間章 光りなき日々に差す輝き


「あ……」

 今日もだ。

 殴られ、打ちすえられて、地面を転がる。

 何とか這い起きて、机に座った。

「分からないのか、愚図め。魔導士でも何でもない、烏丸の名前をしたごく潰しがこうして、エリートな私から教育を受けられることを感謝しなさい!」

「ありがとうございます」

「声が小さい!」

 蹴飛ばされ、また起き上がる。

「ありがとうございます……!」

「では、始めろ。卑しい魔術師のお話だ。かつて最盛期を誇った魔術師の名前は?」

「キース・アスカロン……」

「ほう、同族なので覚えていたか。まぁ当然だがな。で、何故こちらを向かない! 家柄だけのデグの棒めが! できそこない、聞いているのか!」

 こんな調子で、授業は、殴られ、蹴られ、過ぎていく。



 食事も、こんな感じだ。

「ほら、餌だ」

 おかゆが置かれてあるだけ。

 冷たいそれを食べていく。

 どんどん、体から熱が奪われていく。

 でも、殴られたところが、じんじんと熱くて……気持ちが悪い。



 そして、連れて行かれる施設。

 白いその施設の中で、ケーブルを沢山繋がれて……魔力を放出させられる。

「う、うぁ……うああああああああああああ!?」

 あふれてくる魔力と、吸い上げられる喪失感。

 悲鳴を上げても、誰も見向きもしない。

 助けてくれる誰かもいなくて。

 誰もが、まるで人形を見るように、俺を眺めていて……。



 それが、いつもの日々。

 それが、いつもの暮らし。

 けれど、ある日。その日は少し違った。

「え……?」

 女の子に、俺は出会った。

 俺と同じくらいの女の子。どこか、父さんと――入院してると聞いた、写真でしか見たことがない母さんに似ている子。

 制服――だと思うものを着ているその女の子は、不思議そうに俺を見る。

「何、たべてるの……?」

「……おかゆ」

「お米、好きなの?」

「これしか、出してもらえないから……」

 そう言うと、女の子は目をギラリと光らせた。

「お客様になんてことを……! 君、名前は?」

「……烏丸、黎明」

「え!?」

 女の子は俺を見て、驚いていた。

「君、烏丸の子なの?」

「……うん」

「……ちょっと待ってて」

 女の子が奥に消える。

 しばらくして、女の子の激しい声が近づいてきた。

「弟がいるなんて、聞いてない! しかも、ボロボロだった! 何をしてるの!」

「いや、あれは魔導器がない出来損ないで……」

「魔導器がないからなんなの!? それだけしか価値がないの!?」

「しかしだね、綾。あんなものに構っていては、魔導士として……」

「……っ!」

 女の子が駆け寄ってきて、ぎゅっと俺を抱きしめてくれた。

 甘い、香り。花のような、匂い。

「この子は、私が引き取る! 弟なんだから、文句言わないよね!」

「……綾がそうしたいなら、それをどう扱おうが構わないよ。好きにしなさい」

「する。……いこ? そんなボロボロの服もすぐに替えてあげるからね!」

「……君は、誰?」

「私は烏丸綾! 君の、お姉ちゃんだよ!」

 彼女は満面の笑みで、そう答えた。

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