10:……今のうちに折れちゃえば?
先生に話を聞いて見たところ、何やら今日の朝の職員会議で決定した話だという。
一応抗議してみたが、「うーん、でも校長先生からの話だし、早乙女先生も良いって言ってたから……」と渋い顔をされた。
少し心の中で悪態を着いたのは許して欲しい。
「それで、お前らはなんでにやにやしながら見てるんだ」
昼休み。
俺は一人でパンを食べていると、席の近くに2人の人影が寄ってくる。
被瀬と堂上だ。
こいつらの憎たらしい顔を見ると少し口調が荒くなってしまいそうだが、ここは抑える。
「むーさん。
『クラス戦』出れた感想をどうぞっす」
「え待って開口一番でムカついたんだけどクソ野郎」
「もうちょっと乗ってくれたっていいじゃないっすか!
なんでそんな罵倒からはいるっすか?!」
数秒前の決意なんぞ知ったことかコノヤロウ。
……堂上だから、仕方がないよな。
俺はそこから横に視線を移動させ、少し下を向ける。
そこには堂上と同じ顔をした被瀬の姿。
「私の言ったとおりになったでしょ?」
「まぁ、確かになったな」
「ってことは、あんたも折れて結局は私と『ランキング戦』に出ることになるのよ」
「そうか」
「……今のうちに折れちゃえば?」
少し可愛らしく言ってくる被瀬には、怒るに怒れない。
面はいいんだよな……こいつ……。
何も言えずにこめかみが少し動くのを感じていると、もう一人の参加者が来る。
「やっぱりいた」
食堂から来たのか、教室に入ってきた柊。
俺らの姿を確認して、ニコリと笑う。
「覆瀬くん。
とりあえず、おめでとう」
「とりあえず、どういたしまして」
「クラスの女子はなんとなく納得してたよー。
あんなに動けるなら出ても問題ないかもって」
「なんで俺はクラスの女子から欲しくもないお墨付きをもらわにゃいかんのだ」
その言葉に苦笑いしてしまう俺に、柊は苦笑する。
その様子を見た堂上は、ここぞとばかりに、
「クラスの男子は無茶苦茶言ってるっすよ!
なんであいつが、とかあんなのが、とか」
「なんで俺はクラスの男子から欲しくもない罵倒をされにゃあかんのだ」
頭を抑える。
ほんと、俺は何もしてないのに……。
被瀬はその様子を見てくすくすと笑いながら、
「あんた、モテモテじゃない」
「そう聞こえたならハッピーで何よりだ。
多分今の噂してた奴らは大体俺のことをクラスメイトとも見てない奴らだよ」
「それでも、あんたはソロに選ばれた」
「……ん.ちょっと待て」
俺はそこで被瀬の言葉に疑問を覚える。
「ソロにさせたのはお前じゃないのか?」
「いえ? 私はあくまで参加までを強制させただけよ?
流石に『クラス戦』のソロにしてください、なんて意味ないじゃない」
『クラス戦』のソロは、いわばクラスの花形。
学校側から作為的に選ばれるとはいえ、それに選ばれるということ名誉だ。
ソロで戦える、と学校側から認められたようなものだからこそ選ばれる。
うちのクラスでも、内部発動系と、肉体変化系が選ばれていたはず。
その中で選ばれた時は心底被瀬を恨んたけど、
「え、マジでなんもしてないの?」
「えぇ、別に私はあんたがどれに出ようと、『クラス戦』に出せれば、良かったもの」
確かに、と俺は被瀬の言葉に納得しながら、考える。
……まぁ、分かってはいる。
被瀬がやったのでは無いならば、犯人は一人しかいない。
さっきから頭の中をチラついている人間だ。
膳材流。
校長にして俺のことを知っている数少ない人間。
「あ、そういえば、被瀬さんはどれに出るっすか?」
「あぁ、私?
私もこいつと同じ『ソロ』よ」
「え、被瀬さんもっすか?」
あぁ、ますます校長が怪しくなってくる。
敢えてやってる……?
そんな考えが頭をよぎるが、
「でもまぁ、四クラスもあるんだから2人が当たることはまずないんじゃない?」
柊の言葉に確かにと納得しかけるが、またまた校長の顔が頭に過った。
今までいくつか接点はあったものの未だにその全貌が見えない。
だからこそ考えるだけでも無意味な感じはしているが……
「一応聞いておきたいんだが、被瀬は誰に言ったんだ? 今回の話」
「ん? 私は早乙女先生に話したわよ。
あの現場にいたから説得力があったわよ」
普通に考えてここで校長が絡んでくることはないだろう。
だがしかし相手はあの校長だ。
ってか校長ってこういうことは知っているはずでは?
考えれば考えるほどに校長が関わっていると思えてくる。
「まぁそれを抜きにしても、早乙女先生がなんか学校の先生に言ってまわってたみたいよ。
覆瀬は実はすごいんだって」
「あぁ、確かに聞いたっすね。
むーさんが超能力を持っていないにも関わらず、倒したって」
被瀬の言葉に堂上も賛成する。
そんなことがあったのかと思っていると、柊は少し考えて、
「他のクラスの子も知ってたって言ってたよ。
なんか体育の授業で聞いたとかって」
「あの時の戦いは確かに超能力を使っていないとはいえ確かにインパクトはデカかったっすからね。
早乙女先生が話したくなるのも分かるっすね」
堂上の言葉に俺はそういうものなのか、と一先ず聞き入れる。
色々思うとところはあるが、それも全てまだわからないことだらけである。
「まだ組み合わせも出ていないのにまだ悩む必要はないか」
「お、むーさんもやっと『ランキング戦』出るようになったんすね?」
「なんかそう言われると少しむっとするものがあるんだよなぁ」
どういうことっすか?!、という堂上のツッコミが来る。
昨日に引き続きにぎやかになった昼休みは、あっという間に進んでいった。
☆☆☆☆☆
翌日。
『クラス戦』の組み合わせが発表された。
それも、
「フラグって、こういうことだったんっすかね?」
「ごめん、私があんなこと言っちゃったばっかりに……」
「いや、別に柊は悪くない。
悪いのはきっと堂上だから」
「えぇ?!
なんで俺なんすか?!」
トーナメント式で行われる『クラス戦』
一回負ければ終わりのそれだが、俺の一回戦の相手は、
「あら、奇遇ね」
「それは教室にいることか?
それとも組み合わせの話か?」
被瀬だった。
最初はなにかの見間違いかと思った。
学内で『無能力者』なんて呼ばれている二人が最初に当たるわけ無いじゃん、と。
もちろん確認した。
俺の質問に占星先生は、頭を掻きながら、
「恐らくは『無能力者』同士でもここまでのバトルをするんだぞ、っていうことを見せたい、んではないんでしょうかねぇ?」
と曖昧な発言をした。
じゃあ占星先生はこの組み合わせに関与していないってことですか? と質問すると、
「基本的には生徒の能力を基に、不利にならないような対戦カードをランダムに組むようにしています……」
だから誰かが意図的に、ということはないと思いますよぉ、と間延びした声で言われた。
「それで、あんたは私に勝たないと行けないわねぇ」
「確かに、むーさんは了承したっすからね」
「でも被瀬さん、前に覆瀬くんには敵わない、って言ってなかったっけ?」
被瀬は俺に対してドヤ顔し、堂上は少しワクワクした表情である。
柊の言葉に、被瀬は辞めて辞めてと柊に人差し指を向ける。
「それはあくまでその時の話よ。
今度は秘策を持ってくるから覚悟しておきなさい」
俺はその言葉に超能力以外にも作戦を用意しているのかと考える。
「お、なんの秘策っすか?」
「それを言うわけないじゃない。
馬鹿なの堂上」
「なんでみんなそうやって罵倒してくるっすか?!」
「え? 堂上って罵倒されるのが好きじゃないの?」
「そんな事誰が言ってたっすか?!」
被瀬はゆっくりと柊の方を指差して、
「柊よ」
「なんでっすか真冬?!
なんでそんな根も葉もない事言うんっすか?!」
「……だって協が楽しそうにしてたからつい……」
「いつ罵倒されて楽しそうにしていたっすか?!」
そんなやり取りを眺めていると、
「それで むーさん。
被瀬さんとは戦えそうっすか?」
「戦えそうも何も、俺は勝てたら御の字だからな」
「ふん、あんたが私に『一緒にランキング戦出てください』って言いたくなるくらいにボコボコにしてあげるわ」
なんだその発言は、と思いつつ、頑張ってくれ、と返す。
その言葉に被瀬は腹が立ったのか、少し頬を膨らませて、
「あんた……覚えてなさいよ……」
「ははは、むーさん殺されないでくださいっすよ……」
「うーん、もしかして覆瀬くんって煽るの上手?」
堂上と柊の言葉に俺は煽っているつもりはないのになぁ、と頭を掻く。
そうして、一週間が経った。
最低限の知識と動き方、『クラス戦』の注意事項しか知らない状態で挑む『クラス戦』
それが今、始まる。
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