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「どうしたら、いいんだろう」
奏はとうとうその場に座り込んでしまった。無理やりその腕を抱えるようにして持ち上げた。眼前の闇がじりじりと自分達を飲み込もうと、近付いてきているような圧迫感がしたのだ。このまま置いておけば、いずれは二人ともあの闇の中へ飲み込まれてしまう気がした。
いっそのこと、二人で飲み込まれてしまった方が楽になれるのではないかとすら思う。二人は引き返すことを選択したのだから、そうする方が筋が通っている。ずっと眺めていると見えない手が此方にくるように誘っているような気さえしてくる。更に言えば、それはそんなに悪いことだと思えないようになってきていた。
もし、自分が一人でこの場に立たされていたら、きっとあの闇の中に飲み込まれただろうなと奈月は思った。しかしながら、今は大切な友人が隣に居るのだ。甘い誘いに屈してはならないと自分を諫めた。
「前向きに考えたらさ、奏の願いが叶うかもってことだよ。」
声は震えていた。これでも奈月なりに頑張って抑えたほうである。寒さと怖さからくる震えは、簡単には治まらない。
「そう、だよね。」
奏の目は真っ赤に充血していた。頬には涙が伝った跡さえある。その顔を見て、奈月は不安に押し潰されそうになる。泣きたいのは私もそうなのだ、とは、言えないが。
奏は涙を拭って、それから奈月に抱えられていた腕を自由にさせて、背筋を伸ばすように立った。虚勢と言えど、その立ち姿は美しかった。
何となく、その姿に勇気を貰ったような気さえする。
先ほどまでの考えは奈月の頭から消えていた。もう一度二人で振り返り、前を見つめた。そこには確りと道があり、あの駐車場が見えている。
「とりあえず、あそこまでは行ってみよう。」
そう言って奏は歩きだした。奈月も奏の後に続いた。振り返って確認したりはしないが、先に進むごとにきっと後ろの闇も進んできているような感じがした。奏もおそらく同じことを思っているだろう。視線を前から動かさなかった。
「奈月、ちゃんと付いてきてるよね?」
言われて気が付いた。奏よりやや後方にいる自分はきっと彼女を不安にさせてしまう事を。
「ごめん。」
奏の隣に慌てて駆け寄った。
「うん。」
返事は短かったものの、表情が多少柔らかくなったように感じる。改めて奈月は彼女の凄さを感じていた。
喜怒哀楽が分かりやすく、それでいて、切り替えが早いのだ。感情がわかりやすいだけの人なら掃いて捨てるほど居るのだが、彼女のようにスムーズに切り替えられる人はそう多くないハズだ。
事実として奈月は未だに震えを我慢するので精一杯だ。後ろを振り返れば待っているのは真っ暗闇の世界だ。その恐怖に打ち勝つべく、考えないように努める事で精一杯だ。
奈月の考えはまだ過去、恐怖を感じたあの光景に囚われていた。しかしながら、それとは対称的に、奏の視線は真っ直ぐ前を向いていた。そんな彼女を見ていると、頼もしくもあり、自分はなんて情けないんだろう、とも思った。
ちょっと前までは、弱った彼女を支えようとなけなしの勇気を振り絞ったと言うのに、あっという間に恐怖にのみ込まれ、あろうことか、助けようと思った友人に逆に、助けられてしまっている。
彼女は、私が居なくとも、上手に生きていけるのだろう。もしかしたら、私が枷になっていたりするのだろうか。ずっと嫌な考えばかりが頭を過る。こんな状況で楽しい事を考えろと言われても土台無理な話ではあるのだが。
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