第5話
穏やかな春をのんびり過ごし、暑い夏をひんやりと乗り切り、涼し気な秋を満喫して、寒い冬をぬくぬくと楽しんだ。
ぼくは、すっかりおじいちゃんになった。
元々ふっくらしていた体は、徐々に徐々に萎んでいって、普通のハムスターくらいの大きさにまで縮まってしまった。
回し車を回すのも億劫になってきて、せっかくの二階建てなのに、二階に上ることも少なくなった。
それでも、二階にご飯が落ちていることがあると知っているぼくは、時々、本当に気が向いた時だけれど、頑張って二階に登ることがある。
回し車と金網の間に、少し体を挟ませるようにすると、自分で自分の体を持ち上げるのを、少しだけサボることができる。
ぼくのお気に入りの登り方だ。
ある日、いつものように、回し車を利用して登ろうとしたぼくは、まさか、その日以来、二階に登れなくなるとは、思いもしなかった。
登っている途中、ふとした拍子に、金網に足が引っかかって、抜けなくなってしまったのだ。
登ることもできず、かといって下りることもできなくなったぼくは、必死に叫んで助けを求めたけれど、仲間のハムスターはここにはいない。
ぼくを世話してくれる人たちも、昼間はたいがい、いないのだ。
ようやく帰ってきたおんなの人が、慌ててぼくを藁に下ろしてくれたときには、ぼくの足は、もう動かせなくなっていた。
痛いわけじゃないけれど、動かせない。
おんなの人も、続いて帰ってきたおとこの人も、困ったような、悲しいような、そんな声で「だいふく、」と、ぼくを呼ぶ。
「だいふくも、もう年だもんねー……」と漏らすおんなの人に、おとこの人は溜め息を返して、そうっとぼくの背を撫ぜた。
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