第8場 遺された心の半分を、あなたに

興甫へ


 この世に望んだものは、たったひとつだった

 だが、何をしても決して叶わないのだと知った

 唯一の宝

 俺の全て

 それが目の前で貪られることに耐えられない

 殺さずにはいられなくなる

 だから、その前に

 俺は、俺を殺すことにした

 俺は死ぬ

 その道しか選べない

 だが、お前が友で本当に良かった

 頼めるのは、お前しかいない

 結架を見守ってくれ

 俺には出来なかった やりかたで

 結架が望む方法で

 いつか結架が苦しむようなことが起きたら

 救ってやってくれ

 もう俺には かなえられないから

 お前に頼む

 生きていても死んでも愛している

 俺は結架しか愛せないから死ぬ

 それでも愛しているんだ

 今でも結架を欲してしまう

 この恋慕の鎖に結架を繋ごうとしたが、

 縛られているのは俺だった

 きっと、あの夜から

 俺の音楽を星明かりと言った天使に、

 結架に魂を捧げた、あのときから

 救いは結架のもとにしかなかった

 俺の演奏を強請ねだった天使が

 あの無邪気な深い慈愛が

 俺の世界の全てとなった

 だからこそ

 結架が見つけた結架の幸福を、

 俺は受け入れられない

 壊さずにはいられない

 この愛のためには

 俺は悪魔なんだろうか?

 悪魔は滅ぼしたと思っていた

 でも、俺の内にも宿っていたのかもしれない

 興甫

 くれぐれも結架を頼む

 お前に頼るしかない俺を許してくれ

 そして、ありがとう

 俺たちの傍にいてくれて

 お前こそが本当は天使かもしれない

 折橋家は呪われているから

 そろそろ死ぬ準備をする

 紅蓮の炎が俺を焼き尽くす

 そうすれば結架は幸せになるだろうか

 俺は悪魔にしかなれなかった

 過去に戻っても、きっと何度でも同じ道を往く

 結架だけを俺の全てで愛している

 永遠に

 それだけは誰にも変えられない

 絶対に

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