第2話

ぼくを買ったのは、二人のおんなの人だった。


他のハムスターたちをじっくりと見つめたあと、隅っこの方にぽつんと置かれた、ぼくだけが入っている小さなゲージに気付いて、「この子、おっきいねぇ、お兄ちゃんにぴったりじゃない?」と、一人が言った。


もう一人が、「じゃあ、この子にする?」と応じて、店員さんを呼ぶ。


どこからかパタパタと走ってきたのは、いつもぼくたちの世話をしてくれている、おとこの店員さんだった。




「えっと、どの子ですか?」


「この子です、大きい子」


「ああ、この子ですか。ちょっと大きく育っちゃって、転んじゃうこともあるんですけど……、あっ、でも、自分で起き上がれますから大丈夫ですよっ」




ぼくをそっと持ち上げながら、店員さんが心なしか嬉しそうに二人に説明をする。


ぼくをひっくり返してお尻の状態を見せたり、耳の形を一緒に確認したり。


転んじゃったのは、ちょっと足を滑らせただけで、たまたまだから、そんな恥ずかしいことを言わないでほしかったけれど。


不満を伝えようともぞもぞ動いたものの、優し気に背中を撫でられただけだった。




店員さんが、ハムスターの飼い方を説明しようとすると、二人のおんなの人は、「飼ったことあるから大丈夫です」と、やんわりと遮った。


店員さんは、ますます嬉しそうな声色で、「そうですか、では書類だけ準備しますね」と告げて、ぼくを移動用の小さなケージへと下ろした。




ぽさ、ぽさ、と、ぼくの匂いのする敷き藁や、食べていたご飯が少し入れられて、蓋をぴちっと閉められる。


おんなの人たちが店員さんから渡された書類を確認しながら何かを書いて、ぼくは、おんなの人たちへと引き渡された。


お値段、ぽっきり二千円。


他のきょうだいたちは三千円だった気がするから、ぼくだけ少し安い。




移動中、ことことと小刻みに揺れるケージの中で、ぼくはうとうとと考えた。


いままでと同じような生活ができるのなら、どこだろうと構わない。


でもできれば、いままでよりも美味しいご飯と、広い部屋が欲しいな、と。

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