12:小さな拍手を送った

 『トリオ』


 『カルテット』は基本的に団体戦のような戦いが多かった。

 中には個人戦をわざと仕向けているものもいたけど、主にそんな感じだった。


「はじまった」


 一人そんなことをつぶやく。

 周りには幸いにも誰もいない(トリオに出ているやつが多い)ので、怪しいやつだと見られることはない。


 ……というか今の時点で俺のことをやばいやつだと思っていないのはいないだろうな。

 始まった『トリオ』の戦闘を見ている。

 今回は柊も堂上も出ていない。


 『カルテット』より早く決着がつく。

 一気に毛色の変わった戦闘に俺は注力して見るようにする。


 そうしてもう二試合を観戦する。

 そのどれもが柊も堂上も出ていなかったが、傾向は理解できた。


 基本的に『トリオ』は個性の殴り合い。

 自分たちの強いと思うところのぶつけ合いだ。


 例えば、遠距離が強いチームなら、全員初手に全力発動。

 近距離戦が得意なら全員近接。

 バランスよくいるなら、多対一を作る戦闘で確実に処理していく。


 そんな自分たちの一番強い戦術を採用しているところが多く見られる。


 そうしていると、柊のチームが出てきた。


 柊のテームメンバーは全員女子のようだ。

 その誰もが少し非力に見える。


 柊の能力は以前にも食らったが『人の目を引きつける』能力だ。

 それをどういう風に生かしていくか少し気になるところではある。


 ……個人的にはかなり凶悪な能力だと思うから今のうちに性能を知っておきたいではある。


『はじめっ!』


 試合が始まった。

 相手方はバランス系のチームらしく、ガタイのいい男子を先頭に中衛、後衛の陣形で攻めてきている。


 対する柊のチームは、即座に一人の女子が何かを土から錬成している。

 ……造形系か、発生系か。


 地面から取り出したのは、大きい盾。


 柊は脚を踏み鳴らし、大きな音を立てたかと思えば、それを受け取る。


 しゃがんでしまえば柊を安々と隠してしまうほどの大盾を持った柊。

 向かってくる集団に対して、残りの二人から離れるように動いた。


 普通に考えれば、残った二人から片付けるのが簡単そうに見える構図。


 だが、相手の反応は違った。


 柊を追いかけ始めた。


 ……能力か。


 柊の能力は視線ではなく、あくまで認識に作用する。

 末恐ろしい能力に顎に手を当てる。

 誘導、囮、全てができる。


 しかも盾を持った辺り戦闘の心得が最低でもある感じ。


 体育の授業ではあんまり見なかったけどな……


「はぁっ!」


 柊の怒声。

 観衆すらも引き寄せるその存在感に、皆は目が話せていない。

 俺はその間に残りの二人が何をしているかを見る。


 ……爆弾か。


 何やら二人の能力で手に持てるくらいの箱状の何かを作っている。

 造形は先程大盾を作っていた少女が。

 その中に何かを詰めているもう一人の少女が見える。


 明らかに戦闘中とは思えないくらいのゆったりと準備できている。


 その反面、柊は、


 向かってくる拳を盾で受け流し、遠距離から飛んでくる氷のつららを華麗に避けていた。

 相手の中衛は何か前衛の能力を使っているのだろう。

 明らかに前衛の体の動きも、硬さも、判断能力も違っていた。


 鈍い音、地面につららの刺さる音、脚を踏み抜く音。


 余計な言葉は話されず、ただ戦闘が行われていく。

 観客も柊の一挙一足等に目を離せないでいる。


 それもそのはず、柊はそんな状況でも果敢に、しかも同等に戦えている。


 ……と見えるのは一年生だけかな。


 柊は基本的に回避か防御を選択している。

 攻撃は一切しない。


 基本的には遠距離攻撃は回避一択。

 近接攻撃は極度に距離を詰め、超接近戦に持ち込む。


 格闘スタイルの相手からすれば非情にやりづらい相手だ。


 中衛は攻撃に参加しないでいるため、実質は二対一。

 それだけを練習すればあそこまで華麗に立ち回れるのも無理はない。

 それに、超能力をうまく使っている。


 こまめにオンオフを切り替えているせいで、相手は認識の緩急についていけていない。

 注目したり、しなかったり。


 やりすぎると流石に気づかれるだろうが、それでは遅い。


 柊が大きく相手と距離を取った。


 相手も無理に負うことはせず、様子見していると、


 爆発。


 轟音。


 皆がびっくりする。

 しかしすぐに気づく。

 今のは柊意外のチームメイトの仕業だと。


 現に柊は爆弾を投げたチームメイトの二人とハイタッチしている。


 ……あれだけ作った爆弾全部投げたのか……


 俺は相手チームが少し不憫だな、と思いながらも、小さな拍手を送った。



☆☆☆☆☆



 柊のチームが終わり、結果が表示される。

 どうやら相手はDクラスだったようだ。


 次の組み合わせはCクラス対Bクラスのようだ。


 しかもうちのクラスで残っている『トリオ』のチームは、堂上のところのみ。

 ちなみにもう一つのチームはAクラスのやつにボコボコにされていた。


 出てきたのは、堂上、新道、杢師(もくし)。


 新道は外部発生系の能力者。

 大きめの振動を生み出すことができる。

 将来的には音も自在に操ることができる、と本人が大きな声で体育のときに言っていた。


 杢師もこれまた外部発生系の能力者。

 煙を生み出すことができるらしい。

 まだ水蒸気しか無理だが、なにやら色々な種類の煙を出そうとしているのは体育の授業で見た。


 そんな三にと相対するのは、Cクラスの三人。

 これまた遠距離戦闘員だと言わんばかりのガリガリ揃いである。

 体を鍛えていないのがまるわかりだ。


 しかし、そういうやつの遠距離攻撃はマジで威力が高いときが多い。

 舐めているとやられてしまうこの状況、堂上をどう対処するか。


「はじめっ!」


 始まりの合図。

 その瞬間、Cクラスの奴らは、手を上空に掲げ、一点に手をかざす。


 そこに集まるのは、熱気。

 それは集まり、煌々と輝き、炎へと変わる……。


 と思ったその瞬間、


 パン、と炎が散り散りになる。

 観客たちはざわめく。


 何が起こったのだと。

 その原因はすぐに分かる。


 Bクラスのチームだ。


 Bクラスのチームの周りには、煙が立ち込めている。


 その中心に立つのは、新道。

 少し不良感のある顔をしている新道は偉そうに腕を組んでそこにいる。


 話しかけたくない雰囲気のするそれは、何もしない。


 そう、何もしない。


 だが、Cクラスのメンツに視線を向けると、


 震えている。


 地面も、体も。


 一方は新道の能力だが、何故か恐怖でも震えている。


 その原因を、俺は見つける。


 煙で見えないが、新道の後ろで縮こまっている人影。


 堂上だ。


 堂上の超能力は、『強制同調』

 堂上が抱いている感情を他人に矯正できる。

 しかも他人は自然とその感情になるため、術にかかっていると認識ができない。


 前もこれを使って柊の疲れたという感情をごまかしていた。


 今回は『恐怖』だろう。

 自分が『新道に恐怖する』感情を抱き、能力を発動する。

 そうすれば現状のようななにか分けのわからないものに怯える、構図ができる。


 杢師の能力は姿を見せないためと単純に演出か。


 新道の能力も合わせ、普通なら戦闘に使ったほうがいいと思う能力を全く違う形で使用。

 面白い。


 ……少し、『ランキング戦』というものの楽しみに触れたような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る