第3話
「着いたよー」という声とともに、ケージの蓋が開けられた。
夢見心地だったぼくは、いつもよりも少しだけ機敏に顔を上げる。
ぼくが入ったケージの横には、二階建ての小屋が鎮座していた。
「お兄ちゃんが来たから、小屋に入れて貰おうねー」と言ったおんなの人と入れ替わるように、男のひとが僕を覗き込む。
「おお……、随分大きいの買ってきたなぁ」と低い声が聞こえて、ぼくは二階建ての小屋へと移動させられた。
真新しい藁の匂いに満ちた小屋は、少しだけ居心地が悪い。
ぼくと一緒にケージから移された、ぼくの匂いの残る藁が敷かれた場所に駆けよれば、「おっ、意外に動きが早いな」と笑い声が降ってきた。
「お兄ちゃん、大きい子が好きだし、お店で一番大きいのを選んだんだよー」
「店員さんがね、『よく転ぶ子だけど、自分で起き上がれるから大丈夫ですよ』って」
「ちょっと売れ残ってる感じだったし、このままだと処分かも、って思って、母さんと二人で決めちゃったー。……どう?」
「どう?って、……もう買っちゃってるんだし、どうもこうもないけど……いいんじゃないの」
「今日は引っ越したばかりだから、あんまり構ってやれないけど……、長生きするんだぞ、だいふく」と言いながら、ペットショップでは見たことのないご飯を追加して、おとこの人は笑った。
まるで、そう名付けるのが決まっていたかのように、ごくごく自然に、だいふく、と呼ばれた。
だから、ぼくの名前は、その時から、だいふくになったのだ。
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