第6場 祈願
自分が両親の実子ではないと知ったのは、病が全身に拡がりつつあるときだった。
亡くなった実母は、母と思っていた人の姉妹で。
自分は多胎児として生まれていて。
父母それぞれの家の後継として育てられたのだった。
──ともに生まれた きょうだいは、幸せだろうか?
病が重くなっていくと、そう考えるようになった。
そして、生きる見込みが薄れていくにつれ、その存在を自分の替わりとすべきなのではないかという想いが強まった。
だがしかし。両親に、何度も強くそう訴えても、人間の器が大きい彼らは、簡単には首を縦に振らない。快癒することを諦めないでと、逆に説得される。
だから、祖父に願った。
あちらの後継には、後妻が生んでくれたという子を据えられるはずだ。ならば、こちらの後継に、同じ遺伝子を持つ子を呼び戻そう。こちらには、もう、他に血筋をひく者が、いないのだから。
祖父の哀しげな表情を、きっと死ぬ間際にも思い出す。
「なぁ、どうしてもか?」
「ええ、どうしてもです」
そうして、祖父は連れてきてくれた。
但し、本人に断られたなら、諦めろと。
祖父は両親にも、そう話を通していたらしい。
対面した、生き別れは。
本当に。
自分と同じ姿をしていた。
ただひとつの違い以外は、すべて完全に同じ。
否、それ以外にも。
違っているところがあるのだと、話しているうちに気がついた。
それは、まるで、写真が動いているかのよう。
感情のない自分。
ただ、その動じない態度は、死に近づいている心に希望を燃やした。
両親を、家を、未来を託したい。
もうひとりの自分は頷くことなく、出て行った。けれど、拒絶もしなかった。焦ってはいけない。そうだ。まだ時間はあるのだから。
やっとのことで会わせてもらってから、もう、何週間が過ぎただろう。目が覚めない日もあるから、実際には数箇月が経っているのかもしれない。
けれど。
焦ってはいけない。
きっと、無理に求めるほどに、身を引かれてしまうだろうから。
この身の憐れさを実感してもらうには、多少の時間をかけるべきなのだ。
そうすれば、そのうちに、同じ胎内に育った者の絆が、意識に濃く見えてくるはず。
目を閉じて。
そう望む、夢を視た。
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