13:あんたはつまらない人間じゃない
『トリオ』の試合は『カルテット』の試合よりも早く終る。
そのため、次の『デュオ』の試合の奴らも早々にいなくなり、自分が戦う番が近づいてきたことに憂鬱になる。
だが、柊も堂上も勝ち上がっているため、まずはそこの応援でもしよう。
一学年四クラスが、それぞれ3チームずつ出しているので、合計12チーム存在する。
二回勝ち上がると3チーム残り、そこから1チームがシード権を獲得し、準決勝が始まる。
つまり、この二回戦で勝ち上がることができれば決勝戦まですすめる可能性もあるということだ。
先程の『カルテット』の試合では個々人のレベルが高いバランス型のチームが勝利したが、『トリオ』ではどうなるだろうか。
一回戦も残りは一試合。
知っている人間が出ない試合ならばよいだろうとぼうっと見ている。
「お」
そこでは、思わず声を出してしまうくらいの面白い生徒を発見した。
Dクラスの、坊主頭の背が低い少年。
中学生臭さが抜けておらず、体操服も少しブカっと着ているが、遠目でも分かる鍛えられた肉体。
足運びがしっかりと武道を学んでいる人間の動き。
面白そうだなと見ていると、すぐに決着は着いた。
ワンマンプレイ。
その言葉がふさわしいほどの試合。
少年意外の二人は、少年に強化系の能力をかけたと思うと、すぐさま後ろに下がる。
消えたかと思うほどの身体能力を発揮した少年は、相手を圧殺。
強化系の能力をもらっているから当然なのでは、と周りは思っているようだが、それだけじゃない。
体の使い方が上手い。
通常、強化系の能力を付与されると、人は自身の体の操作が難しくなる。
だからこそそれになれるのは努力の賜物であると同時に、
「っだぁっ!」
センス、その一言に尽きる。
Dクラスでも人気なのであろう禿頭の少年のガッツポーズにつられ、Dクラスの生徒達から歓声が上がる。
このDクラスの生徒達の次の相手は、堂上だ。
無理だろうなと思う反面、どうするのか期待している俺がいた。
☆☆☆☆☆
結果としては、Bクラスの連中は二回戦で全部負けた。
柊はCクラスの連中と戦った。
一回戦では少し動きがぎこちなかったCクラスの奴らが、戦いに少しなれてきたのか、自身の強みを持って柊を攻め立てた。
柊も強化系の能力を持っているというわけではないので、それに対抗し切ることもできず、撃沈。
残りの爆弾組もなんとか作成できた分で応戦するも、敗退。
堂上は先の坊主頭の少年のいるチームと戦った。
先ほどと同じ作戦を取ろうとした堂上たちに、坊主頭の少年は強襲を決行。
新道は突然のことで対応できずに撃沈。
堂上、杢師も対応はできていたのだが、近接戦において三人分の能力を持った人間に勝利することは叶わず、敗退。
二人は戻ってくるなり、俺に対して、
「「次は頼むわよ(っす)」」
と言ってきた。
何が頼むなんだよ、とも思いながらも、悔しそうにしている二人に対してそんなことは話せなかった。
隣の柊も、堂上も、少しばかり悔しい素振りを見せたと思ったら、仲間のフォローに回り始めた。
みんなは柊と堂上によく頑張った、なんて声をかけているだろうけど、知っているのだろうか。
アイツラが頑張っていたことを。
二人はみんなに見えない努力をしていた。
戦略、自身の能力の使用感、戦いの前の緊張感との折り合い。
一歩引いていた俺だから分かったのかもしれない。
……だけど俺がそれを取り返すとは思えないけど。
努力した結果、だめだったから、負けた。
それは努力が足りないとかそういうものではない。
結果が全てなこの世の中では、それで終わりである。
今更悔やんでも仕方がない。
……けど、あの二人は、この戦いで負けた奴らは、『次』がある。
死んでない。
俺はそんなことを考えながら、誰も知っている人がいない『デュオ』の試合へと目を向ける。
『デュオ』の試合は至ってシンプルだった。
個人戦か、二人で戦うか。
先程までの戦いと違い、策略の少ない、ガチンコ勝負。
能力と同時に、体の使い方を問われる。
力を使いながらの移動は難しいようだが、その代わりに力を最小限で最大級の活用ができるような工夫も見られる。
……まぁ、おままごとみたいで泥臭いのは否めないが。
そうして負けた奴らの表情は、悔しそうである。
『デュオ』は、実力が出る。
だからこそ、負けたときに自分の実力不足だということも感じやすいのだろう。
そうして、一回戦が折返しになるであろうタイミングのときに、
「それじゃあ、『ソロ』の人は準備を開始してくださーい」
占星先生の声が聞こえた。
俺はその言葉に重い腰を上げて、立ち上がる。
周りからの視線が痛い。
みんなどうしてお前なんかが、という視線を送ってきている。
分からなくはないその視線。
しかし、選ばれてしまったことには仕方がない。
潔く負けよう。
試合を見ていて思ったことは、案外みんな頑張っている、ということだった。
そんな中に俺みたいな変なやつが入ったら、それは嫌だなと思う。
「あんた」
観覧席の後ろを通ろうとすると、後ろから声がかけられる。
振り向いて、視線を下に落とす。
そこにいたのは、被瀬。
俺はその小さな姿になんだか安心感を覚えながらも、
「みんな真面目にやっているんだな」
「当たり前じゃない」
「こんな中に入ったら申し訳ないわ」
「……つまらないこと考えてるわね」
「つまらなくて結構」
俺はその言葉とともに、振り向いて控室に向かう。
被瀬は、トテトテと俺の隣について着て、
「あんたはつまらない人間なんかじゃない」
「……どの口がそんなことをいうんだか」
「私が言うことは真実なのよ」
被瀬の自信満々な言葉に、俺はため息を付きながら、
「その自信はどこから出てくるのやら」
「あんたよ」
「え?」
即答が聞き取れず、聞き返す。
しかし、被瀬は少し間を開けたと思ったら、
「なんでもない」
「なんでもないって、なんか言っただろ」
「いや、別に話してないわよ。
空耳じゃないかしら」
そこで、俺と被瀬は道を分かれる。
対戦上、俺と被瀬は別の控室に行くことになる。
そのため、ここで二手に分かれるのだが、
「覆瀬結」
「……なんだ?」
フルネームで呼ばれて慣れないせいで、反応が遅れる。
被瀬は、俺の顔を見てニコリと、
「戦って、頂戴ね」
可愛らしい笑顔で、そう言った。
その言葉に俺は拒否の言葉をかけようとして、口を噤んで、
「気が向いたらな」
そう返した。
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