5:じゃあ、守ってね

 最初に飛び出したのは、被瀬。

 俺はその姿に、とりあえずついていく。


 被瀬は特に工夫もなく、目の前の二人に突っ込んでいく。


「あら? あんたやる気ないんじゃなかったの?」

「いやなに、そこそこにやって自滅するわ」

「ふふん、その前に倒しきっちゃうわよ」


 被瀬の自信満々なセセリフを聞き終える同時に、お相手は超能力を発動するようだ。


 花山の超能力は、植物操作。

 種を急成長させ、それを操ることができる。

 しかし、種の種類で強度や操作感度も違い、種によっては超能力の出力は五本の指に迫る勢いらしい。


 同じクラスだからか、クラスでみんなが話している内容を思い出したけど、使えるなその能力。


 何の植物かはわからないが、足元に植物が迫ってきている。

 俺らの足を絡め取ろうとしているようだ。


 一方の円城は、炎熱系?

 おそらく操作系であろう彼の頭上には、1メートルほどの火球がある。

 しかし、ところどころ形が崩れているようにも見える。

 ……おいおい大丈夫か?

 それだと自壊するんじゃないのか?


 俺は少々の心配をしつつも、なんとなく二人のやりたいことを察する。


 脚を取って、一気に決める。


 確かに、悪くない。

 悪くないけど、


「おこちゃまね」


 被瀬が、動いた。

 左に体重を掛ける。

 俺も追従して左へと体重をかけて、


 進路変更。


 二人の攻撃のコースを大幅に逸れる。

 相手の二人を中心に、少し大きめの円を書くように俺と被瀬は移動する。


 あまり早く走っているつもりはないけど、お相手の2人は対応出来ていないようだ。


 ……だって超能力を使うのに集中しないといけないため、他のことがお粗末になるからな。

 俺はこの後に被瀬がどうするのかを観察する。


 被瀬は、そのまま二人の真後ろに回った瞬間、


 進路が変わる。


 被瀬は、突進する。


 俺も同タイミングで進路変更。

 対する二人は俺らのことを目で捉えて入るものの、超能力で対応できていない。


 好機。


 被瀬がまず攻撃したのは、花山。

 土手っ腹に飛び蹴り。

 花山は思い切り後ろに吹っ飛ぶ。


 ……防御くらいはしたらいいのに。


 俺はため息を付きたくなるのを抑えて、円城に攻撃を仕掛ける。

 といっても、適当なパンチだ。


 俺らの頭上には大きな火球がある。

 今それを攻撃によって自壊させてしまえば、おそらく俺らに炎が襲いかかる。

 だから集中力を切らさない程度の弱いパンチで牽制。


「ぐへっ」


 少し汚い声が聞こえたけど、まぁ本人の名誉のために聞かなかったことにしよう。

 俺はこのまま距離を取り、花山から撃破するのかと思い、後ろを振り返る。


「じゃあ、守ってね」


 その瞬間、被瀬とすれ違った。

 俺は言葉の意味を理解できなかった。


 しかし、すぐに気づく。


「ごっ」


 その声は、先程も聞いた、円城の声。

 そして、目に写ったのは、金的を思い切り蹴り上げている被瀬の姿。


 思わず自身のものを抑えたくなるが、今はそれどころではない。


 頭上の火球が、爆発する。


 本人が制御不能になり、溜め込まれたエネルギーは行き場をなくし、


 頭上の火球が光る。


 俺は即座に被瀬の腕を掴み、後方に放り投げる。


『俺』の必殺技、変則……


 そこで、止まる。

 やばい、使うところだった。

 俺の視界は光で塗りつぶされ、


 いやぁ、癖って怖いなぁ。


 俺は火球の爆発に巻き込まれた。



☆☆☆☆☆



「おっ」


 目覚めて一言目は、存外なにか台詞が出るものではなかった。

 俺はあたりを見渡す。

 自分はベッドの上に寝転がっているため、起き上がる必要があった。


「うむ」


 なんとなく納得してみたが、とりあえずちゃんと水晶は起動したようだ。

 最初に先生から説明された場所。

 『転移室』と呼ばれているここは、特に何かあるわけではなくただ水晶によって転移されるところにベッドがあるだけだ。


 体の方に異常はない。


「それにしても……」


 |あの程度で(・・・・・)敗退しちゃうのか。

 ランキング戦……不便だな。


「大丈夫かい?」


 そこに聞こえるのは、男性の声。

 渋いそんな声は、俺の知るものであり、その声の主に対して俺はため息を付きながら、


「なんですか……校長先生?」

「ははは、君からそう言われるとなんだかむず痒いね。

 ……ムスビ君、だっけか?」

「そうですね、俺の名前はムスビです。

 おむすび、から”お”を取るだけです」


 入学してから一度も使っていない(言える人がいなかった)俺の自信満々のギャグを披露すると、校長……膳材流(ぜんざいながれ)は、苦笑いしながら、


「君は昔からその手の面白さのセンスはなかったよねぇ」

「……なんで通じないんですか?

 みんなには通じるのに……」

「君の周りのギャグセンスはみんな独特じゃからな……」


 膳材さんの言葉は無視して、俺はベッドから降りる。

 特に何もない部屋なので、何も特筆して見るようなものはない。


「それで、模擬戦はどうだったかな?」

「……見てたんですか?」

「君のいるクラスだよ?

 当然見に来るに決まってるだろうに」


 ニコニコと笑顔な膳材さんに俺は無言で返す。


 この膳材さんは、俺のことをすべて知っている人物だ。

 それこそ、超能力も、素性も、経歴も。

 さすが超能力の学校を取り仕切っている人物だけあって、俺のような者を入学させるのもお茶の子さいさいだった。


「俺からすれば色々感謝はあります。

 だけど、なんで善逸さんは世話を焼くんですか?」

「確かにワシからすればお主は数多くの生徒の一人……じゃが」


 言外に、分かっているのだろう? と問いかけてくる。

 その視線の意味を分かるからこそ、


「俺は確実にランキング戦には出ません」

「……その心は?」

「面倒だからです」

「ふふふ、私には『無能力者』だから、とは言わないんだね」

「……なんで今更膳材さんにそんなこと言わなきゃならないんですか」


 俺のその言葉に、膳材さんは満足したように笑いながら、姿を消した。


 ……多分ここの生徒全員集めてもあんたにゃ敵わないよ。


 膳材流。

 『存在の操作』

 それしか判明していない超能力。

 彼の存在は彼次第でいくらでも変えることができる。

 それこそ、何にでも。



☆☆☆☆☆



 俺は悠々と『体育場』へと向かう。

 多分だろうけど、勝負は被瀬が勝っていると思う。


 超能力の操作を誤った円城。

 攻撃を食らった花山。


 先程の一瞬のやり取りで分かったが、二人共超能力の練度が足りない。

 出力は多分あれでいい。


 だけど、俺らの移動ごときについていけないほどの操作能力。

 それに俺らの動きに対して超能力が着いてこれない程度の操作。

 多分二人共直線状にしか放てないのだろう。


 ならば、おそらく機動力のある被瀬はきっとやりたい放題になっている。



「あら、遅かったじゃない」


 …………案の定、『体育場』ではもうすでに勝負がついていた。

 すでに二人の姿はなく、フィールドに立っていたのは被瀬一人。


「まさか勝ったのか?」

「……わざと言っている?」


 クラスの連中と合流したため、変なことは言わない。

 おそらくみんな思っているであろう『一人の状態からの逆転』に驚く。


 ……まぁ被瀬は俺の演技に気づいているようだけど。


「覆瀬!」


 そこで俺は早乙女先生から声をかけられる。


 ……まさかあれしきの攻撃を簡単に食らったのを怒られる?

 少し身構えてしまう俺だが、


「よくやったじゃないか!

 あの咄嗟の判断は見事だったぞ!

 機動力に長ける被瀬を残す選択をし、なおかつ最後まで抗おうとするその姿勢!」


 そんなことはなかった。


 ……もしかして、俺めっちゃファインプレイしたことになってる?


 そんな言葉に俺はなんとなくありがとうございま~す、などと軽い返事をしながら、集団の中に入る。

 すると俺の隣にするりと堂上が入ってくる。


「むーさん手ぇ抜いたっすね?」

「……バレたか」

「流石にあそこまで抵抗しようとして急に動き止めたら分かるっすよ」

「……もしかして構えてたのバレた?」

「よーく見れば、位っすけどね。

 多分クラスでも分かったのは俺くらいっすよ。

 後はみんなヒーローみたいなむーさんの行動におぉって言ってましたよ」


 そう見えたのか。

 俺は意外にも好印象だったことに少し驚きながらも、あたりを見渡す。

 クラスのやつも、Aクラスのやつもチラチラと俺の方を見ている。


 ……これはこれで嫌な感じもするもんだ。


「そして、被瀬も、見事な動きだった」


 その時、被瀬が見学席まで上がってきた。

 少し汗ばんだその様子に、俺はそんなにその二人がやったのか、と思った。


 しかし、違和感を感じる。


「いえ、あの二人もしっかりと対応してきたので、苦戦してしまいました」

「あの二人、最後には被瀬さんに格闘戦で向かっていったんですよ。

 ……でも被瀬さん、たぶん手を抜いてるっすよ」


 だろうな。

 隣から補足してくれる堂上の言葉に、心のなかで同意しながら、俺は被瀬に感じる違和感を考える。


「……俺が落ちてからどんくらい戦ってた?」

「大体二分くらいっすけど……?」

「そのやり取りはお前にもしっかり分かるくらいだったか?」

「……まぁ、超能力を使っていないんで、当然分かったっすけど……」


 俺の言葉に不思議そうにしながらも、堂上は答えてくれる。

 その言葉で分かった。


 あ、あの疲れよう嘘ね。


 え、なんであいつ俺のこと嘘つきみたいな目で見てきたんだよ。

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