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外に出ると、目が覚めたときの予感は間違いじゃなかったと感じた。まだ日が上って間もないと言うに、ギラついた太陽が容赦なく奈月の白い肌を焼こうとしている。

 スマートフォンを取り出して、友達から連絡が来ていないか確認しながら学校までの道を歩いていく。

 行儀が良いとは言えないが、今時の普通の女の子は大多数がこんなものだろう。

 SNSを開いてみると、親友の奏から連絡が来ていた。時間は今日の明け方。内容を開いて見る。


『ちょっと話したいことがあるんだけど、何時くらいに学校着きそう?』


『今、家を出たから、あと15分位で着くかな。』


返事はすぐに返ってきた。


『わかったー、待ってる』


 そんな他愛もないやり取りを続けながら、登校していく。


「ちゃんと前見て歩かないとぶつかるわよ?」


急に話しかけられ、慌てて顔をあげる。

 巫女装束に身を包んだ背の高い若い女性が奈月のすぐ目の前に立っていた。


「あ、すみません、気を付けます……。」


 奈月は手に持っていたスマートフォンを慌ててブレザーのポケットにしまった。

 うむ、よろしい、と言うと彼女は手に持っていた箒で掃除を始めた。

 奈月はそのまま無言で彼女の掃除の邪魔にならないように通りすぎる。

 巫女さんがいたと言うことは、桐田神社まで来ていたということだ。スマートフォンを触っているとそんなに長くはない通学路とは言え、あっという間だなと思う。

 奈月は無神論者でもなければ、敬虔深い信徒でもない。苦しいときに助けて神様と言うことが有るか、無いか、その程度のものである。

 お正月に家族で初詣に来るくらいで、その程度の認識しかない。

 さっきの女性は桐田さん。下の名前は知らない。七五三やら、初詣やらで何度か会ってはいるが、特段親しいと言うものでもないし、興味もなかった。

 学校では男子たちに人気があり、あの手この手でお近づきになろうとして居るような奴らまで居る。

 噂によると学校の先生がフラれたとか、校長先生と二人で歩いているのを見たとか、そんな噂まで有る。

 奈月としては、彼女のことよりも、彼女についての噂話の方に興味があるのだ。

 無論、不躾に本人に確認したりはしないし、そこまで親しい間柄ではないので、彼女についてどんな噂があろうと、奈月の心が痛んだりはしなかった。

 巫女さんが見えなくなると、先ほどポケットに入れたスマートフォンを取り出して、再び連絡をとり始めた。


『校門みえた


 それだけ書いてスマートフォンをポケットに入れる。校門では生活指導の先生が立っている。歩きスマホなどしていたらそれだけで朝の時間がつぶれてしまいかねなかった。

 オハヨウゴザイマス、と端的に挨拶をして隣を潜り抜けた。校則スレスレのスカートの丈はお咎めなしで安心した。

 近年は校則がかなり緩くなってきている、いや、口うるさい先生が減ってきているように感じる。

 嬉しいような、何となく申し訳ないような、そんな事を思いながら下駄箱に靴を入れ、内履きを取り出した。

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