6:俺はむーさんとそんな約束した覚えはないっすよ
「みんなも分かっただろう!
普段見ているランキング戦でのやり取りは、高度なことが行われていることに!」
そこから始まったのは、超能力に関しての講習みたいなもの。
簡単に言うなら、移動しながらの超能力の仕様は難しいよって話だ。
早乙女先生は過去の体験を交えて話してくれるため、大変わかりやすいだろう。
それも早乙女先生の超能力は、『鋼鉄化』。
その能力でランキング戦でも名のしれた選手になるためには恐ろしいほどの訓練がいると思われる。
俺は話半分に聞きながら、空を見上げる。
正直、俺は本当にランキング戦になんか出る気はない。
だからこそ、今回の戦いでは最高の選択ができたと思っている。
味方を庇ってやられる。
それまでにそこそこいい動きをしていたが、あくまでそれは普通の範囲内でだ。
だからこそ、今回の戦いを見ている奴らは、最低でも俺らのような奴らに負けないようになろう。
自分たちは『超能力』を持っているのだから、と。
俺は周りの人達がそこそこ真剣に話を聞いているのを見て、ため息を付きそうになる。
しかし、それが普通でここはそういう人たち集める学校なんだと思いたち、ため息を飲み込んだ。
「よって今後は超能力は無意識でも使えるように訓練しなければならない!
君たちがもし超能力を使ってこの先人生を過ごしていくのならば、必須になっていく!」
早乙女先生の言葉には、俺も賛成だった。
☆☆☆☆☆
「むーさんすごいっすねぇ」
「何だいきなり」
体育の終了後、着替えを終え、教室に一足先に戻っていると、堂上が着いてきた。
一番に教室に戻った俺が次の授業……今日最後の授業の準備をしていると、話しかけてきた。
俺は一人で堂上が着いてきたことを確認すると、
「他の奴らはいいのかよ。
俺なんかに構ってるとハブにされるぞ」
「ははは、みんな早乙女先生の授業の内容とかランキング戦に関して話しまくってんでおれがいないことなんか気づかないっすよ」
「いや、お前だって話に混ざればいいじゃないかよ」
「だってあんな話はすでにわかりきってることっすよ」
堂上のその笑顔は、なんだか少し作り物っぽい笑いだった。
「それで、やっぱすごいっすよね、って話ですよ」
「……だから何の話だよ。
俺だったら無残に円城の炎に巻き込まれて落ちたんだぜ?
何がすごいってんだ」
俺はあくまで事実を述べる。
おそらくみんなも俺のことはそれくらいにしか思ってないだろう。
だからこそ、助かる。
目立てばランキング戦という存在が近くに着てしまうから。
「むーさん、被瀬さんと打ち合わせとかしてないんすよね?」
「あいつからの命令は『守ってね』だったよ。
……ま、結果としてこんな感じになったのは俺としては助かってるけどな」
「そうなんすか……」
俺は少し含んだ笑いをする堂上に少しの不信感を抱きつつ、話を待つ。
堂上は暫く考えたと思ったら、
「うん、あの動きは大体がむーさんが被瀬さんに合わせて動いてたんすね」
「……それがどうしたんだよ」
「普通、一緒に共闘したことのない人間とあんなに息の揃った動きなんてできないっすよ。
最初の時点でみんな驚いてたっすよ。
コンビで戦闘する練習でもしてたのかって」
俺はその言葉に動揺する。
目立ちたくないとか思っておいて目立ってるじゃねぇかよ。
俺はなんとかうまい言い訳を探そうとするが、
「でもその後の被瀬さんの一人舞台で最初はむーさんに合わせてあげたんだなと思ってるっすよ」
その言葉に一安心する。
確かにあの動きに合わせていたのは俺だ。
模擬試合前のあの組み手で、大体の攻撃の予備動作は知っていたから、後はそれを思い出しながら、って感じだ。
「でもそれがむーさんが合わせていたと慣れば話は別っすねぇ」
堂上の少し悪そうな顔。
なにか要求してくるのでは? と思い身構えそうになるが、
「まぁ、お前がいくら言おうとも、なんともならないと思うぞ。
被瀬の実力を目にした状態じゃ、どれだけ言おうが寝耳に水だ」
「……確かに、そう言われればそうっすね」
堂上の考え込む姿に、俺は不思議に思う。
なんでこんな話をするんだ?
そこで、一つの考えが思い浮かぶ。
「堂上。
お前、俺にランキング戦に出てほしいのか?」
「……バレましたか?」
「バレルも何もわかり易すぎるだろ」
「あはは、たしかにそれは否定できないっすよねぇ」
堂上の苦笑いに俺は少し睨みを効かせる。
その様子に堂上は仕方がないじゃないですか、と前置きし、
「むーさんと戦えるって思うと、少しやる気でちゃって」
「だから戦わないつもりだよ」
「そんなこと言ってさっきの『模擬戦』は頑張ってたくせに?」
「あれは早乙女先生が脅したからだよ」
「でもあのとき本当に雑魚のフリをしていればよかったじゃないですか」
俺はその言葉に否定ができない。
確かに雑魚のフリをすれば後はどうであれ逃れられたのは事実だ。
……組み手で鈍ったと思ったからかなぁ。
俺は今思っても仕方あないことを考えながら、
「何度言おうとも、俺はランキング戦にはでない」
「……そうっすかねぇ?」
「なんだその表情は?」
「俺が何もしなくてもたぶん被瀬さんは確実になにかしてくるっすよぉ」
確かに。
俺は喉元まででかかっていた言葉を胸にしまい込む。
それを口にすればフラグが立ってしまう。
だから、抑えておく。
「大丈夫だ。
俺には確固たる意志がある」
「ま、確かに本人の意志がないとランキング戦は出れないっすからねぇ」
ランキング戦はその性質上安全ではあるが、それも100%安全だというわけじゃない。
だからランキング戦に出るうえで俺らは誓約書を書かされる。
そんなシステムもあるため、ランキング戦は本人の意志がなければ参加できない。
堂上は俺の言葉に少し考えたと思ったら、
「そうだ。
じゃあ俺が被瀬さんに協力してむーさんをランキング戦に出るように仕向ければいいじゃないっすか!」
「何がそうだだ?!
お前は何もしないって約束だろ!?」
「俺はむーさんとそんな約束した覚えはないっすよ」
「……あ、たしかに」
俺は堂上に一度も何もしないでほしいなんて言った記憶はない。
俺が最初の時点で『ランキング戦には出ない』と言っているせいで言ってこないだけだ。
そんな様子に何を思ったのか、堂上はにやりと笑い、
「それじゃあ、俺は被瀬さんのところ言って相談でもしてくるっすよぉ」
そそくさと教室を出ていった。
俺は追おうと思ったが、たぶん一回止めたところで止まるような人間じゃないのは、付き合いの深くない俺でも分かる。
だから放置しても言い訳というわけではないのだが、
「疲れる……」
肉体的より精神的に疲れた体を癒やすために、俺は立ち上がりたくなかったのだ。
その日は少しいつもと違う一日だった。
体育の後の授業ではチラチラと俺を見てくる視線が面倒だったし、
なんか休み時間になるとコソコソ俺の方見て話している奴らもいるし。
なんか、端的に言って動物園の檻の中ってこんな気分なんだな、と思った。
その日は結局誰からも話しかけられることはなく、一日が終わる。
さっさと家に帰る俺は、帰り道、少し考え事をしていた。
正直、俺は『無能力者』になりにいった。
だけど、それは単純に逃げだったのかもしれない。
あの環境からの逃走。
最初はこれでいいかもと思ったし、今もこれで良かったと思っている。
ただ、俺は人生のあらゆる選択を後悔している
だから、もしかしたらいつの日か、俺がこの選択をしたことを後悔する日も、来る事があるのだろうか。
そんなことを思いながら走っていたら、自転車で転びかけた。
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