第22章 ハイランドシア

 クロームとシロに案内され森の中を進んで行く最中で、大翔と飛鳥は森に入ることを拒絶していた理由を聞いていた。

「森の中に入れようとしなかったのって、この先にエルフ達が住んでいる場所があるからか?」

「ああ、その通りだよ。私は、この森に入って来た者を追い返し、村に近づけさせないようにするのが仕事なんだ」

「良いのか? そんな仕事を任されてるのに人間を案内しても」

「君達は村に近づけても問題無いと思ったんだ」

「どうして、そう思ったんだ?」

「私の目は少し特殊でね、ヒトがまとっている色を見ることが出来るんだ」

「色? 色で何を判断するんですか?」

「そうだな、例えば、暗い色や濁っている色をしている者は、悪事を働こうとしている者がほとんどだ。逆に、明るい色をしている者は友好的で害は無いと判断しているよ」

「へぇ~、それで俺達の色が明るかったからあまり警戒する必要が無いと判断したってことか」

「ああ、とは言え、私が勝手に判断して君達を案内しているのは変わらない。皆には怒られるかもしれないな」

「えっ! それじゃあ、やっぱり私達はここから出ます。迷惑は掛けられないですよ」

 クロームの言葉を聞いて、飛鳥は慌てて来た道を引き返そうとした。

「いや、良いんだ。何故だか君達とは色々と話しをしてみたくてね。それに、怒られるといっても大したことはないさ」

「まあ、クロームさんがそう言うのであれば」

 少し迷ったが飛鳥はもう一度クロームの後を付いて行くことにした。遠慮気味な飛鳥と違い、大翔は質問を続ける。

「人間とエルフって仲が悪いのか? 人間の国を1つ滅ぼしてるんだから余程のことがあったんだろうが・・・」

「大分昔の話しらしくてね、私も詳しくは分からないんだが人間に裏切られたことが原因で今のような状態になったみたいだ」

「裏切り? どんな?」

「当時は人間とエルフは仲が良かったらしいんだが、ある日エルフの村に伝わる秘宝が無くなり騒ぎになった。村の何処を探しても見つからず、失礼だと思いながらも人間の国も調べさせて欲しいと頼んだ。しかし・・・」

「調べさせては貰えなかったのか」

 クロームは静かに頷いた。

「人間達は自分達を疑っていることに怒り、2度と関わらないように伝えた。ご先祖達は、何度も頭を下げたが聞いて貰えず、力ずくで国を追い出されそうになった。被害を出さないようにと考えた当時の長老は大人しく村に戻ろうとした。その時・・・」

 微かにだが、話しを続けるクロームの声が低くなっているような気がした。

「秘宝の存在を感じ取った長老が慌ててその場所に向かった。何人かの人間が止めようとしたが振り払って進み、秘宝を見つけた。城の宝物庫にあったそうだが紛れもなく本来エルフの村にあるはずの物だった」

「そうなると、秘宝を盗んだことに怒って国を滅ぼしたと」

「いや、それでも人間を信じようと謝って貰えれば許すつもりだったらしい。だが、謝罪の言葉は一言も無く、人間は国の宝を盗もうとする犯罪者だと言いエルフ達を攻撃してきた。そこで堪えきれなくなったご先祖達が、反撃し国を滅ぼすまで続けたそうだ」

 クロームの話しを聞き終わり、少しの間沈黙が続いた。その沈黙を破って口を先に開いたのは大翔だった。

「・・・正直、人間が悪いな。秘宝を盗んだ所か、エルフを犯罪者扱いして攻撃してきた訳だし」

「後で分かったことらしいが、長老と仲の良かった国王が秘宝を盗んだ者に殺されていたらしく国を乗っ取っていたそうだ。人間との関わりを断とうとしたご先祖達だったが、その事に気付けず国王ともを守れなかったことを長老は最後まで悔やまれていたそうだ」

「昔に起きていた事とはいえ、俺達も申し訳なくなってきたな」

「うん、何だか私達まで悪いことをしたような気分になったわ」

「言っただろ、もうかなり前に起きたことだ、君達が気にする必要は無いよ。それに今では、人間に具体的に恨みを持っているエルフの方が少ないのだからあまり気にしないでいい」

「いや、でもなぁ・・・」

 クロームの話しを聞いた大翔と飛鳥は複雑な気持ちを持っているようだ。その二人の様子を見たクロームは不思議に思いながらも、思わず笑みがこぼれていた。

「ふふっ、君達は本当に優しい人達だね」

「何だよ、急に」

「いや、やはり実際に会って話してみるのではかなり違うと思ってね。ありのままの君達を見せれば村の皆とも仲良く出来るはずだ」

「私もエルフの皆さんと仲良くしたいです。もちろん、クロームさんとも」

「ありがとう。私もそう言って貰えて嬉しいよ。そういえば、君達の名前をまだ聞いていなかったっけ?」

「あっ、すみません! そうですね、仲良くなるも何も、ちゃんと名乗らないとですよね。私は、空月飛鳥って言います。飛鳥って呼んで下さい」

「飛鳥だね、よろしく。それと敬語は使わなくて良いよ、名前も呼び捨てで構わない」

「分かった。よろしくね、クローム」

「俺は、世良大翔だ。村に着いたらいきなりナイフを突きつけられるなんてことは無いよな?」

「その・・・さっきは、悪かった。村の皆は流石にしないから安心してくれ」

 クロームは、森で最初に大翔にしたことを思い出し少し気まずそうに話した。大翔もその事を分かってわざと言っていた。

「大翔、女の子をいじめるのは良くないと思うよ」

「いや、別にいじめてる訳じゃ・・・」

 二人がクロームに簡単に自己紹介を済ますと、クロームの隣を静かに歩いていたシロがグルルル・・・と鳴き出した。

「ほら、シロもご主人様をいじめるなって怒ってるんだよ」

「えっ? マジで?」

「ああ、いや、これは構って貰いたくて鳴いてるのかもしれない。シロも2人と仲良くしたいのか?」

 クロームがそう聞くと、シロは鳴きながら首を縦に振った。

「私もシロと仲良くなりたいな。よろしくね」

「だそうだ。良かったなシロ?」

 シロは、喜んでいるのか、さっきよりも明るい声で鳴いていた。

「俺もよろしくな」

 大翔もシロにそう言ったが、そっぽを向かれてしまった。

「あれ? 何でだ?」

「やっぱり、ご主人様をいじめてたからじゃない?」

「いや、シロ、あれは別にいじめてた訳じゃないんだぞ?」

 大翔の言葉は聞こえていないような素振りで、ずっと前を向きながらシロは歩き続けた。

「おっと、いきなり嫌われたか?」

「心配しなくても、大翔が悪い人じゃないことはこの子も分かってるから大丈夫だよ」

「そうだな、これから仲良くなれば良いしな。気にしてないさ」

「本当は、少し気にしてるんじゃないの?」

「まさか・・・・・いや、ほんのちょっとだけ」

 強がっていた大翔だったが、その心情をしっかりと飛鳥に見抜かれていた。こうして、色々と話しをしている内に周りの景色が少しずつ変わってきているのが分かった。ただ、木々が並んでいた場所と違い、確かな道が現れ始め、アーチ状になった木々の道を進んで行った。すると、

「さあ、着いた。ここが私の住んでいる場所、エルフ達の住む村、ハイランドシアよ」

 予想もしていなかったエルフとの出会い、そしてエルフの村に行き着いた大翔と飛鳥。村というにはかなり広い場所に2人共驚きを隠せずにいた。そこは、何が違うのかと説明は出来なかったが、確かに人間が住む場所とは違う神秘的な場所だと2人は感じていた。

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