間章 決別

  間章 決別


 風魔小鈴――風子と暮らし始めて、一年が過ぎ去ろうとしていた。

「うん、大丈夫だよ、姉さん。……うん、一年だし、一回そっちに帰ろうと思う。うん、じゃあね」

 通話を切る。

 姉さんは、無事に……サヴァイブという大会で一年生にして優勝を勝ち得たらしい。

 それが誇らしくも、惨めに思ってしまう。

「……その顔。まだ忘れられないっすか?」

「うん、まあね……」

 裏試合で初めての敗北は――魔導士だった。

 炎などを操る魔導士――六道玄に、良いようにやられてしまったからだ。

 思い知らされたのは、魔導器のない自分と相手の力量。

 ああも、俺の魔術が軽くあしらわれたのは初めてで。

 強くなった、と思ったのに……姉さんのいる領域は、六道玄達魔導士の、更に上だと分かって……へこんでしまう。

「……」

 やっぱり、そうなのだろうか。

 俺は、できそこない、なのだろうか。

「違うっすよ、黎明」

 そっと、風子さんが抱きしめてくれる。

「黎明は悪くないっす。……それと、今日で、お別れを言わなきゃいけないっす」

「え?」

「……魔導士として、学校にスカウトされたんっすよ。お恥ずかしながら」

 それを聞いた瞬間、俺は彼女の手を取っていた。

「え?」

「やったね、風子! このために頑張ってきたんだし!」

「……おや、寂しがってはくれないみたいっすね」

「寂しいよ。……でも、それ以上に嬉しいんだ。風子は強いから、何で認められないのか分からなくて。でも、ようやく分かってもらえたんだよね? それが、俺には嬉しいんだ。自分のことのように」

「お人よし」

 こつん、と額を指先で弾かれ、彼女は苦笑する。

「ここ、三月まで住めるようにしといたっすから。一度、実家に戻ってみたらどうっすか?」

「……うん。俺は、ちゃんと暮らすことができた。だから、実家とは、縁を切ろうと思う」

「姉さんは、いいんっすか?」

「……それだけが気になるけど、でもやらないとだめだ。あんな温い日々に戻ったら、また……俺は弱くなっちゃうから」

「……そうっすか」

 そう微笑み、風子は穏やかに俺の頭を撫でてきた。

「いつの間にか、でかく育っちゃって」

「うん。……今までありがとう、風子」

「また会えるっすよ」

「だと、いいね」

 俺達の別れは、そんなものだった。

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