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二時限目が終わった頃、隣の席のそいつは登校してきた。

 ダークブラウンの髪に、長い襟足を外に跳ねさせた、癖のある髪型。制服のシャツを第三ボタンまで開け、暑くて仕方がない、とでも言うように袖を肘上まで捲り上げている。

 鞄を乱暴に机に置いたと思えば、直ぐに教室から出ていった。


「今日も遅刻だねー、小山内君。」


 奏がそいつが出ていったのを確認してこちらへやってきて、そいつの席に座った。


「もう慣れたよね、最初は何だこいつと思ったけど。」


 小山内悠生。奈月は去年も彼と同じクラスだったので、見慣れた光景であった。最初の頃はちょっと怖いと思っていたが、特段害が有るわけでもなく、こちらから関わりを持とうとしなければ、何もしてこないような奴だ。


「毎日って訳じゃないけど定期的に遅刻するよね。」


「詳しくは知らないけど、アルバイトで夜遅くまで働いてるって噂だよ?」


「え、そうなの?家庭に事情でもあるのかな?」


「詳しくは知らないって言ったでしょ?でもまぁ、若いスーツの男の人に連れられて歩いてるのを見たって人、結構居るらしいよ?」


「そこ、俺の席なんだけど。どいてもらえるか?」


 そんな話をこそこそしていると、気づけば噂の本人が戻ってきていた。二人の鼓動がいつもの数倍早くなり、冷たい汗が背中を伝う感じがした。


「あ、ごめんね、小山内君。」


「いや、別に嫌な訳じゃない。そろそろ鐘が鳴るからさ。」


「だよね、それじゃ奈月、またあとで!」


 奏はそう言い残して自分の席に戻っていった。残された奈月はどこか気まずい空気に耐えきれず、一言だけ聞いてみた。


「聞こえてた?」


 返事はない。きっと怒らせてしまったのだろうか、聞こえてたか~、そらそうだよね、など嫌な考えて頭がいっぱいになった。


「それ、俺に聞いてる?」


「流れからしてそうでしょ。」


「コイバナでもしてたのか?お前ら本当好きだよな、そう言うの。聞こえてたとしても誰にも言わねーから安心しろよ。」


「ありがと……。」


 どうやら聞こえていなかったようで安心した。しかしながら、罰が悪い事に変わりはない。

 本当に今日の学校は長くなりそうだ。

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