、タイミング。
中心を、探す。
見つけた。
そのときにはすでに俺の顔面には円城の拳が突き刺さっていた。
けど、効かない。
温すぎる。
円城の拳は意に介さない。
抜かれる拳。
狙うは心臓。
そして『中心』
両方を同時に、殺す。
振り抜いた右手は、綺麗だ。
そして周囲を囲っていた炎は火花となり、消えゆく。
円城は、絶命した。
☆☆☆☆☆
三日後、昼休み。
俺は校長室にいた。
「なかなか疲れているようじゃないか覆瀬さん?」
「……疲れているも何もなんで呼んだんですか?」
あの日は問題を処理した後が面倒だった。
もう能力は使ってないとはいえ、何も対策をとっていない人間にとっては突入するのが困難な『体育場』
しかしそれは『生徒会』の活躍によって突入することができた。
そこからはもう怒涛だった。
『生徒会』『風紀委員』に寄る事情聴取と、学園での噂。
「それにしても、なかなかの手際ですねぇ」
「いや鈍ってたわばっちり」
円城に関しては死んでいない。
俺が行ったのはあくまで仮死状態にすること。
それを行うことによって人間は短期的に超能力を大幅に失う。
「いえいえ、私達だったら殺すという道しかなかったですけどね」
「……あんたがいれば解決できるだろうに」
「ははは、私は基本的に物事に干渉しないですからね」
当然だというように笑う爺さんの顔面に拳を飛ばしたくなるが、
「確かにこの時間はかなり助かるわ。
暫く寝させてくれ」
「少しお話をしてくれたら、少しの間はいいですよ」
俺は校長室にあるフカフカのソファに寝転がる。
なかなか高級なものを使っているらしい、すぐにでも寝れそうだ。
「それで、『生徒会』や『風紀委員会』にはなんと?」
「あぁ、それで少し頼み事なんだけど」
俺は思い出した頼みごとを話す。
「実は超能力持ってたみたいだわ設定にしといてくれ」
「……ほぉ。
してそれはどんなものに?」
ここで俺が本当の能力について話さないと思っている辺りわかられていると言うかなんというか。
俺は三日前から散々話している文言を繰り返す。
「『生命の危機になったら治癒する能力』」
「やはり限定条件ですか」
「そうだ。
そうしないと今まで判明していなかった理由付けにならないからな」
俺は結局、あの場にいることを説明するために、実は超能力使えた作戦を敢行することにした。
これに関しては入学する前から考えていたものがあるため、それを使いまわした。
「だからいままで通りで問題ないし、身体能力に変化あるわけじゃないし、『ランキング戦』で戦えるということもない」
「確かに、それはいい能力ですね」
『ランキング戦』はあくまで『水晶』の消耗や服のダメージで勝敗を決する。
そのため、自身の肉体を回復したところで『ランキング戦』が優位になることはない……と思う。
あんま良くしらんけど。
「ですが、それを信じないものが何人か……」
「……分かってるならなんとかしてくれ」
「いやいやいなかなか、生徒感のいざこざは校長の役目ではないですからねぇ」
ここで何時間居座ってやろうかと画策していると、チャイムが鳴った。
「それじゃあ。勉学に励んでください」
「……おいまてそれだけ聞くために呼んだのか?」
俺は仕方がなく起き上がり、教室に向かおうかと考える。
……正直授業と校長とのおしゃべりとを天秤にかけると、授業のほうが楽な気がする。
「いえいえ、聞きたいこと……いいえ、言いたいことは一つだけですよ」
校長はその椅子に深く腰掛け直し、ため息を付きながら、
「近々、来るらしいです」
「誰がだ?」
「そりゃあもう。
『無体』の方ですよ」
頭を抱えた。
俺の温い学校生活が終わるかもしれない。
そんな絶望にも似た感情が俺を包む。
「ただ、今立て込んでいるらしいので、まだ先になるそうです」
それまでに、なんとかしないと。
俺はそんな決心を固め、校長室を飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます