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「ところでさ、奏が叶えようと思ってる願いってさ、恋愛成就とか、そんなの?」


「やっぱりわかっちゃうかー。」


 奏は頭の後ろに手を回し大袈裟な仕草をとった。


「付き合い長いもんね、そりゃバレるか」


「まぁ、ね。 んで、相手は誰なの?」


「ンフフ、サッカー部の佐野君。わかる?」


「あー、わかるわかる、てかキャプテンだったよね、確か」


「そうそう、顔立ちが良いのはもちろんなんだけど、何より面倒見が良いじゃない?」


「そうなの?」


「そうなの!じゃなきゃあんな奴とつるまないでしょ?」


 あんな奴、と言われて誰のことかと思ったが、すぐに思い至る。


「ああ、なるほど、それは一理ある。」


「でしょ、それに気づいたらかなりよく思えちゃってさ。アイツと仲良いのだけが悔やまれる。」


「確かに、なんとなくわかるかも。」


 奏にあんな奴呼ばわりされるとは、余程の事があったのかなと思った。隣の席のよしみで、不憫にも思ったが、よくよく考えると自分も隣の席であるが故の弊害に思い至り、その気持ちもあっという間に消え失せた。


「他にもいろいろあるんだよ、佐野君の素敵なところ。」


 そこから先は奏の独壇場であった。その内容のほとんどが容姿を誉めるものであったのが多少気がかりではあるが、奈月はそう言う話を持ってきてくれる奏の事が大好きだった。

 奈月も見た目は悪くない、と言うより整っている方である。奏と親友として並んで歩けるのだから、それは間違いがない。しかしながら、それはクラスで一番可愛い人と、学校、ひょっとすると地域で一番可愛い人、位の差があることは明白であった。

 更に、奈月の一歩引いてしまう性格も災いして、高校の三年間を浮わついた話の無い、灰色のまま終えようとしていた。そんな自分に色のある話と世界を見せてくれるのが奏だったのだ。それをありがたくは思えど、煩わしいものとは思わない。

 ふと、こんな風に卒業するまで過ごしていくんだろうなと奈月は思った。そして、そうあってほしいと心から願った。

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