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「おっはよん、待ってたよー?」
「ぬぉ、わざわざ玄関まで来るかね?」
肩まで伸びた明るめなブラウンの髪、背丈は奈月より少し高くい眉目秀麗な女の子がそこに立っていた。先ほどまでスマートフォンで連絡をとり有っていたのも彼女である。
「いやー、早く話したくてさ。」
「そんなに慌てなくても、私は逃げないよ?」
「そーなんだけど、良いじゃない。」
わざとらしく頬を膨らませている。他人がやったら鼻につきそうな仕草だが、彼女の場合は許せてしまうのは、その可愛さから来るものであろう。
「それで、話って?」
簡単な話なら、SNSでのやり取りで問題ないだろう。わざわざ、話があるなどと勿体つけるのだから、何かしらの理由があるのだろうと、奈月は考えていた。
「今日の夜に会えないかな?」
「夜?具体的に何時くらい?」
「んー、九時くらいなんだけど。」
歯切れが悪いと言うか、なんとも煮えきらないような返事だった。しかしながら、彼女たちが高校生であるとするならば、当然の事である。二十二時以降に出歩いていれば、彼女たちは補導の対象にもなる。受験を控えたこの時期に、何故リスクを負うような真似をしなければならないのか。
「理由による。」
奈月は端的にそう答えた。奏は親友ではあるが、近くの大学に通う人たちと交流があることを奈月は知っている。彼らと合コンだとか、そう言ったことは興味がないわけではなかったが、それよりも恐怖心の方が勝ってしまう。
「ちょっと付き合って欲しい場所があるんだけど……、そうだな、奈月は見星ヶ丘の幽霊の話、聞いたことがある?」
それには覚えがある。見星ヶ丘は同じ市内にある有名なデートスポットの一つだ。奈月たち住んでいる場所からは少し外れていて、市街地の夜景を一望できる。また、通年星が美しく見え、秋には紅葉も楽しめることもあり、海外から訪れる人もいる程だ。
「ああ、あの女の子が出るって話だっけ、確か。」
その怪談話のあらすじはこうだ。夜、あるカップルが夜景を見に見星ヶ丘の公園まで車を走らせていた。時期は秋も終わりかけで、気温がぐっと下がったそんな寒さが身を差す季節。間もなく目的地に着くといった頃合いに、助手席に座っていた女性がバスローブを羽織っただけのような女の子を見つけた。彼氏にお願いして、車を止めてもらい、声をかけるとたちまち姿を消してしまった。と言うものだった。
「そう、それなんだ!他にも種類があるのは知ってる?」
怪談話やら、噂話には尾ひれがつく事は珍しくない。大筋は同じだが、あっという間の話のはずなのに、時間が二時間進んでいたとか、女の子が化け物に変身したとか、そう言った類いの話も存在した。
「幾つかは。全部は知らないと思う。」
「そのなかの一つに、その子が何でも願い事を叶えてくれるって言うのがあるんだよね。」
「へー、そんなのが……。」
そこまで言って、言葉が止まる。何となく、彼女の願い事について心当たりがあった。
「あ、なんとなく、わかっちゃった?」
そう言いながら、教室のドアを奏は開けてくれた。教室に入り、後ろから三列目、窓際の自分の席に鞄を置いて、座った。
「なんとなく、だけど。でも、それで叶っても喜べるものかな?」
気の置けない仲と言うこともあり、奈月は思ったままを口にする。奏も奈月の性格をよく知っているから、何らかの抵抗が有るのは予測していたようだ。
「そもそも、私はこの話はあんまり信じてない。だから、これをあてにしている訳じゃないの。本当かどうか知りたいだけなの。それで叶えば儲けもん、って感じ?」
周到に用意していたのか、矢継ぎ早に奏は捲し立てた。奏が奈月の性格をよく知っているように、逆もまた然りであり、こうなった奏は梃子でも動かない事を奈月は知っていた。
「こうなったら聞かないもんね、わかったよ、それで、場所は?」
「さっすが奈月~!愛してるわ。」
世界で一番安そうな愛の言葉を受け取ったが、奏から言われると悪い気はしない。もちろん本人には言わないが。
「いいから、そう言うの。」
「ごめんごめん、怒んないで!そうね、見星ヶ丘の公園の入り口に集合で。そこから二人で丘の上の公園に向かうって感じでどう?」
「わかった、放課後また連絡もらえる?」
そこまで話すと丁度予鈴がなった。担任が席に付けと言いながら教室に入ってきた。奏はそそくさと奈月と同じ列の廊下側の席へ戻っていった。今日の学校は長くなりそうだ。
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