7:……だーめなんだ、だめなんだ
『模擬試合』のあった翌日。
普通に学校に行く。
いつも通りの通学路。
毎日だいたい同じ時間に家を出ているから見るメンツも同じだ。
特に変化もない。
学校につく。
駐輪場は校門から少し遠いところにあるため、そこが自転車通学の少し面倒なところだ。
距離が近くなれば便利なのにな。
そんなことを考えながら教室にたどり着く。
特にこれと言ったことがあるというわけではない。
しかし、いつもと違って俺が教室に入ったとき、視線を感じる。
……なんかやらかしたみたいで怖いな。
俺はやましいことをしていないのにソワソワしてしまう。
自分の机に座り、かばんの中から物を出す。
今日の宿題は終わっている。
超能力を持たない反面、学業はかなり力を入れている。
もしこれで学業も疎かにするようなら学校を辞めさせられかねないからな……。
そこで気づく。
昨日といい一昨日といい、騒がしかったせいで、なんかちょっと今日は静かに感じる。
一時間目の準備を終え、少し寝ようとでも思った。
周りの喧騒が、少し耳についた。
☆☆☆☆☆
ありがとうございました。
四時間目も終わり、昼休みになった。
それまでの間、俺は誰とも話していない。
前までの生活に戻ったな。
前までは偶に堂上が話しかけてくれるだけで、特にそれ以外のやつと話したことはなかった。
だから、いつも通り。
俺は購買に行こうかと席を立とうとすると、
トントン
肩を叩かれる。
普段あまりクラスでも気にされない存在なため、肩を叩かれること自体に驚く。
少々ビクリとしながら振り返ると、そこにいたのは、女子。
ポニーテールの女の子。
俺より少し低いくらいの身長に、快活そうな顔の作り。
その大きな目は吸い込まれてしまいそうなくらい綺麗だ。
「柊……」
うちのクラスで男子でいちばん有名なやつが堂上だとしたら、女子でいちばん人気なのは、こいつ。
柊真冬
運動神経がよく、コミュニケーション能力も高い。
それに美人で別に誰かを嫌うとかそういったことはしない。
クラスの女子から慕われていると同時に、マスコットキャラのような扱いも受けている。
……いや別にストーカーとかじゃない。
クラスにいるとみんな楽しそうに話してくるのが聞こえるだけだ。
それで把握している。
「お、名前覚えててくれたんだ。
ありがとね」
「いや、別にクラスの人数も多くないから覚えているだけだ」
うちの学校は一つの学年にAからEまでの5クラス存在し、一つのクラスの人数は30人と決まっている。
そんな多くない人数を覚える、ましてやクラスの中心人物を覚えるのは別に難しくもない。
「それで、何か用?
俺これから購買行くんだけど」
「あ、そうなんだ。
ちょうどよかった」
ちょうどよかった?
俺が柊の言葉を反芻していると、
「ご飯一緒に食べよ」
思ってもいなかったセリフが放たれた。
俺は一瞬思考が停止し、考え直す。
しかし、言われた言葉は事実のようで、
「なんで俺と?」
「え、前の『模擬試合』の話聞きたいなって」
お、おう、と生返事をする。
話自体は変なものじゃない。
しかし、なんで柊で、なんで一人だけなんだ?
柊というかこの学校では基本的にみんな食堂に行くのが一般的だ。
だからこそ柊もクラスの女子と一緒に食堂に言っていると思うのだが、
「他のやつは?
一緒に食べてるんじゃないの?」
「……今日はみんなには別に食べてもらってるの。
覆瀬くんも女子ばっかじゃ話しづらいでしょ」
「確かにそうだが……」
俺への返答に少し間があるのが気になった。
怪しくない?
え、怪しいよね。
俺が警戒心を解けずにいると、
「あ、むーさんどうしたんすか、真冬も一緒に」
教室に入ってきた堂上が話しかけてきた。
既に教室はほとんど人が出払っていて、俺と柊しかいなかった。
「おう堂上。
なんか前の『模擬戦』に関して話を聞きたいらしくてな」
「真冬が?
……あぁ、確かにこいつだったら聞きそうっすねぇ」
「堂上って柊と仲いいんだっけか」
堂上の話し方から察する。
つか真冬って下の名前で呼んでいる時点でまぁ分かるが。
「腐れ縁なんすよ。
家が近くて、小中高共に同じクラスっす」
「……協、何話してんのよ」
「のくせに俺にだけ冷たいっすからあんまり学校では話しかけたくないんすよ」
確かに、堂上に話しかける柊の声色はなんだか感情がない感じがする。
俺はその様子をなんとなく見ながらも、
「それで、柊が俺に話しかけたのになんで納得したんだ?」
「いや別に特殊なことじゃないですよ。
こいつ、重度の『ランキング戦マニア』なんですよ」
「別にいいじゃないのよ」
俺はその言葉に意外だな、柊みたいなやつが、と思ったと同時に、
「なんで俺なんだ?」
「覆瀬くんは格闘強いじゃん?
だからそこらへんの話とか聞きたいなって」
「……そうか」
俺はその言葉にチャンスを見出した。
もしここで俺が被瀬をとことんヨイショして持ち上げれば、柊はクラスでも発信力が高い。
そこで被瀬が強い情報が流れれば……
「むーさん、なんか悪いことでも考えてるっすか?」
「なんか考えている表情ですね、これは」
二人が俺の顔を覗き込んでいた。
その状況になんでもない、と断るも、二人は何やら信じていない様子でふーん、と返事をした。
…………なんだよお前ら仲いいじゃねぇかよ。
☆☆☆☆☆
「それじゃ、話聞いてもいい?」
俺は食堂に行かずに教室で話そうと提案した。
何やら堂上も話に混ざる様子だったし、食堂に行けばみんなからどんな目で見られるかわからない。
教室ならば人が来たら話をやめればいいし、誰もいないから聞かれる必要もない。
「いいぞ。
まぁ食いながらで悪いが」
「ふぁぁふぁぁ、へふにはふいほほひゃひゃいへふほ」
俺は購買で買ってきたパンを齧りながら話す。
隣にいる堂上に関しては弁当をリスみたいに口の中に頬張っている。
「行儀悪いんだけど、話すか食べるかどっちかにしてくれない?」
柊の言葉に、素直に従う堂上。
そんな様子にやっぱ仲いいんだな、なんて思っていると、
「それじゃあ、あの『模擬試合』、どのくらい本気でやりましたか?」
いきなり不思議な質問をしてきた。
どのくらいの本気?
それはつまり俺が本気でやっていないように見えた、ということか?
「本気も何も、全力だったよ」
「ふーん。
あのときは正真正銘本気で、あんな火球に飲み込まれたんですね」
言い方に棘がある。
俺はなにか確信して言っている柊の様子に少し警戒しながらも、無言で肯定する。
「それじゃあ、あのときの敵はどのくらいだと思いました?
強い? そこそこ? それとも雑魚?」
「雑魚も何も、やられたから強いに決まってるじゃないか」
「そうですか、でも被瀬さんと一緒に攻めていたときは、わざと手を抜いて相手をしていましたよね」
「確かに多少手は抜いた。
円城の炎が壊れてしまったら二人共終わっていたからな」
「でも、それを被瀬さんが壊した」
……柊。
何か分かっているうえで話している。
なんか時間稼ぎでもしている?
俺は柊を観察する。
その表情の動き、筋肉の動き。
繊細に見ていく……。
そして、
気づいた。
瞬間、俺は手元のパンを柊に投げつける。
柊はその行動に思わず目を瞑る。
そしてそのパンが柊に届くか届かないかのところで、俺は再度パンを後ろから掴む。
「……だーめなんだ、だめなんだ」
小学生のようなセリフを言いながら、俺は隣の堂上を見る。
飯を食べ終わった堂上は何やら満足そうな顔をしている。
その様子を見て、俺は一言、
「お前もな」
ビクリ
堂上の肩が跳ねた。
俺はその様子を見て確信した。
こいつら超能力使ってたのか、と。
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