やどりさんと異世界に逃げた魔王の話
koko
第1話 破滅を司る魔王
「あーこら! ちょっと! 人の魔法を打ち消すんじゃないのだわ!!」
赤い髪の魔女はまるで頭上にぷんすかという擬音が出ているかのように、明確な怒りの色を見せながらそう言った。
心外である。
こと命をかけた戦闘において、そこに文句をつけられる筋合いなどない。
何なら、もしそうしなかったのであれば、今の一撃で勝負は決まっていたといってもいいだろう。
この、闇の魔界の暗黒領域より生まれ出で、あらゆる事象に破壊の限りを尽くし、魔王として認められ、【破滅】の【Law】を手に入れるに至ったこの吾輩に対し、初手ワンキルなど絶対にあってはならない。
何なのだあの魔女は。いったいどこから沸いてきた。
「……貴様、【超界者】か」
「いやいやいやいや。いいってば余計なこと言わなくて。1ページ目から専門用語を並べないで。少しは読者に気を遣いなさいよ。悪いけど、この物語はこのページで終わりなのだわ。まだあたしのターンは終わってないし、あんたのターンは永遠に回ってこない!」
初手で、あれだけの大魔法をぶっ放してきた魔女の周囲に、再び魔法陣が展開される。
おかしい。
絶対におかしい。
こんなことは有り得ない。
普通、偉大な魔術師級の力があって、それが万全な状態だったとして、この【超界域】における魔導戦闘で最初に展開できる魔法陣の数はよくて五つ、多くて七つ。
あの赤い髪の魔女は五つだった。
そのうち四つを組み合わせて術式が動き出したと思ったら、あれよあれよという間にこちらも同様に展開していた魔法陣五つのうち二つを削り飛ばすわ、対魔法防御値を減算するわ、残る三つの魔法陣のうち一つを凍結するわ、とにかくやりたい放題に動き回った挙句の果てに、直撃すれば存在滅却は間違いないであろう規模の火球が飛んできたのだから、そんなの手元に打ち消す準備があればそうするに決まっているのである。
魔女の魔法陣は残り一つで、こちとら手番を生きて迎えられただけでほっと一息つける気でいたくらいだ。
なのに魔女の周囲には再び新たな三つの魔法陣が追加されていた。
最初に残った一つはそのための術式を起動させ、消滅したが。
「あたしが削った二枚、凍結させた一枚、それからさっきのを打ち消すのにあんたが使ったのが二枚。あらあら。もう手札は尽きちゃったみたいね。ご愁傷様。このゲームにサレンダーはないのだわ。さようなら、ナントカの魔王。あたしの領地に手を出したこと、たっぷり後悔しながら…………消えちゃいなさい」
そして火球は蘇り、再び吾輩の眼前に迫ったのであった。
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