012 研修3日目 能力者の見極め

「どうですか? 能力者になれそうな新入社員は確保できそうですか?」

「あ! 統括、お疲れ様です。戻られたのですか?」

『微妙なタイミングで戻ってくるな』と思う担当である。

「ミッションの帰りに他の研修センターを回って来ましたが、今年は能力者補が出てこないかも知れません。ここはどうですか?」

「最初のうちはトレーニングテストに10人ほどの新入社員が出てきて『移動』 や 『飛翔』 までは割とついてきたのですが、『降下』 になるとガクンと人数が減りました。『潜水』 まで残ったのは、これから最終確認候補として見極める5人だけです」

「5人ですか? それぐらい確保できれば十分でしょう。その5人は行けそうですか?」

「最初からレベルの高かった小林亜香里が、こちらのアシスト無しに『返却』 を使いました。おまけにタコに巻きつかれて切羽詰まったのか『持出』も使いました。今までも、そのような新入社員はいたのですが、彼女の場合『組織』があらかじめ準備しているストレージにあるツールの中からではなくて、研修センターの調理場から包丁を持ち出しました」

「包丁? その包丁でタコロボットと戦ったのですか?」

「そうなんです。めちゃくちゃに切り刻んでくれたため、これからの修理が大変だと思います。陸に上がってからは 『タコブツを作ってた』 とか同期に言ってましたから」

「小林亜香里という子は面白いですね。鍛えれば良い能力者になりそうです」

「研修センターのモニターでチェックしていると、単なる大食らいな子にしか見えないこともないのですが…… この研修センターの食堂で、こちらが提供している素材をたくさん摂取して能力を出すのに必要な要素を取り込んでいるから、他の新入社員と比べると最初から高い能力が発揮出来ているのかも知れません」

 担当は、ちゃんと仕事を遂行していることをアピールをする。

「他の4人はどうですか?」

「はい、おそらく能力者補としてのポテンシャルは問題ないと思います。プロフィールのデータはこちらです。


 統括が座る席の前のディスプレイに、亜香里たちのデータが映し出される。

 ある一人のデータシートで統括はスクロールを止めた。

「この子は?」

「そうです。統括と一緒に困難なミッションを多く遂行した、あの方の……」

「そうなのか…… 家族ではないから、それを知って入社してきたわけではないのですね?」

「当然、家族であっても本当のことは『組織』が知らせておりませんから、分からないはずです。それと彼女の父親は……」

「なるほど、彼女はその娘さんですか? 彼なら『組織』のことを自分の娘には話していないはずです。そういう決まりですから」

「今日は、5人揃ったところでの能力を見て決めることにしましょう。(今日の記録を眺めながら)1階ではパニックにならずに全員 『潜水』 が使え、2階に上がれたみたいですね。2階では何を予定しているのですか?」

「昨日のタコロボットのようになったら危ないので、パニックにならないようなロボットを使おうと思います」


「どのロボットを使う予定なのですか? タイラント? もしくはターミネーターとか?」

「ここの2階は天井も高く、個人的にはタイラントを使いたいのですが外見が割とリアルなので、小林亜香里がまたとんでもないものを『持出』してきたりすると、他の新入社員が怪我をするかも知れません。それと比べるとターミネーターはいかにも作り物っぽいのですが、ターミネーターであればそこそこパワーもありますし、安全に戦えるのではないかと思います」

「そうですね。まだ正式に能力者補として『組織』に入ったわけではありませんし、一応、新入社員研修中なので怪我をさせられませんからね。では、ここを無事にクリア出来たら能力者補として『組織』に入ることを説明しましょう。最初に私の方から簡単な挨拶と大まかな説明をします。あとは担当の方から5人に必要な注意事項の説明と『組織』加入の承諾を取ってくれますか?」

「承知いたしました」

「ところで、昨日警報が鳴ったようですが、何かありましたか?」

「(アッ! バレている。出張中だったのに統括はよくチェックをしていますね)スミマセン。一昨日の夜、遅くまで最終テストの準備をしていてトレーニングA棟をクローズするときに遠隔ロックを掛け忘れまして。昨日の昼休みに何を考えていたのか小林亜香里と藤沢詩織が無断でトレーニングA棟に入って来たためにアラームが鳴りました。警告アナウンスを出して直ぐに退出させて、事無きを得ました」

「大丈夫ですか? たまたま能力候補者だったから良かったものの、一般の新入社員が入り込んで怪我でもしたら『組織』としては、会社に申し開きをしなければなりません。特に最近は会社がコンプライアンスに神経質になっていますから。まあ事故にならなくて良かったです。警報の件は上には報告しないでおきますから」

「ありがとうございます。そろそろ5人が動き始めたみたいです」

「では全員の動きを全部見てみたいので、全てのスクリーンをオンにして全部のカメラの映像をここに映してください。もしものことを考えてターミネーターはシングルバトルモードで稼働させてください」

「承知いたしました」

 本人たちには全く知らされていない『組織』の亜香里たちへの最終加入テストが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る