2:堂上、ちょっとトイレ付き合ってくれよ
「それで、返事は?」
翌日、昼休み。
俺は教室で一人寂しくパンを齧っていると、目の前の席に人影が現れる。
基本的にこの学校は学食が存在しているため、みんなは弁当だろうが購買だろうが学食だろうが、そこに集まる。
「ノーだよ」
「……それで、返事は?」
そのため、昼休みの教室には誰もいないのが基本だ。
「話聞いてたか?」
「聞いてたからこそ聞き返しているのよ」
そこに現れた高校生とは思えないほど幼い体躯の少女。
話の通じないやつをするのは面倒だと思い、俺は残り少ないパンを口に放り込む。
「私はイエス以外の返事は聞かないわ」
「何だそれ、返事聞く必要あるのか?
てかそれだと俺に選択権一つもないじゃん」
「いいえ、選択権はしっかりあるわよ。
早く答えを出すか、遅く答えを出すか」
自信満々に返す被瀬。
そのセリフに俺は話が通じないな、と判断したので席を立つ。
その様子に被瀬は少し気にかけるように、
「どうしたの?」
「お手洗いだ」
ぶっきらぼうに返す俺。
その返答に被瀬はニコリと笑いながら、
「行かないでよ」
可愛らしいセリフを言ってきた。
容姿も相まって可愛らしく字面だけは可愛らしく見える状況だが、
「なんで俺は掴まれてるんだ」
「逃さないため」
被瀬のその小さい手が、俺の腕をしっかり掴んでいる。
そう、しっかり掴んでいる。
「動けないんだが」
「?」
またも可愛らしく首をかしげる。
しかし、俺の腕は微動だにできない。
掴まれている腕が、動かない。
被瀬の華奢なその腕が、振りほどけない
明らかにおかしい。
それなりに力はある方ではある。
ましてや女の子に負けるほどではないことも自分で理解している。
この不可思議な状況に俺は結論を出す。
「使ってんな」
俺の言葉に被瀬は可愛らしく舌を出す。
黙っていれば可愛いのに、やっていることは笑えない。
俺はどうにかして話してもらえないかと画策する。
「なぁ、離してくれないか?」
「自分の力で離したらいいんじゃない?」
……どうして俺にそんな肩入れするんだ?
俺の能力について知っているのはこの学園では数少ない。
片手の指で足りるほどだから、俺もそいつらは絶対に知っている。
だから機能が初対面の被瀬が俺の能力を知るはずがない。
それなのに、被瀬は俺に執着している。
理由が見当たらない。
この場にいると返事をするまで構わなきゃいけないことになる。
俺はそれだけは勘弁だ、と思い話しかける。
「で、いつになったら離してくれるんだ、この手」
「そーっすよ。
いつまでラブラブでいる気っすか?」
そして、ここにはいないはずの人物の声が聞こえた。
俺はその声の主を知っているからこそ、何も反応しないが、被瀬は驚いたように俺の腕から手を離す。
……どうやら超能力を解いたみたいだな。
「あんた誰よ」
被瀬はじーっとした目で声の主……ちょうど俺らの机の横から顔を出しているやつに問う。
その男子は、しゃがんでいる状態から立ち上がり、俺と被瀬の顔を交互に見る。
俺より少し高い身長に、人懐っこそうな表情。
なにか特徴があるかと言われれば特にないが、パーツが整っているため、格好良く見える。
強いて言うなら、犬に少し似ている。
その人物は被瀬に話しかけられるや、ふふんと胸を張って自己紹介する。
「おれっすか?
俺は堂上協(どうがみきょう)っす。
このクラスの副委員長っす」
「……それで、その副委員長さんがなんの御用?」
「え? いや別にそんな用なんてないっすよ?」
「ならなんで話しかけたのよ」
「え、用事がないと話しかけちゃだめっすか?」
「……別にそうじゃないけど……」
肩透かしを食らう被瀬。
なんだか奇妙に噛み合わない二人の会話に少し面白くなる。
微妙な空気が流れるのを感じた俺は、
「被瀬、こいつはそんな達者な人物じゃない。
あんまり疑ってやんな」
「お、むーさん気にかけますねぇ」
「別にそういうわけじゃない。
堂上は疑ってかかるもんじゃないと言っているだけだ」
「え、俺なんか疑われてたんすか?」
堂上の的外れな発言に、どうだ、と言う様に被瀬に視線をやる。
被瀬も察したようで、ため息をつく。
俺はその様子を見て、堂上に質問する。
「今日はどうしたんだ。
やけに戻るのが早いじゃないか」
堂上はクラスの中でも中心人物である。
だからこそ、俺に懐いているのが意味わからないが、そこらへんはまた別の理由がある。
でも、普段はそんなに話しかけてこないのに、今日はまたどうしたのだろう。
「いやそれはむーさんが女の子に言い寄られているなんて聞いたら来ないなんて選択肢がないっすよ」
「なんでそんなに俺を気にかけるんだ。
母親かなんかかよ?」
「え、俺も流石にこんなひねくれた息子欲しくないっすけど……」
「なんで俺が断られたみたいな感じになってるんだおい」
クラスでもこんなやり取りをするのは堂上しかいない。
それ以外のやつはだいたいはれものみたいに扱ってくれる。
確かにみんなから距離を置かれるのは楽でいいけど、こういうふうに会話をするのが嫌いなわけじゃない。
「あんた、てっきりクラスでは浮いているのかと思ったわ」
そこで、被瀬が意外そうに話す。
まぁ、確かに俺の評判はだいぶ悪い。
この学校はランキング戦主義なところがあり、校内で偉いやつは大体ランキング戦上位のやつだ。
「こいつが特殊なんだよ」
「まぁ確かにこのクラスでもむーさんに話しかけるのは俺くらいっすかねぇ」
ふーん、と返す被瀬。
俺はその考えている様子にチャンスと考え、
「堂上、ちょっとトイレ付き合ってくれよ」
「え、いやっすけ……あぁ、わかりました、行きましょうか」
一瞬どころか八割本音が出ていたように聞こえたが、堂上は何かを察したようで、了承してくれた。
「で、被瀬。
お前への返答は常に変わらずノーだ」
そう言い放って、俺は教室を出た。
☆☆☆☆☆
「それで、何を話していたんすか?」
「いや、あいつが俺をランキング戦に誘おうとしたんだよ」
トイレの中はあまり人がいなかったため、用を足しながら会話をする。
俺の言葉に少し驚く堂上だったが、すぐに納得して、
「まぁ、たしかに」
「何が確かに、だよ。
絶対に出ないわ」
堂上は、俺が能力を持っていることを知っている。
内容までは知らないにしろ、堂上は俺の実力を一部ながら知っている。
だからこそ仲良くしているでもあるんだけど。
「ランキング戦に一緒ってことは、デュオっすかね?」
「うーん、たぶんそうだと思う。
他に話しかけた人間がいるなら分かるだろ、噂かなんかで」
「噂に敏くないじゃないっすか、むーさん」
用を済ませ、手を洗いながら、
「にしても、知ってるんすかねぇ?」
「なにがだ?」
「むーさんに関して」
「それは……ないと思うんだけどなぁ」
「ま、でも知ってたら誘いたいっすもんね」
「お前も同じことを言い出すのか。
……嫌だからな」
俺の言葉と視線に苦笑いする堂上。
「嫌っすよ。
むしろ俺はむーさんがデュオに出てくれるなら戦いたいっすけどね」
「……なんでそんなに好戦的なんだよ」
「いや、実は俺も一時期むーさんを誘おうかな、と思ったんっすけど、むーさんとだと連携っていうより各個撃破、みたいなデュオになるっすよね。
それだと、優勝がちょっと遠くなるし、それならソロ出たほうがマシっす」
それなりに考えていることを知った俺は、ふーん、と適当な相槌を打ちながら、トイレを出る。
確かに、俺の超能力は連携のれの字も知らない能力だ。
……もし知っていたら厄介だな。
俺はどうにかして被瀬がどこまで知っているのかを知ることができないかと考えていた。
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