第4場 邂逅(4)
探し求めてきた、心を奪われる、甘い……。
「構わないよ、シューイチ。まだ予定の時間より早いくらいだ」
腕時計を見て、ミレイチェが言う。
「そう……ですか」
少し息が上がっている。楽器を吹く者は肺を鍛えているのでそう
結架は
呼吸を整える彼に向かって、今度は微かに震え出した結架が声を上げた。
「あなたは……」
「え?」
男性の視線がミレイチェを越えた。そしてペーソン夫妻を越え、フェゼリーゴ、ミケルツォ、カルミレッリ、マルガリータ、鞍木を越えて──。
彼は結架を見た。
「ああ……」
彼の大きな瞳が、十字星でも秘めているように輝いている。その目が結架を
「ようやく、お逢いできましたね」
なめらかな日本語が、彼の喉から妙なる旋律を奏でるように流れ出た。鞍木が怪訝そうに結架を見たが、彼女はまったく気がつかない。
「貴方が──オー・ボワの貴公子──?」
問いではなく確認の声を結架は発した。すると、彼の微笑に
「
そんなことはない。
迷いのない、なめらかな身のこなしや優美な仕草、穏やかで流麗とした声の響きなどは上品そのもので、幼いころから訓練を受けてきた者のそれだ。この印象を
結架は頬に血が昇るのを感じて、
──このひとを前にして、平然としているなんて。
不可解に思い、結架は周囲に視線をめぐらせた。さすがに女性であるマルガリータやレーシェンは彼に
彼の唇から、再度、日本語がすべり出た。
「願わくば、ご尊名をお聞かせください」
結架は言いよどんだ。
ようやく逢えた、というのは、熱望していた初対面の興奮からの言葉なのだろうか。
彼の声を聞けば確信できると思っていたが、結架は自信がなくなった。
「私は……
彼はその名を聞いても、微塵も揺らがなかった。
「結架さんですね。僕は、
──結架さん──。
心に銀の幕を降ろされたようだ。
結架は茫然自失した。
「──集一さん……」
惚けている結架に微笑みかけ、目礼すると、彼は口を挟めないでいるほかの仲間たちに向けて、今度は英語で名乗った。
「皆さん、お待たせしてしまい、申し訳ないことをいたしました。オーボエ奏者の集一・榊原です。どうぞ、宜しく」
マルガリータが最初に我に返った。
「あ、あら。時間にはちゃんと間に合っているもの。謝る必要なんてないわよ。ねえ、カルミレッリ」
「え? あ、ええ、そうですよ。シューイチ。気になさらないで、いいですよ!」
「ありがとうございます」
集一は、華やかな微笑みを室内に広げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます