第2話 ないはずの2ページ目

 それは奇跡の確率だったと言っていい。

 吾輩の手札は確かに尽きていたが、それは反撃の芽が全て完全に潰えていたのとはほんの少しだけ違う。

 厳密にいえば削り飛ばされた魔法陣と、凍結状態の魔法陣は、一見使用不能の状態に見えるだけで確かにそこに存在はしている。

 動くかどうかは賭けだったが、他に切れるカードがない以上、吾輩が生き残るにはそれを行使する以外に道はなかった。

 吾輩は破滅を司る魔王である。

 この魂に刻まれた【Law】により、あらゆる事象に【破滅】を付与できる。

 世界は選択の連続。分岐の繰り返し。数多に枝分かれた先に待つのが破滅なら、吾輩の力はその分岐を破滅させて回避する。

 破滅を司るということは、即ち己が破滅をも自在に操るということ。

 これは事実上の不滅。だからこそ吾輩は最強の魔王として、より上位の領域に魂を昇華できたのだ。こんなところで、わけの分からないまま終わるような吾輩ではないのである。


「ぜぇっ、はぁっ…………にっ、逃げ切っ……たのか……?」


 涼やかな風と青い空が広がる、喉かな平原。そこにぽつんと立ち尽くす漆黒の装束は悪目立ちするにも程があるが、赤い魔女の追撃はしかしなかなかやってこない。

 あれだけの力があるなら、見失っていない限り今すぐにでも飛んできているはず。それがないということは、逃げ切れた……?


「ふ……は、はは。ははははは…………」


 緊張の糸がようやく切れる。全身が脱力し、妙な笑いが腹の底からあふれ出す。

 死んだかと思った。

 でも生きている。

 生きているって素晴らしい――

 などという殊勝な心地が原因ではない。

 いや、それもなくはないのだが、原因はこれだ。


「……なんだ、これは」


 吾輩の手の平に、いつの間にか、それは。

 、であった……。

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