8:待ってタンマその話ちょっと考えさせて

「な、何の話っすかねぇ」

「そ、そうよ、何の話をしているのよ」


 白々しい二人。

 その様子にため息を付きながらも、再度周りに人がいないことを確認して、


「原則使用禁止だろ?」

「……別に腕輪外してないからいいじゃないっすか」

「腕輪しているから使えない、ってわけないじゃないだろ」


 超能力は、普段は原則使用禁止。


 日常生活で遠くのものを取るために『物を動かす能力』を使ったり、ビールを冷やすために『物を冷やす能力』を使うのもだめだ。


 というか、普通は使えない。


 腕輪は人の超能力の力場を外部に漏れるのを阻止する。


 それが基本的に外せるのは、政府に公認された状況下と、『ランキング戦』、そして命の危機に瀕したときのみだ。


「確かにお前らは腕輪をしていたが、それで完全に超能力は使えなくなるわけじゃない」


 そう、あくまで腕輪の能力は力場を外部に漏らさないこと、だ。


 体内で使用することはできる。


 しかし、『炎を生み出す能力』を体内で使ったらどうなるかは火を見るよりも明らかだ。

 だけど、それをするのが本来の用途、という超能力もある。

 例えば、『身体強化』や、『身体変化』系の能力者。


「だけど、お前らは外部干渉型だよな。

 腕輪してるし」

「見ての通り、俺らは腕輪つけてるし別に内部発生型じゃないっすよ?」

「そうそう、『ピアス』じゃないのよ私達?」


 まぁ、そんなことを対策していないほど偉い人たちも馬鹿じゃないので、対策はしてある。

 それが『ピアス』だ。

 体の内部を通る『ピアス』は超能力の発生自体を極端に弱める。


 これによって『能力』による事件を未然に防いでいると言っても過言ではない。


「でもまぁ、お前らも立派に学生してきたんなら、分かってんだろうなぁ、『抜け道』が」

「「…………」」


 二人揃って黙り込んでしまった。

 いや、そこで否定しないともう黒ですやん。

 心のなかでツッコミをしながら、額に手を当てる。


 『抜け道』

 どう呼ばれているかは地域ごとに違うらしいが、腕輪は無効化できる。

 ……と言ってもそんなに便利なものじゃない。


 要は力押しだ。


 腕輪は外部への超能力力場の放出を抑える。

 しかし、腕輪をしている人間から力場が完全に封じられているかと言われれば、ノーだ。

 超能力者は常に外部に力場を放出し続けている。

 というか、それすら阻害してしまうと、健康を害してしまう。 


「というか、これくらいの出力ってかなり頑張ってない?」

「……協、なんでこの人私の超能力効かないの?」

「この人はそんじょそこらの人とは違うっすよ」

「どういうことだよそれ」


 だからこそ、それを利用したのが『抜け道』だ。

 常に外部に発している力場の量は人それぞれである。

 だから腕輪に誤認識させる。


 常時出している力場の量を。


 そうすることによって、超能力を発動させるに足る分を確保する。


 雑に言うと、『頑張って超能力を使い続けて、なんとかする』という実に頭の悪い方法だ。


「……ちなみになんで超能力使ってるって気づいたの?」

「あー、言い辛いけど大丈夫?」


 柊は悔しそうに質問してくる。

 その理由が少し申し訳なく感じてしまう。


 ちなみに、超能力の力場は普通は見えない。

 観測も専用の機械が必要である。

 だから普通は目に見える変化があって、初めて超能力は認識される。


 だけど、今回二人の超能力は目に見えて変化は起きなかった。

 が、見落としている。


「ん? どういうこと?」

「あ、言っちゃっていいと思うっすよー」

「協、アンタは黙ってて。

 ……それで、なんで気づいたの?

 別に言ってもらっても大丈夫だよ」


 俺の言葉に不思議そうにする柊。

 その言葉に、恐る恐る俺は話す。


「柊の能力が強すぎるんだよ……」

「強すぎる?」

「……あー、そういうことっすか」


 堂上は理解したようだが、柊はまだわからないようだった。


「柊の能力は精神干渉系でしょ?」

「まぁ、確かにそうだけど」


 暗黙のルールだが、人の超能力をむやみに聞いてはならない、という物がある。

 例えるなら、人の収入を聞くのと同じようなものだ。

 まぁ、学校の授業で分かってしまうため、効かなくても分かるのが普通である。


 俺は超能力を使うような授業は、基本見学しているから、精神干渉系の人たちの能力はマジで分からない。

 だから予想でしかないけれど、


「柊の能力はたぶん視線干渉系、それか注意を引きつける系の能力……だと思った」

「すごいね、一回で分かるとか……」

「露骨に視線がそっちに向かったのが分かった。

 それに……」


 俺は隣にいる堂上を指差して、


「こいつがいるってのもあった」

「協がいることでなんでバレるの?」

「確かに、なんでっすか?」


 俺は二人の反応に少し苦笑いしながら、


「普通、会話するときって三人以上だとこまめに顔確認しない?」

「うーん、そうかな?」

「まぁ、言われてみればっすけど」

「だから、最初は堂上のことを気にしてたけど、途中から俺が全然気にしなかった。

 それが違和感だった」


 で、と付け足して、


「明らかに俺が柊に集中しすぎた。

 よく見ると柊、能力の使いすぎで少し目の下に隈ができてる」

「え、ホント?」


 柊は目の下を触る。

 堂上も良く見ようと目を凝らしている。


 といっても、そんな大した変化ではない。


 というか、それだけじゃない。

 しっかり観察してみると、『抜け道』を使った後だというのはすぐに分かった。


 俺はそれに、と付け足して、


「堂上が能力を使っているせいで、柊の様子に違和感感じたし」

「やっぱりバレるっすか……」

「あ、私に使ってたのも分かっているわけね……」


 堂上の能力は、『感情の強制』


 自身の感情を対象にも強要する、という戦いには使えなさそうな能力。

 前に間違って食らってしまった時があり、その時から堂上の能力は知っているし、もう喰らわなくなってしまった。


 だから、柊の少し疲れているけど、余裕そうな表情にも違和感があった。


「……てかそれで解除するためにパン投げつけてくるのは違うんじゃない?」

「いや、手元にいいものがなくて」

「それに投げたのもう一回キャッチしてたっすよね!

 あれどうやってやったんすか?!」


 柊が苦笑いしながら非難の声尾を上げ、堂上が俺のやったことに楽しそうに訪ねてくる。

 俺はその様子に、少し楽しいものを感じた。


 しかし、


「なんでお前らは俺にそんな面倒なことを仕掛けてきたんだ?」


 その言葉で固まる二人。

 と思ったが、


「むーさんをランキング戦に出したかったんすよ」

「ふーん」


 俺はそっけない返事をしながら、最後の欠片を口に運んだ。


「私は、協から覆瀬くんのこと聞いてて、そんなにできるならなんでランキング戦に出ないんだろうって思って……」

「真冬の能力は男子からしたら恋かと錯覚させるんでそこ狙ったっす!」


 柊の少し申し訳無さそうな表情に、堂上の一周回って白状する姿勢。

 その様子に嘘っぽさは感じないため、俺は一旦信用することにして、


「で、被瀬が絡んでるんだろうな、もちろん」

「あら、気づいてたの?」


 俺がゆっくり後ろを振り返ると、そこにいたのは小さな女の子。


 揺れる金髪ツインテール。

 その表情はどこか自信に溢れていて、その瞳には光がある。

 どこか吸い込まれるようなその姿に、俺は見とれていると、


「何よジロジロ見て。

 何か私の顔についてる?」


 被瀬からそんな事を言われてしまった。

 俺は首を横に振りながら、


「そうじゃない。

 あんまりにもわかり易すぎてびっくりしてんだ」

「わかり易すぎるくらいが丁度いいでしょ?」

「だけど、そのせいで失敗しちまったぞ?」


 俺はそれ見ろとばかりに被瀬を見る。

 その様子に被瀬は動じる様子がない。

 ……もし思惑が外れたら少しは悔しがるんじゃないのか?


 被瀬の反応が俺の思っていたものと違う。

 そんなことを考えていると、


「正直、あんただったらこの程度見破ると思っていたわ。

 前の組み手辛そうだけど、あんたはきっと並の超能力者なら簡単に勝つことができる」

「そうかな? もしかして買いかぶりかもしれないぞ?」

「えぇ、だから私もそうならないようにこの二人に頼んだの」


 被瀬が俺の後ろに目を配る。

 俺も釣られて後ろを向くと、そこには申し訳無さそうにしている二人の姿があった。


「申し訳ないっす……」

「私も申し訳ないな……」


「いえ、半分は目標を達成しているからいいわ」

「……どういうことだ?」


 

 被瀬の言葉に俺が疑問の声を上げる。

 後ろの二人も分かっていないような表情をしたで、おそらく知らないのだろう。


「私は、あんたが『無能力者』だから出れない、という理由を潰したかったの」

「そうか、でも俺は超能力を使えないぞ?」

「えぇ、でも、『無能』ではなくなった」


 その言葉に、俺はもしかしてと思い始める。


「あんたは『何も起きない』なんてふざけた能力を持っていることを加味しても、二人の超能力を破った。

 更には外部放出系の超能力を目の前にしても引かず、更には人を助けるほどの胆力。

 そして最後に、そこそこ『身体系能力者』とやり会える私と、互角以上に戦っていた」


 確かに、被瀬が『無能力者』なのに出るとなれば、俺も出ざるを得ない。

 けど、そこで俺は『弱い』から、という理由が浮上してくる。

 だが、それを同じ『無能力者』である被瀬が強さを保証すれば……


「確かに俺は状況的に出ざるを得ないかもしれないな」

「えぇ、だからこそ、二人には手伝ってもらったの。

 ……証人になってもらうための、ね」


 俺は被瀬の勝ち誇った様子に少しイラッときながらも、反論する術がないか探す。

 そして思い出したことを口に出そうと思った瞬間、


「そう、でもあなたは自主的に『ランキング戦』には出ない。

 だから、まずは違うものに出てもらう」


 俺の言おうとした内容とほぼ同じ。

 俺は無言で先を促すと、


「『クラス戦』

 あんたにはそれに出てもらう。

 そして、あんたがもし一回でも勝てたら、私はもうこれ以上あんたに『ランキング戦』に関しての話題を出さない」


 その言葉は、まるで用意されているようなセリフのようで、少し頷くまでに時間がかかった。

 だから、


「待ってタンマその話ちょっと考えさせて」


 素直に待ったをした。

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