-2-

リビングに入ると、先ほどまで感じていた暑さが消え、程よい涼しさを感じた。

  リビングは今流行りのダイニングキッチンの構造になっていて、台所まで見渡せるようになっている。

  台所でエプロンを外して片付けている母の姿が見えた。


「おはよう、ご飯できてるからきちんと食べてね、お弁当はいつものところにあるから。」


「ん、わかった、行ってらっしゃい。」


「奈月も気を付けて行くのよ。」  


  そう言って母親は家を出ていった。

  父親は既に仕事に行っている。朝早くて、帰ってくるのも基本早い。

  別に親子仲は悪くない。むしろ円満といっていいほどだ。

  だが、普通の日常の一コマなんて、このようなことの積み重ねだろう。

  奈月はいつも通りテレビを見ながら朝食を済ませる。

  朝から気の滅入るようなニュースが取り沙汰されている。やれ、汚職がなんだとか、失言がなんだとか。


  「どうして皆こうも暇なんだろうね、あら探しする余裕があるなんて羨ましいよなぁー。」


  誰に行ったわけでもない、独り言だった。

  事実、彼女は受験生で、受験まで残り半年程度しか残されていなかった。

  神内市内にある、そこそこ進学校として名が通っている神内市立高校に入学できたのだから、地頭は良い方なのだと思う。

  ただ、東雲奈月は、勉強はあまり好きではなかった。そんな事よりも楽しいことが、高校生活には溢れていた。


  「ごちそうさまでした!」


  誰も聞いてなどいないが、奈月はそう言う事が当たり前だと思っている。感謝の気持ちを口にすることは悪いことでも、恥ずかしい事でもない。

  食べ終わった食器を片付けて、洗面台で歯を磨く。

  鏡に映った顔はいまだに眠そうだ。歯を磨き終えると、ヘアアイロンで寝癖を直しにかかる。

  自分でも容姿は悪くない方だと思っている。

  黒い艶のある髪、定番になりつつあるボブカット、つぶらな瞳に、小さい口。絶世の美女とまではいかないが、まぁまぁモテる方だと自負している。彼氏がいるかどうかは別として、基本的には可愛い方にはいるはずだ。

  そんな可愛いの原形が作られていく。いや、美しい素の形に戻っていった、とした方が正確だろう。

  たいした時間もかからず、いつも通りの自分が出来上がった。部屋に戻り、制服に着替える。

  少しよれたブラウスに袖を通す。ブレザーを上から羽織って、校則違反ギリギリを攻めた丈のスカートを履く。


  「かんせーい!!」


  特に意味もなくそう叫ぶ。ここまで来るとつい先ほどまであった眠気はどこかに消え去っていた。

  お弁当を忘れず鞄にいれ、家を出た。テレビは、消し忘れた。

  消し忘れたテレビは誰も見ていない事などお構いなしに、話続ける。


  『暑さもこれからが本番!そんな時期には涼しくなるお話でも、いかがでしょうか。』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る