030 研修第2週 能力者補トレーニング2

「アツッ! 暑ーい!」

 熱風が顔にあたり、目を覚ました亜香里の声で、詩織も優衣も目を覚ました。

 亜香里たちの乗っている機体の扉が開いており、外から熱い空気と陽射しが入り込んでいる。

「あれ? 萩原さんと加藤さんがいませんね?」優衣が気がつく。

「先に起きて、外に出たんじゃない?」詩織はシートベルトを外して立ち上がりモニターのメッセージを確認する。


『外に出る際には着替えを忘れないように』


「リュックに入っているウエアに着替えるのね… 何よぉこれ! これはウエアではないよ!」

 詩織がリュックから取り出したウエアは、肌色のビキニと、薄い皮で出来た、ところどころが破れている超短いワンピースもどき。

「これって原始人の仮装みたいな衣装だけど、着替えなきゃダメなの? まだジャンプスーツの方がマシなんだけど」詩織は『組織』が用意した衣装に納得がいかない。

「とりあえず指示に従おうよ。『組織』が作ったプログラムだから、何か着替えなければならない理由があるのだと思う」亜香里はトレーニングという名のゲームをこなす気分でいる。

「詩織さんと亜香里さんのペアのビキニ画像は男子に高く売れますょ。アッ! イタイ、イターイ! 詩織さんまで叩かないで下さいよぉ。スマートフォンは持ち込めないから写真は撮れませんからぁ」優衣はまた余計なことを言って叩かれる。

 亜香里たち、特に詩織が文句を言いながら着用した今回のトレーニングウエア(肌色のビキニの上に破れた皮のワンピース)を着て外に出ると、そこは暑い砂地で所々に岩肌が出ている乾燥地帯で、椰子のような木やサボテンが生えている。

 それより驚いたのは自分たちが乗っていた機体?が、宇宙から地球に帰還する際に乗船する三角錐のカプセル状の宇宙船だったことである。

「どこかの星か地球のどこかに着陸したという設定ね。林の中に到着して外からは見えにくいところ。さて?ここはどこでしょう?」亜香里のシネマモードが発動する。

「この暑さでビキニの格好は正解ですね。でも『組織』は日焼け止めの配布を忘れています。バッグを確認しましたが、そんなものはありませんでした」優衣の指摘のとおり、装備に女性目線が不足している『組織』である。

「おまけに今回の持ち物はリュックではなくて、目立たない肌色のウエストバッグだからね。持ち物が見つかるとマズい環境なのかなぁ? とにかく原始人っぽい格好でいなさい、ということなのね!」詩織の不満は収まらない。

「先に外に出たはずの男子が見当たらないから、スタートは私たち3人。ということは先週と同じパターンかな?」

(今回はどんなシナリオだろう?)亜香里は今まで見た映画のシナリオに思いを巡らせる。

「私たちが肌色のビキニと破れた皮のワンピースなので、男子は腰蓑パンツ1枚ですね。パンツ1枚でどこを彷徨いているのでしょう?」

「優衣はそう言うけど、私たちも同じようなものよ。暑いけどこのままの格好で歩き回るのは心許ないわね。どうする?」

「あそこに小さな丘があるから登ってみようよ。ここよりも周りの様子が分かると思う」亜香里の提案に二人はうなずき、上り坂を歩き始めた。

 その丘は五十メートル程の高さがあり、ところどころに低木が生えている。


(宇宙船から出て来て、外は暑くて服装は原始人で同乗者が一部不明。こんな映画をずいぶん前に見た気がするけど、何だったのかなぁ?)前回のトレーニングでは警察署の看板を見るまで、自分たちの出てきたところがラクーン・シティーであることが分からなかった亜香里としては、今回は今いる場所を言い当ててリベンジしたいところである。

 丘のテッペンから見える景色は、登る前とあまり変わらず、見渡す限り同じような砂地が先の方まで続いている。

「亜香里さん、遠くに馬みたいなのが、走っていますよ」

 優衣が、ペラペラの薄いサングラスをかけて、遠くを見ながら説明する。

「優衣、それ何?」

「『組織』が用意したサングラス風の双眼鏡だと思います。ウエストバッグに入っています。他には短いナイフ、よく分からない薬、用途不明のカードが入っています」

 亜香里と詩織も、サングラス風の双眼鏡をかけてみると、はるか遠くに人の乗った馬が2頭走っている。

 いや、人っぽいけど、人ではない……

「猿だぁ!!! 今度は『猿の惑星』だ」

 大きなヒントを見たあとで答えにたどり着いたため、少し自分に悔しい亜香里である。

「ここが『猿の惑星』だとすれば、猿に見つかると人間は掴まるのでしょう? とりあえず何処かに隠れようよ」

 詩織は幼い頃にテレビで見た映画を思い出す。

「2頭の馬なら、もしかするとコーネリアスとジーラかもしれない。それなら味方になってくれるかもしれないよ」亜香里の映画脳が起動する。

「でも、そのチンパンジーは役に立たなかったんじゃない? 2匹のボスのオランウータンが悪い奴で宇宙飛行士にロボトミー手術をしたよね?」

 詩織は、猿が人間を支配するシーンが衝撃的でいろいろな場面を思い出す。

「私も何となく覚えてます。映画では猿が人間を痛めつけていたと思います。トレーニング中でも痛いのは避けたいです」優衣が痛みについて真っ当なことを言う。

「映画では猿が銃で、人間狩りをしていたよね? 宇宙飛行士の1人は最初にそれで殺されたんじゃなかったかな? 猿に近寄るのは止めて見つからないように、ここを降りようよ」

 三人は丘の上から身を潜めながら下に降りて行く。幸いなことに丘の上から見えた2匹の騎乗の猿は、こちらの方には向かって来なかった。

(敵は銃と馬を持っているけど、こっちは丸腰。このトレーニングのゴールは何? 映画のシナリオ通りだとすれば、猿との和解がエンディングではないよね?)

(丘の上でゴーグルを外したあと、砦のようなものが、ぼんやり見えたけど何だったのだろう?)

 詩織は丘を下りながら今までの事を思い返し、遠隔地の映像が見え始めたのは能力によるものかも?と思い始めていた。

 平地に降りたところで、亜香里が詩織と優衣に提案する。

「円錐のカプセルに戻ろうよ。ジャンプスーツに着替えてから猿のところへ行ってみよう!」

「なるほど、そういうシナリオもありね」詩織はニヤリとしてうなずく。

「エッ!」優衣は亜香里の提案に驚き、キョトンとした。

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