3:あんたって人生面白いの?
「くっそ、そうだった……」
俺は体育着に着替えながら悪態をつく。
先程の被瀬との話から、今日はもう合うことはないだろう、と高を括っていた。
しかし、今日は体育がある。
それも、今までは一クラスずつ超能力に慣れていこう、みたいな感じだった。
しかし、今日から2クラス合同での体育である。
より実戦形式の体育の授業をするということらしい。
そして、もちろん1-Bである俺達が合同で体育を行うのは、
「運命、っすかね」
「うるさい」
1-Aである。
今日はよく絡んでくるな、と思いながらも、堂上の茶化しをスルーする。
「それにしても、被瀬さんは見学っすかね?」
「わからん。
あいつがどういう経緯でどんな扱いを受けているのかは俺も知らないから、もしかしたら授業を受けている可能性もある」
「まぁどちらにしろ、絡んできたら面白いことになりそうっすよね」
他人事すぎる(実際に他人事なのだが)堂上の発言に俺は苦笑いをしつつも、体育場に向かった。
☆☆☆☆☆
「それでは、体育を始める。
今日からクラスごとではなく、2クラス合同の体育となるので、お互いに怪我をさせないように」
体育の早乙女先生……名前とは裏腹に、しっかりと鍛え上げられた体と、『硬質化』の超能力は学生時代、ソロの上位に居続けたという噂を裏付けている。
乙女、と名を冠しているくせに、漢の中の漢、という感じの男性である。
俺は、そんな先生の言葉なんて知ったこっちゃない、と言わんばかりに、ゆるりと手を上げ、
「自主練でいいっすか?」
「……まぁいいぞ。
だけど流れ弾が当たらないようなところでな」
自主練。
俺のために用意された、建前上は超能力を使えるようにするための練習。
……と言う名の見学だ。
ちなみに早乙女先生は俺の能力に関して何も知らない。
「あの、私組み手してみたいんですけど」
「ん? 被瀬、お前大丈夫か?」
「はい、相手は覆瀬くんにしてもらいたいと思うので」
「……確かに、二人なら危険もなさそうだな。
覆瀬! 組み手できるか?」
……正直、断れる。
体調悪いとかなんとか言えば、乗り切れる。
だけど、それをした場合、体裁が悪い。
俺はみんなから嫌われたいわけじゃないのだ。
だから、ここできっと断れば色々面倒くさい。
俺は内心ため息を付きたいのをぐっと抑えて、
「やります」
「分かった。
みんなとは少し離れるんだ。
危険だからな」
はーい、と俺は間延びした返事をする。
被瀬はこちらをちらりと見て、ニコリと笑った。
準備体操が始まる。
これは超能力を使用しないので、普通に参加する。
初めての2クラス合同のため、どちらのクラスも会話が少ない。
準備体操をしている最中、堂上と目があった。
堂上はきれいなウインクをした。
殴り飛ばしたくなった。
そうして、超能力の訓練が始まる。
今いるところは、超能力を使用しても大丈夫なように作られた施設……『体育場』だ
『体育場』は、古代ローマのコロッセオの様に、吹き抜けに作られている。
そして周りに見学するための観客席が設けられている。
ここはランキング戦でも使われる場所なので、わりかし広い。
そこで行われるのは、各々の訓練。
遠距離、強化系、操作系、精神系等の大きなまとまりでグループになり、お互いに超能力を使用し、話し合ったりアドバシスする。
遠距離の人たちはお互いに火や氷を出して、打ち合っている。
強化系は、その常人では出せないような速さで鬼ごっこをしている。
操作系は、先生が用意してくれたいろいろな物体を操作したりしている。
精神系はお互いに超能力を掛け合ったりしているため、外見的な変化はない。
俺と被瀬はそんな中二人して和の中を離れ、少し端の方に行く。
そこはちょうど日陰になっていて、もうすぐで夏になりそうな今の季節には丁度いい。
「なんでこんな端っこなのよ」
「俺らが巻き込まれたらどっちも嫌だろうが」
「あら、別に私だったら助かるんだけど」
「俺が助からないから辞めてくれ」
被瀬の少し意地悪そうな言い方に俺は肩を竦める。
「それで、組み手してくれるんでしょ?」
「あぁ、一応な」
「一応って何よ」
「怪我とかしたくないんだよ。
痛いし、面倒くさいし」
俺のネガティブな発言に被瀬はつまらなそうにする。
「なんだ?」
「あんたって人生面白いの?」
「……どうした急に」
「どうもこうも、思っただけよっ!」
その言葉とともに、組み手は始まった。
いきなり仕掛けてきた被瀬。
姿勢低めに飛び込んで、足元を狙っている。
脚を掬おうってか。
「危ないな、始めとかないの?」
「生憎、そんなきれいな物を習った覚えがないのよ!」
後ろに引いて回避。
前傾姿勢で飛び込んできたので、隙が生まれる。
攻撃するか? そう考えたが、被瀬が地に手をついたのが見えたので辞めた。
逆立ちして蹴り下ろし。
少し足りないので、顔を下げる。
鼻先に触れるか触れないかの距離を脚が通る。
「なんで躱すのよっ!」
「当たると嫌だからだよっ」
被瀬はそのまま着地し、拳に寄る攻撃を仕掛けてくる。
俺は回避しようかと思ったが、流石に躱しっぱなしってのもメンツが悪い。
俺は優しく向かってくる拳を受け流す。
一つ一つ、丁寧に。
一番力が流しやすい方向に流す。
しかし、少し失敗したものもあり、強引な受け流しもあった。
……鈍ったな。
「あんた、舐めてんの?」
「いや別に」
「じゃあ反撃してきなさいよ」
攻撃を辞めた被瀬が、俺にクレームを付けてくる。
別に女子に積極的に手を出したくないわ。
しかも程よく相手できる実力だから俺も鈍ったのを再確認できたし。
「別にいいよ。
躱してるだけでもいい練習になるし」
「……まるで私の攻撃は当たらないみたいな言い方ね」
被瀬の言い方に俺は否定しようとするが、
「はっ!」
そんなことを言う間も無く被瀬が向かってきた。
先程までとは違う、本気の攻撃。
一撃一撃が、しっかりと倒そうとしている攻撃。
いくつものフェイントが折り混ざり、惑わせてくる。
きっとこれを普通の学生が受けたら食らうんだろうなぁ、と思いつつも、
俺は逆にこっちのほうがやりやすかった。
殺意と呼ぶには可愛らしい気の込められた拳は、わかりやすい。
フェイントも、その拳には殺意が込められていないから、わかりやすい。
足元に注意が言ってないから、行動が読みやすい。
俺は先程より簡単になった組手に少し悲しくなりながらも、被瀬が疲れるのを待つ。
一分が経った頃だろうか。
被瀬に疲れが見え始めた。
少し動きが遅い。
……逆に遅いせいで防御しにくいな。
俺は未だに余裕だな、と再確認しながら被瀬の方を見ると、
睨まれていた。
まるで獲物を狙う肉食動物のような目……よりかは少し可愛らしい。
そんな目を見て、俺は少し頬がチリつくのを感じた。
……これは。
俺は咄嗟にしゃがむ。
その瞬間、俺の頭上を何かが通り過ぎた。
目では追えない。
しかし、風切り音と眼の前の被瀬の体がブレるので察した。
……使ったな。
明らかに人間業ではないハイキック。
振り切った後の被瀬の憎たらしそうな表情。
少しの静寂の後、被瀬は口を開く。
「なんであんたくらわないのよ!?」
「なんでくらわなきゃいけないんだよ!?」
高校入学してからの一番の理不尽ワードを聞き、それに反論する。
おそらく俺らの戦いは誰にも見られてはいない。
防御しながら片手間に見ていたけど、全然俺らのことなんて気にも留めていなかった。
それどころかみんなの能力はそこらの能力者のものより派手なものが多く、感心する。
……さすが東日本でも有数のランキング戦の盛んな高校。
やっぱりこの時間は集中するよなぁ。
「だからあんたは喰らわなきゃいけないの!?」
「理由になってねぇ!」
被瀬の謎のいちゃもんは暫く止まらなかった。
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