11:てら
「むーさんはなんでそんなに人を煽ることができるんすか? ほんと」
「なんだいきなり」
今日は『クラス戦』当日。
朝からクラスの生徒達はソワソワしている。
そんな中俺は一人静かに席に着いて本を読んでいる。
「いやいや、むーさんマジですごいですね。
何もしないで人を煽るとかマジで天才だと思うっすよ」
「……それだと俺がなんか存在そのものが煽りになってるみたいな言い方だな」
その言葉に堂上は額に手を当てる。
……まぁ、あえてやってるんだけどな。
俺はそれを言葉に出さない。
そう、俺は何もしなかった。
この一週間は昼休みと放課後に少し被瀬、柊、堂上と話すくらいで、それ以外に特別なことはしていない。
もちろん、体育の授業は『クラス戦』前だからと多めにあったが、その全てを自主練にした。
被瀬のやつは少し超能力相手にやりたかったらしく、自主練はしていなかった。
そうして俺は怠惰に怠惰を重ねた。
……というか今まで通りにしていただけなんだけどな。
「まぁ確かに前までと何も変わらないっすけど、それはあくまで『無能力者』である、前のむーさんっすからね」
「だからみんな俺に期待し過ぎなんだよ」
「……それだからみんなに嫌われてくるんすよ……」
俺のクラス内での評価はだだ下がりだった。
特に何かそれで俺が被害を被ることはなかったため、それはそれで問題ないけど。
「おかげで俺もこうして話しかけづらいっすよ」
「いや、現在進行系で話しかけてんじゃん」
「それは小声でみんなに見られないようにしているからっすよ」
堂上は俺の机の前に膝をついてしゃがんいる。
確かに見えづらい体勢だけどもう何人かがこっち見てるぞ。
そんな視線を感じ、
「堂上、俺の心配している余裕があるのか?」
「あぁ、それなら心配いらないっすよ。
俺はトリオっすから、他のメンツを信じてるっすよ」
信じてるからって話しかけていい理由にはならないだろ。
その言葉を飲み込み、
「もうすでに俺に話しかけているのに勘づいているやつがいるから、早く席にもどれ」
「……あぁ、そうっすね。
じゃあ俺は席に戻るっす」
堂上はちらりと周りを一瞥し、自分の席に戻っていく。
俺はその姿からすぐに視線を外し、本を読む。
その様子にクラスの奴らはヒソヒソと小声で何かを話すやつもいる。
恐らく俺の悪口であろうが、特に気にはしない。
本を読み進めていく。
その本の内容は、いつもより頭に入ってこなかった。
☆☆☆☆☆
場所は変わり、『運動場』
朝のホームルームが終わり、俺らは『運動場』へと向かった。
『運動場』は『運動場』でも、場所は観覧席。
そこにはクラスごとの場所があり、俺らは名簿順に座る。
ちょうどAクラスも着たのか、そこには被瀬の姿があった。
被瀬も俺を見つけたのか、視線がかち合う。
被瀬は可愛らしくウィンクをしてきた。
……だから面だけはいいから面倒なんだよな。
俺はわざとらしく視線を外し、『運動場』を見渡す。
『運動場』には多くの生徒が集まっている。
その大半は生徒なのだが、生徒は生徒でも、装いが違う。
まずうちの制服のピシッと着ている連中。
特徴としては腕に腕章をつけている。
その腕章には『風紀』の二文字が。
彼らは生徒たちの案内や見回りを行っている。
これが風紀委員。
学内の秩序を守る人たち。
確かここのリーダーがそこそこやるってのは聞いたことがあったな。
少し探してみるが、それらしい人物はいない。
諦めて他の連中を観察する。
他にいたのは、白いマントを羽織っている連中。
人数が少ないのか、見渡しても5人しかいない。
こいつらは『生徒会』
一クラス1名を選出し、結成している組織である。
まだ一年は選抜の段階であるため、そこに加入することはできない。
学内でも強い人間しか入ることができないとされている『生徒会』
基本的な仕事はルールの作成、イベントの作成、クラス間のいざこざの仲裁等、クラス単位、学年単位での仕事を行っている。
『生徒会長』はこの学園最強だと思ってもいい、との話だがどこにいるか……
「ねぇ、覆瀬」
一人だけ明らかに強そうなやつを見つけた瞬間、脇腹を小突かれる。
俺はその一瞬で視線を隣の方に向ける。
そこにいたのは柊。
しかも少し不機嫌そうにしている。
「なんだよ」
「なんだよじゃないでしょ?
心配してるの」
「別に心配いらないよ。
俺は勝っても勝たなくてもいいからな」
俺はそう言いながら、視線を元に戻すと、そこには誰もいない。
肩を落とそうとした瞬間に、再度脇腹を小突かれる。
「勝たなくてもいいって……あんたそれでも杉崎の生徒なの?」
「生憎、受かっちまったもんは仕方がない」
「……はぁ、なんでこんなのがこの学校にいるのやら……」
柊さんはどうやら本気で心配はしてくれているらしい。
俺はその様子に少しほほえみながら、
「別に心配すんなって。
死ぬわけじゃないんだしさ」
「……そうは言ってもねぇ。
あの誓約書書いたんでしょ?」
「まぁ、書かないと出られないしな。
……正直書かないで出たくもなかったけどな」
「ったくもう……」
柊とのコソコソ話をしていると、
「さぁそれでは始まりますよ、『クラス戦』」
占星先生が現れ、その大きな眼鏡を持ち上げながら話し始める。
俺は気怠げに見ているが、クラスの奴らは大騒ぎする。
「ここからあなた達の『ランキング戦』は始まります。
正直、ここまでの学園生活はつまらないでしょう?
だからここから始めましょう。
青春を」
かっこいいことを言う占星先生の様子に、クラスの奴らも大盛り上がりしている。
俺はその様子に少し冷めた目で見つつも、隣のクラスに目をやる。
そこにはここと同じような風景が広まっている。
大騒ぎするクラスメイト。
……あ、俺みたいなやつもいるわ。
被瀬。
どこか冷めた目で周りを見つつ、少しキョロキョロしている。
視線がまた合う。
今度は何をしてくるか見ていると、被瀬が目を逸らしてきた。
「それじゃあ、まずは『カルテット』から試合を始めていきます。
準備してください」
なんか負けた気分になりながらも、視界の端では『カルテット』に出場するクラスメイトがぞろぞろと席を立つ。
「さぁ、しっかり見るわよ……」
隣の柊はどこから持ってきたのかペンと紙を取り出していた。
俺は未だに出ないやる気にどうしようかと考えつつ、やることもないので試合を眺めることにした。
そこから始まったのは、悲しいショー。
素人同然の動きを晒す生徒。
それに対応もできなければ、自分たちがうまい立ち回りをできるわけでもない。
見ていて可愛そうになる試合を延々と見せられる。
これは流石に……。
見ていて顔を覆いたくなるような光景が続く。
しかし、中には面白いことをする奴らもいる。
しっかりと動いて戦うもの。
連携を考えて動いているように見えるもの。
超能力を場に応じて発動しようとするもの。
二戦に一回位でそんな奴らが見れるので、そこまで最悪なものではなかった。
『カルテット』というのはその性質から乱戦になることが多い。
基本的には障害物無しで戦うため、身を隠したりなどの戦略的な効果を生み出すのが難しい。
だからこそ、連携的な動きをしたり、防御から固めたりするチームは目を引くものがあった。
そうしてどんどん片付いていく試合。
個人的には準決勝のC対Dクラスが一番見れる試合だった。
そこが一番試合のことを考えているやつが多く、またスタープレイヤー的な者もいるからか、見栄えが良かった。
決勝はそこで消耗してしまったのか、対策を練っていたのかはわからないが、Aクラスの奴らが完膚なきまでにボコボコにしていた。
確かにどちらのチームも中心のプレイヤーを倒されると一気にもろくなる。
さすが『カルテット』とも言うべきか、一試合が少し長く感じた。
決勝の試合をやっているときに先生が現れ、
「トリオの準備をします。
該当のものは着いてくるように」
そんな声がかかる。
徐々に人が帰ってきているが、大半の生徒は立ち上がり、準備へと向かう。
柊と堂上はトリオなので、二人共立ち上がる。
「じゃあ、行ってくるわ」
「てら」
気怠げに返事をする。
視界に入ってきた堂上は、明らかに俺の方を見て、グッドサインを出してくる。
ムカつくので見ないことにした。
少し残念そうな顔をした堂上に、少し手を振り返すと、犬のように喜んで行ってしまった。
……なんか、残念なやつだな……。
素直な感想を心に抱きつつも、次のトリオが始まるのを待つ。
何だったら俺の知っている二人はいいところ見せてくれると助かるな。
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